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オーナーインタビュー

更新2022.02.27

2人のオーナーが愛してやまないロータスエラン(M100型)の魅力と真実とは?

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松村 透

2代目ロータスエランとして1989年にデビューしたM100型。およそ7年の生産期間における総生産台数は約3800台。


ほぼ同時期にデビューし、同じ時代を歩んできたマツダ ロードスターの総生産台数は2000年5月の時点で約53万台を記録。ギネス世界記録認定となるほど、2シーターオープンモデルとしては異例の大ヒット作となりました。


そのいっぽうで、2代目ロータスエラン(以下、M100エラン)はどちらかというと稀少車の部類に入るモデルといえるでしょう。現存し、さらに現役マシンとして乗られている個体は、日本はもとより海外でもかなり限られてくるのではないでしょうか。


今回、ご縁あって2人のM100エランオーナーさんの取材が実現しました。奇しくも、お二人ともに自動車業界に身を置くプロフェッショナル。プロの視点でM100エランの魅力、所有するうえで苦労している点などを存分に語っていただきました。


── オーナーご紹介&どんな仕事をされているのですか?



▲[左]目時和人さん:1996年式ロータスエランS2/[右]中尾 博さん:1992年式ロータスエランSE

●中尾博さん(右/以下、中尾さん):


ある自動車メーカーに在籍しています。デザインや商品企画業務等を経て、現在は広報部に在籍。コーポレートデザインの関連の業務を担当しています。


●目時和人さん(左/以下、目時さん):


私も、ある自動車メーカーでエンジンの開発業務をしています。プライベートでM100エランのメンテナンスも行っています。


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── お二人が輸入車に乗ろうと思ったきっかけは何でしたか?



▲2台のM100エランが並ぶ光景はいまや貴重といえる

●中尾さん:


実は輸入車だということをあまり意識してないで乗ってきたんです。輸入車/日本車というより「気に入ったクルマに乗っている」という感覚です。たまたまM100エランが輸入車だった・・・というわけです。



▲日本に正規輸入されたのはいすゞ製のターボエンジンを搭載したSEのみ(中尾さんの個体は新車並行車)

●目時さん:


私も中尾さんと同様に「好きなクルマだから乗っている」という感覚です。輸入車といってもクルマという構造には変わりはないので、エンジニアとして好きなクルマに乗りたいと思い、選んだ結果がM100エランだったんです。



▲800台の限定生産の1台である目時さんのS2

── お二人がクルマを選ぶ際の基準はありますか?愛車遍歴もぜひ教えてください


●中尾さん:


私はやはりデザインが気になるポイントですね。「全体からカッコイイ雰囲気を醸し出している」クルマが好きです。それと、どちらかというと凝縮感のある小さなクルマが好みですね。


5万円そこそこで買ったトヨタのコロナ1700SLを皮切りに、これまで20台くらいのクルマを乗り継いでいました。サバンナRX-7(SA)やバラードスポーツCR-X(無限フルエアロ仕様)、ゴルフ2GTI、いすゞジェミニ、BMWミニなどを乗り継いできました。いまはこのM100エランと、GRヤリス RZ ハイパフォーマンス ファーストエディションを所有しています。これまでの愛車遍歴において、大きなクルマは1台もありません。



▲リトラクタブルヘッドライトのスイッチをオンにすると表情が変わる点もM100エランの魅力のひとつ


▲中尾さんのM100エランSEの内装。ボディと同系色の鮮やかなイエローのトリムが目をひく

●目時さん:


せっかく自分でお金を払って維持するわけですから、まず「美しくあること」が大事かなと思います。そうなると必然的にクーペか2ドアのクルマになってしまうんですね。


この種のクルマに乗っていると、お子さんが「スポーツカーだぜ」といった視線を投げかげてくれるんです。私がM100エランを走らせることで、子どもたちにも何らかの影響が与えられたらと思いますね。これまでの愛車遍歴は、10万円で買った初代アルトワークスにはじまり、もう1台アルトワークスを乗り継いで、サバンナRX-7(FC3S)のエンジンを自ら(!!!)NA化&ブリッジポート化。800回転のアイドリングでエアコンも使えて日常の足にも使えて・・・といった仕様を造ったりしていましたね。それから縁あってこのM100エランです。



▲M100エランのボディサイズは全長×全幅×全高3803×1732×1254mm。日本では3ナンバー登録となる


▲目時さんのM100エランS2の内装。SEとのパワーウィンドウスイッチ類の配置の違いなど、細かな改良にも注目

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── 現在の愛車を手に入れるきっかけは何でしたか?



▲中尾さんのSE(左)と目時さんのS2(右)。リアから眺めるとワイドボディであることに改めて気づかされる

●中尾さん:


仕事を通じてM100エランの実車を見る機会があり、スタイル、スタビリティともによさそうなクルマだなという印象を持ったことがきっかけです。


いすゞ製のエンジンを積んでいるところも購入の決め手でしたね。バブルのころに開発されたエンジンで「4気筒版のRB26DETTエンジン」なんていわれたくらいよくできているんです。


手に入れて今年で30年経つのでいろいろ大変なこともありますが、いざ走らせるとつくづく「イイクルマだな」と思いますね。



▲いすゞ製の1.6L 直列4気筒ターボエンジン。最高出力は165馬力

●目時さん:


M100エランの存在を知ったのは中学生のときでした。クルマ好きの友人が持っていた徳大寺有恒さんの著書「間違いないだらけの輸入車選び」という本を読ませてもらったら載っていたんです。徳大寺さんの評価はそれほどではなかったんですが、クルマの写真を見ているうちに興味が芽生えてきて・・・。その後、通学途中でホンモノのM100エランを見掛けたんです。これはカッコイイなと。


当時はまだネットもないし、自転車でクルマ見つけては写真を撮ったり、当時の正規ディーラーであるアトランティック商事さんのショールームに行って外から眺めたりしていました。


この個体との出会いは10数年前。見つけたのは私ではなく、デザイン関係の仕事をしている妻でした。売られていたお店は住まいからかなり離れていたのですが、新幹線代をバっと出してきて「観にいってこい」と(笑)。その足で現地に向かい、その場で契約してしまいました。



▲いすゞ製のエンジンを横置きに搭載。正規輸入車はターボエンジンのみだが、NAも設定されていた

── 現在の愛車を魅力や手に入れて良かった点、苦労している点を教えてください


●中尾さん:


◆M100エランの魅力と手に入れて良かった点


M100エランの走りとデザインが魅力ですね。


ギュッと引き締まった凝縮感のあるデザインと、それに見合ったミズスマシのような走りを堪能できる点です。走りの印象でいうとホンダのCR-Xに近いかもしれませんが、M100エランの方が安定していますね。ホイールベースが短いわりにサスペンションのアーム類が長いので、すごく脚の動きがいいんです。そのため、CR-Xのように峠道の下り坂でもスピンする心配もありませんし。


FFなのにハンドリングマシーンだし、パワーオンでもオーバーステアリングにならないですし。そこはロータス側としてもセールスポイントだったようです。



▲リアからの眺めも美しい。塗装も当時のまま。オリジナルコンディションを色濃く残す中尾さんのM100エラン

◆苦労している点


やはりメンテナンスに関して苦労しましたね。私のM100エランは並行車なので修理工場も探さなくてはなりませんでしたから。いまは目時さんがいらっしゃるので心強いです。


造られてから30年も経てば壊れるのは当たり前です。でも、それほど壊れる類いのクルマではないと思います。エンジンだって丈夫だし、当時のロータスが多額の投資をして造られたクルマなんです。そのおかげでクルマそのものがしっかりと設計されていますし、そんなに壊れることはありません。


困ることといえば、ぶつけてしまった場合にFRPの部分を直すのが大変だと思います。


◎新品の部品はいまも入手可能ですか?


フロントセクションはまだ入手できます。リアセクションは出るものと出ないものがありますね。電装系や内装系はほぼ出ません。これはM100エランに限らず、この年代のクルマ共通の悩みかもしれません。


◎オープンカーゆえの悩みでもある雨漏りは・・・?


最初はしませんでしたが、最近は雨漏りしますね。これくらいは想定内です。雨の日は基本的に乗りませんし。



▲ボディパネルと一体成形されているM100エランのリアスポイラー。本国仕様にはハイマウントストップランプが装備されていない

●目時さん:


◆M100エランの魅力と手に入れて良かった点


もうすべてですね(笑)。


クルマに乗っていて季節を感じられる点も魅力です。M100エランを手に入れたらぜったいに走りたいと思っていた街道があって、春になるとここの桜並木をオープンで走るのが夢でした。ただ、手に入れたのは夏だったんですけどね(苦笑)。結局、この夢は翌年の春に実現することができました。桜並木のなかを走ることができる期間ってホンのわずかなんですよね。そのことを改めて実感しました。



▲見た目はほぼSEと同じに見えるS2のリアビュー。だがしかし・・・?

◆苦労している点


辛いと思ったことがないんです。これまで乗ってきたクルマがまんべんなく壊れたので、それらに比べたら楽な方です。ごく一般の方からすれば苦労にあたるかもしれませんが(笑)。


このM100エランを手に入れた時点で20年落ちでしたから、トラブルが起きてあたりまえって腹をくくって乗っているんです。


基本的にすべて自分でメンテナンスしていますし、この個体を手に入れてから別に部品取り車を手に入れ「全バラ」して、あらゆる箇所の構造を調べました。すべてイギリスから直接部品も取り寄せて自分で重整備もおこなっていますし、それほど苦労だと感じることはないんです。


◎奥様のご理解は?


妻もM100エランのデザインが好きなので、私が所有していることに反対はしていません。一緒に乗って出掛けたりもしますし。多少の不便さはありますが、他のクルマでは味わえない体験も多いですからね。



▲SEとはあきらかに異なる点が1つある。それはリアスポイラーにハイマウントストップランプが装備されている点だ。正規輸入時には日本向けの製造ラインがあったという

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── お互いの愛車を見て「自分のクルマよりすごいな」と思った点を教えてください


●中尾さんから観た目時さんのM100エランの印象は?


毎日乗られている点ですね。通勤を含めて日常の足にしていることです。私は週に1度、短くても30分〜1時間は乗るようにしていますが・・・。


目時さんはさまざまな工夫と苦労を重ねて修理されていらっしゃいます。そのおかげで私もすごく助かっていますよ。オーナー(目時)さんがきちんとメンテナンスをして、通勤を含めて毎日乗って・・・とても幸せなM100エランだなと思いますね。



▲中尾さんのM100エランの走行距離はマイル表示。現在は約4万マイル、6万4千キロ。その多くはオープンにした状態で走らせてきたという

 


●目時さんから観た中尾さんのM100エランの印象は?


ワンオーナー車という点ですね。この個体の場合、ヒストリーがしっかりとしていますから。私のM100エランは4オーナー目ですし、過去の3人のオーナーさんがどのようにメンテナンスしてきたかまで追いきれないんです。


それと、30年経っても構造として破綻してないっていうことですね。SEとS2の違いはあるとしても、機能的に破綻せずに残ったということはロータスが正しいことをやった何よりの裏付けだと思うんです。



▲目時さんのM100エランのメーターはkm表示となり、現在の走行距離は約9万6千キロ。ダッシュボードに後付けのブースト計が備わる

●お二人とも主治医探しは大変でしたか?


(中尾さん&目時さん)ロータスの正規輸入が途切れていた時期があって、ちょうどM100エランが該当しているんです。他にもエリーゼS1やエスプリの最後のあたり・・・。このあたりのモデルはメンテナンス先を見つけるのが大変です。



▲目時さんのM100エランS2のダッシュボードには、800台中391台目に造られたことを示すシリアルプレートが装着されていた

── お互いの愛車を見て「俺のクルマの方がイケてるな」と思った点を教えてください(笑)


●中尾さん:


新車ワンオーナーなので、メンテナンスや関連する履歴などがはっきりしている点でしょうか。あと、オリジナルを重視しているので新車当時のコンディションを維持しつつ、30年分の経年劣化を経た状態がこの個体・・・なのかなと思います。



▲中尾さんのM100エランは純正工具を含めたまさに「完品」の状態。取材をつづけていると、長きに渡りワンオーナー車のクルマは完品のものが多いように思う

●目時さん:


私の場合、思い切りチューニングしていたクルマに乗っていたので、部品が出なければ代わりのクルマを探すしかないんですね。その点、このM100エランは部品もイギリスから取り寄せれば何とかなりますし、自分でメンテナンスしてコンディションを維持できているところでしょうか。



▲目時さんのM100エランに装着されているマフラーはタイコ部分のみオートジュエル製のものを流用。触媒以降の部分はワンオフで製作したものだという(タイコ部分はマフラーのサウンドを調整するために市販のタイコを10本以上試したなかでベストなものを装着)

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── 予算抜きで、欲しいクルマBEST3はありますか? (上がりの1台も含む)


●中尾さん:


2位.フェラーリ288GTO
1位.ランチア ストラトス
上がりの1台.やはりこのM100エランですね


●目時さん:


欲しいクルマっていうのはないんです。このM100エランがアガリのクルマですね


── お二人にとって、現在の愛車はどんな存在ですか?


●中尾さん:


いい相棒ですよね、もう長い付き合いですし(今年で30年)、いつも自宅の駐車場いるのがあたりまえなので。今となってはもう「いい相棒」であることに尽きますね。



▲オーストリッチの毛ばたきを愛用する中尾さん。しかも2本というのがポイント。都度、2本の毛ばたきをポンポンと叩き合わせて毛に付着した不純物をはらうのだ

●目時さん:


唯一無二の存在でしょうか。


自分で全バラして勝手知ったるクルマなので、ちょっと異音がすればだいたいどこが調子が悪いのか分かりますし。インフォメーション量が非常に多いクルマので・・・。妻と一緒ですね(笑)。


でもインフォメーション量が多いのって大事で、壊れる寸前まで分からないより、何か調子が悪いって教えてくれる方がいいですね。



▲M100エランの全長×全幅×全高3803×1732×1254mmに対して、ユーノスロードスターは全長×全幅×全高3970×1675×1235mm、ホイールベースは2250/2265mm。この数字を並べた考察も楽しめそうだ

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── 取材後記



▲中尾さんと目時さん、アプローチの方法は異なれど、M100エランへの深い愛情は同じだ

30年間、新車ワンオーナーでM100エランを所有する中尾さん。そして、憧れのクルマを手に入れ、全バラしてクルマの構造を理解し、中尾さんのM100エランの主治医である目時さん。


対談形式だからこそ見えてきた、知られざるM100エランの真実。


それはシャーシおよびサスペンションの設計や構造、ボディのディメンション、デザインにいたるまで・・・。当時のロータスが大真面目に、エランの名を冠した同社の新しい提案として世に問うたクルマがM100エランであったと初めて知ることとなりました。



▲中尾さんのM100エランコレクションを持参していただいた。貴重なプレスインフォメーションと当時のカタログ。保存用はきちんとビニール袋に収められている


▲大切なコレクションに触れるときは手袋を装着。これもコレクターの嗜みであり作法といえる

自動車の設計や整備など、仕事として深く関わる方であれば、当時の時点でM100エランの本質を見抜くことができたのでしょう。中尾さんや目時さんのように。しかし、一般のユーザーにとってはわかりにくい、マニアックなモデルと映ってしまったようです。FFのライトウェイトオープンスポーツ・・・。日本市場でインテグラタイプRがデビューするのはもう少し先。当時はユーノスロードスターが飛ぶように売れていた時代。それよりも何倍も高価で、しかもFFという点もなかなか市場では受け容れてなかったようです。



▲写真が趣味という中尾さん。その腕前はプロカメラマンが太鼓判を押すほどだ(画像提供:中尾博さん)

むしろ、その後ロータスからデビューしたエリーゼシリーズの方がユーザーに理解されやすいパッケージだったというのはなんとも皮肉な話です。


2人の自動車のプロフェッショナルを魅了するM100ロータスエランの真実は、FFという前輪駆動で理想のスポーツカーを仕立てたらどうなるか?当時の開発陣がこのことをとことんまで突き詰めた果てのクルマ(作品)といえるのかもしれません。

イベントなどを含め、M100エランをじっくり観る機会は限られるかもしれません。しかし、幸運にもその機会に恵まれたとしたら・・・当時の開発陣がこのクルマに込めたであろうメッセージをじっくりとチェックしてみてください。


カタログ数値や短時間のインプレッションでは決して見えてこないそのクルマの本質・・・。その事実を、M100エランと中尾さん、目時さんとお会いしたことで改めて痛感した取材となりました。


── オーナープロフィール


お名前:中尾 博さん
ご年齢:59才
ご職業:会社員(自動車会社勤務)
現在の愛車:1992年式ロータスエランSE



▲1992年式ロータスエランSEとオーナーの中尾 博さん(59才)

お名前:目時和人さん
ご年齢:43才
ご職業:自動車会社派遣エンジニア
現在の愛車:1996年式ロータスエランS2(後期型)



▲1996年式ロータスエランS2(後期型)とオーナーの目時和人さん(43才)

[ライター・撮影/松村透]

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