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オーナーインタビュー

更新2023.09.30

ファーストオーナーの意思を受け継ぐ若きオーナーの愛車、1988年式メルセデス・ベンツ560SEL(V126)

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松村 透

初めてオーナーインタビューの取材をしてから、これまでのべ1000人近い方にお会いしてきました。


そのなかには「クルマに選ばれたとしか思えない」エピソードを持つ方がいらっしゃいます。


今回、取材させていただいた若きエンスージアストもまさに「クルマに選ばれた」おひとり。



▲オーナーの丹羽 輝さんと、その愛車である1988年式メルセデス・ベンツ560SEL(V126)


何を隠そう、この個体、筆者自身も気になっていました(それだけに、売れたときはとてもショックでした……)。


ふとした偶然で今回、オーナーさんにお会いすることでき「自分よりも圧倒的に相応しいオーナーとして選ばれた方なんだ」。そう確信しました。


── オーナー紹介 & どのような仕事をされているのですか?



▲インパラメタリックという名のブラウン系のボディカラー。ファーストオーナーのこだわりを感じます


以前は医療関係の仕事に従事していました。どうしてもクルマに関連する仕事がしたくなって中古車販売店に転職。クルマの販売はもちろんのこと、仕入れもやりました。この仕事を通じて自分自身でもクルマの魅力を伝えてみたいと思うようになり、現在は自動車メディアの仕事に就いています。


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── クルマに興味を持ったのはいつごろですか?



▲メルセデス・ベンツといえばこのエンブレムに憧れた方も多いのでは?


「気づいたときには……」でした(笑)。


父親は若いころにBMW 2002を所有していましたし、母方の家は三菱車を乗り継いでいました。私自身も、小さい頃にWRCを観てカッコイイと思ったことがクルマに興味を持ったきっかけ、といえるかもしれません。小さいころから"戦隊モノ"や、当時流行していたポケモンにも興味を示さず、クルマオンリーでしたね。


家のクルマが三菱車だったこともあり、私自身はランエボが好きでした。私が小学校高学年〜中学生くらいのときにランエボXが発売され、「これが最後のランエボになる」と知り、そのショックからファンをやめただけでなく、クルマに対する興味も薄れてしまいました。何しろまだ子どもですから、当然ながら実車は買えません。このときばかりは「もう未来はないな」と思うほどに心が折れましたね。


── その後、またクルマ熱に火がつくできごとがあったんですね



▲ボンネットをこの角度まで開けることが可能。インシュレーターは当時モノとのことです


中学2年のときのクラス替えで、クルマの話ができる子が何人かいたんです。このことがきっかけとなり、少しずつクルマに興味を持つようになりました。高校3年生になるころには運転免許の取得を考えますし、「クルマを買う」ことに現実味が帯びてきたんですね。そこで、スマートフォンで中古車を検索してみたところ、いろいろな選択肢があることに気づいたんです。これがクルマ熱が再燃する決定打となった気がします。


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── これまでの愛車遍歴を教えてください



▲V126型のボディサイズは、全長×全幅×全高:5160×1820×1445mm


最初のクルマは、父から譲り受けた1996年式のBMW318i(E36型)の中期型です。1年半くらい所有したのですが、事故に遭ってしまいまして……。それから1996年式BMW 525i(E34型)を経て、現在の愛車であるV126型のメルセデス・ベンツ560SELです。


── BMW 5シリーズもとても大切に乗られていたそうですね



▲これは貴重!当時の自動車電話用のアンテナ


E36を壊してから少しクルマ趣味とは距離を置いていたあるとき、E34が個人売買で売りに出されているのを見つけたんです。


ベーシックな3シリーズより上級モデルにあたる5シリーズ、なかでもE34はもともと気になる存在ではありました。ボディカラーが「オックスフォードグリーン」というダークグリーンで、内装がベージュ、グレードは再量販モデルの525。まさしく自分好みの仕様でした。


「もう2度と出てこなさそうな仕様だし、どこの誰かもわからない人の手に渡る前に、自分の手で保護しなきゃ」。そして同じくE34が好きな友人にも「あの個体を保護してやってくれ」といわれ、愛車不在というこのタイミングで見つかったならこれも何かの縁だろうということで買ってしまいました。


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── 当時は大学生だったそうですね



▲ブラジルブラウンという名の内装。しかもベロア内装という貴重な1台なのです


そうなんです。大学生で20数年落ちのE34を手に入れたわけですから、清水の舞台から飛び降りて奈落の底に落ちるようなものでした。アルバイトはしていましたが、通っていた大学が医療系で実習や課題も多く、さらに自宅から離れた場所にあって思うようにできなかったんです。


果たして維持できるのだろうか……と思いましたが、何とかなるものですね。もちろんカツカツでしたが、壊さないようにクルマの扱いも自然とていねいになりますし。また、トラブルにならないように予防整備を欠かさなかったりしているうちに、何とか大きな出費もなく乗ることができました。


── そしてご本人もまさかのメルセデス・ベンツ560SELヘ



▲当時のメルセデス・ベンツのラインナップのなかで頂点に君臨していた560SEL。その貴重な生き残りでもあるのです


社会人になってからは経済的にも余裕が出てきたので、いままでやっていなかった足まわりのオーバーホールや、水回りを再度リフレッシュ。これでようやく安心してE34に乗っていけそうだと思っていた矢先、出会ってしまったんです。この560SELに。


引き継ぎ可能な2ケタナンバー、ちょっとレアな内外装の組み合わせ。外装もフレーム修正なくボディの素性が良い状態であったこと、整備記録簿がきちんと残っていて走行距離の裏付けが取れたこと、ある程度手が入っている状態であること、そしてブックレット類、説明書・保証書などが残されていること……。


こんな条件が揃った560SELが見つかればいいなぁ、と思っていた矢先に出会ってしまったのが今回の愛車というわけなんです。販売店にアポイントを取り、実車を見せてもらうことにしました。


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── お店の人の反応はいかがでしたか?



▲ベンツといえばこの顔つきというくらい一世を風靡しましたね


私のような若者が観に来たので驚かれましたね。ただ、私がE34型の5シリーズに乗っていることでお店の方と意気投合しまして。この560SELならではの良さがあると思うのですが、そのポイントもお互いに一致していました。お店の方としては「33ナンバーも含めて」次のオーナーに乗り継いで欲しかったようなんです。たまたま私はそのナンバーを引き継げる環境だったので、コイツなら任せられると思ってくれたのかもしれません。


── しかし、E34のことがありますよね?


 
▲E34と560SEL、一時的に2台持ちになっていたそうです(画像提供:丹羽輝さん)


そうなんです。確かにこの560SELは、あらゆる自分の理想がそろった個体であることは間違いなくて。だからこそ、怖くなって逃げたかったんですね。E34には満足しているし、これからも乗りつづけたいという想いは確かなんです。絶対に買わない理由を探してやる、なんとしてでも自分を諦めさせようと思っていたのですが・・・。


スペアキーの有無や記録簿の詳細、板金塗装やパネル交換の有無など、細かい外装の修理歴も事細かに見てもらいました。いってしまえば、重箱の隅をつついたんですけど、全部跳ね返されてすべて買う理由になってしまったんです。そうこうしているうちにローンの審査がとおってしまい、後に引けない状態になったんです。自分でもびっくりしました(笑)。


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── お父様には事前に相談したのですか?お母様の反応は?


 
▲当時の書類も完備。まさに「完品」な1台でもあるのです!


父には何もいいませんでした。手に入れたと知ったあとは驚いていましたね。「おまえ、BMWじゃなくてメルセデスに乗り換えたのか!」と。


父が若いころはメルセデス・ベンツ教とBMW教のような宗派があって、犬猿の仲だったのですが、父は後者のほうでした。とはいえ、60才近くなって丸くなった(笑)のか「お前のメルセデス、車内の匂いが俺のマルニを思い出すなぁ」なんていいながら隣に乗ってくれます。まだ運転はさせていないんですけどね。


母は割と肯定的なタイプなので、BMWのときも、今回も「メッチャかっこいいじゃん」といったノリです(笑)。


── BMW5シリーズからSクラスに乗り換えてみていかがですか?


 
▲長距離移動でも疲れ知らず。この味を知ってしまうと、なかなか他のメーカーに乗り換えられなくなるのも事実


「メルセデスは究極の道具」だとよくいわれますが、Fセグメントのクルマらしく、リアシートに人を乗せて長距離移動する点ではとても長けていると感じました。現代のクルマの方がいいなと思う点もありますが、560SELはストロークの長いサスペンションの恩恵で乗り心地がゆったりしていたり。電子デバイスがない時代ですから、エンジニアリングで工夫を凝らしていますよね。


 
▲ロングホイール仕様だけに、リアシートもご覧の広さ!


5シリーズはスポーツセダンなので運転が楽しめるのですが、560SELが退屈かというとそれも違います。長距離移動でもとにかく疲れ知らずです。もし、東京から大阪までクルマで移動するならどちらでもokですが、これが鹿児島だとしたら迷わず560SELの方を選びますね。


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── いまでもBMW5シリーズのことを思い出しますか?


正直いってあります。そもそも、5シリーズを手放したことも後悔していますし、もっと乗ってもよかったかなといまでも思っていますから。


── 560SELを運転しながらどんな音楽を聴いているのですか?



▲CDプレイヤーは懐かしのナカミチ製


山下達郎や竹内まりや、あとはユーミンなど。父のクルマのなかで聴いていた音楽を選んでいるような気がしますね。特にロングドライブのときは。目的地の情景や匂い、移動中に聴く音楽など、いろいろな要素が凝縮される経験が「ドライブ」というイベントなのかなと思います。


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── 560SELに乗るのは主に休日がメインですか?


 
▲タイヤサイズは前後ともに205/65 R15 94V


土日が休みなので、乗る機会が多いですね。


でも……土日まで待てないときもあります。火曜日の夜あたりにふと「なんか今夜はクルマ乗りたいな」なんて思ってしまったり。私は「発作」と呼んでるんですが、ちょうど週のど真ん中の水曜日の夜に560SELでドライブして、残りあと2日頑張ろう!といったことはよくありますね。


疲れたときでも560SELに乗りたくなります。このクルマのことをマッサージ機だと思うことがあって、むしろ疲れたからこそ560SELに乗ってリフレッシュしたいですね。


── 手に入れて良かった点、苦労している点を教えてください


●良かった点


良かった点でいうとキリがないです。もともと好きなクルマでしたし、理想的な個体を手に入れることができて良かったです。


 


●苦労している点


古いクルマに乗り慣れているつもりでしたが、維持するのは一筋縄ではいかないですね。35年前のクルマですし、走行距離も24万キロを超えているので、修理や交換部品の手配など「いたちごっこ状態」です。ガソリンが高いので、燃費が悪いときついですね。下道で5km/L弱、高速だと過去最高記録が8.9km/Lでした(エアコンはオフの状態で)。




▲シートまわりのスイッチもシンプル。硬質感のあるタッチもこのクルマの魅力のひとつ


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── これまでトラブルはありましたか?


 


▲定期的にエンジンオイルが交換されており、愛情の深さを感じます


手に入れてからまだ1年弱ですが、途中で止まったことは1度もありません。自分の作業ミスでフロントガラスを割ってしまったことはありました。


── 今後のリフレッシュプランはありますか?


 


▲排気量5546cc、V型8気筒OHCエンジンの最高出力は245ps/4800rpm、最大トルクは40.6kg・m/3500rpmを発揮


過去にミッションのオーバーホールの履歴があったのですが、エンジンは手が入っていないようなんです。


オイル漏れもありますし、腰上のカムシャフトあたりが劣化することでタペット音が出てしまうんですね。今後はそのあたりをオーバーホールしつつ、バキュームホースの割れやエアの漏れを直したり、機関系や足回りにも手を入れていく予定です。


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── 予算抜きで、欲しいクルマはありますか? 


BMW M3(E36型)は欲しいですね。あとは、父親が乗っていたBMW2002を買い戻したいという想いもあります。なにしろ、私を含めた子どもたちの教育費を捻出するために手放したので……。


あとは、小さいころに憧れたランエボ。なかでも「6.5」といわれているトミー・マキネン仕様。現行車であればGRカローラですね。


その他、アウディRS6アバントのような速いステーションワゴンにも魅力を感じます。


メルセデス・ベンツとしてはこの560SELがアガリなんでしょうね。これ以上になるとW100型になってしまうので。それだとさすがに現実的ではないですよね。


── ファーストオーナーさんに伝えたいことはありますか?



▲取材時の段階で走行距離は24万キロオーバー。まだまだ現役です


33年、23万キロも乗ってきて、この個体を残してくださりありがとうございます。ちょっと珍しい内外装の選んで、ご自身でステアリングを握り、このクルマがとても気に入っていたことが「ものすごく」伝わってきます。


私自身も、その次の世代を担っている者として、きちんと手を入れ、次の世代の方につないでいけたら……と思っています。そして、あなたが本来であればもうちょっと「乗るべきだった期間」も、あなた以上にこの560SELを愛せるように手を入れ、愛着を持って乗ってあげたいなと思います。


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── 最後に、あなたにとって、愛車はどのような存在ですか?



「理想の自分であり、自分の部屋であり、自分のラジカセであり、自分を象徴するものであり、そして究極の道具および足」です。


大前提として、クルマは道具だと思っているので、最終的には"足"ということになりますね。


もはや自分の体の一部のように思っていますが、まだまだ「クルマに乗らされている」と感じることも多く、年齢や経験を重ねるにつれて560SELが似合うような人になりたいです。それこそが「理想の自分の姿」なんでしょうね。


── 取材後記



▲純正のコーナーポールも当時のまま


冒頭にも記したように、筆者自身、この個体がとても気になっていました。それがある日、"Soldout"になってしまい、とても落ち込みました。


SNSを見ていたら、タイムラインに見覚えのあるV126が。特徴的なボディカラーで、すぐに自分が買い逃した個体だと分かりました。


ダメ元でオーナーさんにメッセージをお送りし、取材をお願いしたところ、快く引き受けてくださいました。


実際にお会いしてみて、悔しいけれど(笑)筆者が所有するより、丹羽さんがオーナーになった方がこの個体も幸せだろうなと心底思いました。


少しずつクラシックの領域へと足を踏み入れつつあるW/V126型と、その同世代のメルセデス・ベンツ。


その貴重な1台は若きエンスージアストがきちんと所有して、次の世代へと引き継いでくれるでしょう。


この記事を読んでくださっている方が、もし仮に「クルマから選ばれたと感じた」あるいは「クルマから選ばれたとしたら」。


誠心誠意、クルマと接して、次の世代へと引き継ぐ責務があるのかもしれません。


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── オーナープロフィール



・お名前:丹羽 輝さん
・ご年齢:25才
・ご職業:会社員
・現在の愛車(年式およびグレード) 1988年式メルセデス・ベンツ560SEL(V126)/ボディカラー:インパラメタリック・内装:ブラジルブラウン(ベロア内装)


[ライター・撮影/松村透]

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