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試乗レポート

更新2023.11.22

秘伝の「老舗の味」は健在だ!BMWアルピナ B3リムジン アルラット試乗レポート

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中込 健太郎

「中込さん、アルピナB3乗りませんか?」

ニコル・オートモビルズからお誘いをいただいたのは昨年末のこと。日本カー・オブ・ザ・イヤー2020において「パフォーマンス・カー・オブ・ザ・イヤー」にも選ばれたばかりでなく、ドイツ本国でも「ドイツ・パフォーマンス・カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞した最新のBMW ALPINA B3(以下、アルピナB3)。何かと話題になることも多く、個人的にも気になる存在でした。

そこで「ぜひお願いします」というお返事を差し上げて、年の瀬の慌ただしい時期ではありましたが、都内から横浜を往復するコースで試乗させていただくことができました。今回の記事は、そのときの印象をまとめたものです。

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▲今回試乗させていただいたBMWアルピナ B3リムジン・アルラット。精悍ながら落ち着いた印象のアピアランスもアルピナ流と言えるだろう。案外ロードクリアランスも大きくこの状態、もちろんバンパーは車止めに擦れていない。実用性は高い

■いつにも増して試乗前日のワクワクする気持ち


クルマを試乗させていただくとなると「先代のモデルとは何が違うのだろうか?」といった興味もあります。と同時に、新しく備わった機能を発見するなど、クルマに触れるとなれば、それ自体いつも楽しみなものです。今回はいつにも増してそれが強かったのが印象的でした。

もちろんコロナ禍であまり試乗の機会もなく、私にとってはずいぶん久しぶりだった…ということがあるかもしれません。けれどもそればかりではなく、お恥ずかしい話ですが、試乗前日の私は胸いっぱいになっていたというのが正直なところなのです。まるで遠足の前の日の子どものように、翌日が楽しみでなかなか眠りにつけないほどでした。

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▲試乗会のシーン。晩秋の磐梯高原でのカット。長く緩やかなカーブと気持ちの良いアップダウンが織りなす素晴らしいドライブコース。まさにアルピナB3を連れ出して駆け回りたくなる道だ(写真提供:ニコルオートモビルズ)

いつ乗っても、実際にかなり鋭い加速を可能にする性能を持ちながらも、しっかりと角の取れた、ていねいに乗る者を高揚させるパフォーマンス。そして、昔に比べたら随分と大きくなったとは言え、ジャストなボディサイズさがもたらす独特の爽快感こそが今までのアルピナから受ける印象。そんな決して簡単に霞んで忘れてしまうことのできない体験。期待は高まりました。

そんな気持ちを胸に、アルピナ世田谷ショウルームに出かけたのでした。

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■「お帰りなさい」とアルピナB3は言う。走りはじめた瞬間にわかる格の違い


環八通り沿い、等々力にあるアルピナ世田谷ショウルームを出発すると、そのフィーリングにたちまち格の違いを見せつけられたようでした。ステアリング、わずかな段差を超えたときの懐の深いサスペンションの挙動、速度の微調整をする際のアクセル/ブレーキのフィーリング…などなど。

アルピナという特別なクルマだからといって難しいことはまったくありませんでした。自然で優しく扱いやすいのです。そしてどんな路面を走っているのかという情報もしっかりと感じ取ることができます。とは言え、何でもかんでもビシビシ「情報公開」してくるのではなく、優しくジェントルにクルマの挙動が把握できます。不快な要素を「フィルタリング」しているというか、クルマが咀嚼してドライバーに伝えてくれて、ときに巧みに翻訳してくれているかのように感じるのです。ベースとなるBMW3シリーズの素直さはしっかりと活かしつつも、クルマの作り込みには走りはじめた瞬間感銘を受けたものでした。

もちろん、そんな微低速で感じたことばかりがこのクルマの魅力ではありません。

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▲試乗車にはオプションで用意される、20インチの鍛造ホイールにピレリPゼロが組み合わされていた。この鍛造ホイール、鋳造ホイールに比べて4本で計13.7kgものばね下重量軽減にも寄与している

■節度と思想を感じるチューニング


環八通りを抜けてそのまま第三京浜へ。淀みなく、あっという間にストレスなく流れをリードする速度域に達します。それにしても、ターボの扱いが実に上手い。と同時に、秀逸だなあと感心させられる出来栄えよりも、乗る人を決して急かすことなく、ショックやラグのようなものを伴わない、実に自然な印象なのです。

X3/X4のMモデルや最新のM4クーペにも採用される、S58型 2993ccの直列6気筒エンジンをベースに、アルピナが仕立てあげたターボや冷却システムを最適化したエンジンがフロントに収まっています。ちなみにMモデルでは480ps〜510ps/6250rpmというエンジンパワーに対して、アルピナB3では462ps/5500〜7000rpmです。トルクはベース車で61.2kg-m/2600〜5600rpmであるのに対して、このアルピナB3では71.4kg-m/2500〜4500rpmへと、より実用域での扱いやすさが向上しているチューニングが施されているのです。

このように、トップパワーこそ控えめにして全域でトルクを重視して扱いやすさを優先させる傾向は、昔からのアルピナの手法といえます。しかし、この傾向、文字で示すと大したことがないようにさえ思えますが、いざ乗ってみるとさらに頷かせるものがあるのです。

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▲シリアルナンバーの入ったプレートが車内でも目を引く。これぞまさしく「あなたのために特別に作られた一台です」というメッセージ。自分だけの一台が選べるというこういうクルマも、ニーズが多様化した今の時代にはある意味でマッチしていると言えるのではないだろうか

絶対的には相当のパフォーマンスを持っていることには間違いありません。しかし、どんな速度域であっても、ステアリングを握っている者が余裕を持って運転に集中することができるのです。

速度の確認、周辺の道路状況の把握。時に挙動不審な他車などの挙動、歩行者が飛び出してきそうな路地への注意など、走行中に見落としてしまいがちな、さまざまな要素にまで余裕を持って気配りをし、走らせることができるのです。低速度で走行していると、他の多くのクルマよりもさまざまなことに気配りができるようにさえ感じるのです。そして低いエンジン回転数における速度調整の自在性の高さ、それを助けるキャパシティの大きいブレーキ、高い遮音性なども、こうしたことに大きく寄与しているかもしれません。とにかく、基本的なクルマとしての作りが安全運転をもたらす余裕を生んでいる。これははっきりと感じ取ることができました。

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▲BMW M社謹製のS58型エンジン新開発3リッター直6ターボエンジンをベースに過給機や冷却系をさらに最適化されている。とにかく極限を目指すというよりも「妥協なき最適化」がなされているという印象を強く受けるエンジン。奥ゆかしさの裡にある高揚感には流石アルピナと感心させられる

ただ、ドライブモードで「SPORTS+」を選択すると、なかなか勇ましくクルマを振り回すことも可能。以前アルファ ロメオ・ジュリア・クアドリフォリオに乗ったときに、令和の時代にあんな荒ぶるクルマがあるなんて!と胸が熱くなったことがありましたが、あれにも通じるエキサイティングな振る舞いを楽しむことも可能で、その意外性というか、振り幅の大きなキャラクターもこのクルマは秘めていることを付け加えておかねばなりません。

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■老舗の味は守られた


実はこの日、ニコル・オートモビルズの広報T氏が助手席に同乗してくださいました。限られた時間の試乗でも、さまざまな機能を試したり気づきを顕在化することができて充実した時間を過ごしました。その中で知ったこととして、実は今回試乗したアルピナB3が新体制初めてのニューモデルなのだそうです。アルピナはブルカルト・ボーフェンジーペン氏が創設、1978年に初めてのコンプリートカーを世に送り出して以来、高出力を誇らない調和の取れたパフォーマンスカーを世に送り出してきました。そして長男であるアンドレアス・ボーフェンジーペンCEOへと世代交代。つまり、このアルピナB3は、踏襲するものと新たに取り組んだものが盛り込まれた一台といえるのです。

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▲ボディの再刻印された車体番号。これもアルピナの証

「うなぎの味は保たれた」。この話を聞きながらアルピナB3のステアリングを握る私は、そんな言葉が頭を過ぎりました。うなぎやさん、火事になれば真っ先に持って逃げるのは代々受け継がれたタレの入った壺だ、と言われます。受け継がれる味こそが財産であり、宝であり看板である。それを守るためには、ただ単に昔からのものを使っていれば良いのかと言えばそうではなく「継ぎ足す」ことも大切な仕事なはず。永年継ぎ足されてきたタレと新しいタレが合わさってファンの心を繋ぎ止める「老舗の味」になる。

幾多もの効率化、業務改善などもあって昔に比べたら生産台数は増えているものの、それでも年産1700台程度の生産ペースに留めて展開しているアルピナ、大切に、妥協なく拘りを持って作り出されているアルピナ。自ら操りドライブする運転の醍醐味、そんなアルピナの魅力は、ちゃんと守られたのだなと感じました。

■突き抜けるより、ちょうどいいことの心地よさ


先にも述べたように、運転中にそれなりの速度域であっても周辺への気配りを余裕を持って行えることや、高速での旋回性も高さを実感できました。さらに、電子デバイスでサポートする安全支援技術でなく、クルマ自体の基本的な安全確保のしやすい点で、安全性が高い印象を受けました。

また、常時潤沢に発生するトルクのおかげで、現実的な巡航速度での回転数が低く、燃費への寄与も大いに期待できること。何より、鼻先が重々しかったり、ハイパワーを安全かつ効率的に地面に伝えるためにアルラッド(4WD化)されるも妙な足枷に感じるようなこともない素直な挙動、ずっと遠くまで、どこまでも走っていたい!と思わせる一台、それがアルピナB3でした。

スーパーな性能と頼りがいのある実用車を一台に。そんな都合のいい話があって良いのだろうか?というアルピナB3。決して安価とは言えないですが(車両本体価格1229万円〜)、内容を考えると決して法外な金額でもない、これはこれで極めてリーズナブルな内容であるように感じ、今事情が許せばぜひ添い遂げたいと思う。アルピナB3とはそんなクルマでした。

スタート地点に戻りクルマを降りても「良いクルマだったなあ」と、いつまでも余韻が残るのです。作り手の志、妥協しない贅沢で惜しみない作り。年の瀬に触れ、2021年はいいことがありそうだぞ!とさえ感じてしまうような豊かな気持ちになれるひととき。実に充実した試乗となりました。

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▲最高巡航速度303km /hを謳うアルピナB3。このようなクルマでは通常ガラススライディングルーフのような装備は走行安定性の観点から採用されないが、アルピナでは妥協しない。その代わり高速域での空力を考慮した整流プレートがスライディングルーフ前端に装着される。派手な演出はさほどないものの、さりげなくただならぬ性能を持つことを示すアイテムだ

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■BMW ALPINA B3 LIMOUSINE ALLRAD(ベース車両) 主なスペック


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●全長×全幅×全高:4719×1827×1440mm
●ホイールベース:2851mm
●トレッド(F/R):1577/1572mm 
●車両重量:1860kg
●エンジン形式:直列6気筒DOHCツインターボ
●総排気量:2993cc 
●ボア×ストローク:84.0×90.0mm
●圧縮比:9.3
●最高出力:462ps/5500-7000rpm 
●最大トルク:71.4kg-m/2500-4500rpm
●変速機:8速A/T 
●懸架装置(F/R):ストラット /マルチリンク
●制動装置(F/R):ベンチレーテッドディスク
●タイヤ(F/R):255/35ZR19/265/35ZR19 
●価格:1229万円
●URL:https://alpina.co.jp/models/b3/highlights/
(写真提供:ニコルオートモビルズ)


[ライター・カメラ/中込健太郎]

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