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ドイツ現地レポ

更新2021.05.13

ドイツのEV開発ベンチャー「e.GO」はコロナを生き抜けるのか?ドイツ現地からレポート

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守屋 健

突然ですが「自動車関連のベンチャー企業」と聞いたとき、どんなことを想像しますか?現在の日本においてもっとも関心が高く、様々なベンチャー企業がしのぎを削っている分野は、やはり「自動運転」とそれを実現するためのAIやシステムの開発、ということになるでしょうか。



ヨーロッパ随一の自動車大国・ドイツにおいても傾向は似ていますが、この国ではもう一段階根本の部分、つまり「EV(電気自動車)の開発」そのものを目指すベンチャー企業がいくつか存在している点が異なります。


今回のドイツ現地レポの主役は、そんなEV開発ベンチャーのひとつ、e.GOです。e.GOが生産するEVはどんなものか?その生産体制は?e.GOが目指す最終的な目標は?日本ではまだあまり馴染みのない本ブランドの「今」を紹介していきます。


■スマート・フォーツーに似ているけど4人乗り



e.GOは、2015年にアーヘン工科大学を母体とするスタートアップ企業として出発しました。最初の生産モデルは「e.GO ライフ」と名付けられた、4人乗りの小型EVです。


e.GO ライフの特徴は、EV開発ベンチャーらしい斬新な設計と「生産工場すら製品のひとつ」と豪語する、効率重視の最先端工場そのものにあります。


スタイリングから見ていきましょう。全長3345mm、全幅1747mm、全高1588mmの非常にコンパクトな3ドアハッチバックのスタイリングはスマート・フォーツーと似ていますが、フォーツーの定員2名に対しe.GO ライフは定員4名となっており、4名乗車状態でも実用的なラゲッジスペースが確保されています。後部座席を折りたためば、640リッターものラゲッジスペースを確保できます。


e.GO ライフは、アルミ製のスペースフレームに、熱可塑性プラスチックの外装を取り付ける構造で成り立っています。アルミ製スペースフレームは耐久性やねじれ剛性が高く、良好なハンドリング性能を実現するほか、将来廃車になった際の再利用性にも優れています。


車体の底面に貼り付けるように使用されているリチウムイオンバッテリーも、廃車になった際には「再処理後に太陽光発電のストレージとして再利用される」と謳っています。外装に使われているプラスチックは生成時にすでに着色された状態で加工されているため、塗装コストの大幅な削減が可能です。また紫外線や傷・へこみに強い素材のため、長年に渡り美しい外観を保てるとしています。


e.GO ライフは最高出力77hp、最高速度130km/h、1回の充電で132km(WLTPによる)という性能を発揮します。都市での使用を念頭に置いたEVとしては、必要にして十分な性能を持っているといえるでしょう。


そしてe.GO ライフの最大の特徴は、最初から「個人でのカーシェアリングを念頭に置いた設計となっていること」です。現在はまだ提供されていないサービスですが、今後希望者には「自分が利用していない時間に、他者に利用してもらうこと」が可能になるよう、順次アップデートが施されていく予定となっています。e.GOは、e.GO ライフを単なるガソリン車の代替品ではなく、新しい「都市モビリティサービスのひとつ」として捉えてデザインしているのです。


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■徹底的な高効率を目指した工場



e.GO ライフは、設計段階から生産コストの削減が目標として掲げられ、その対象は車両だけでなく工場そのものの設計にまで及んでいます。


e.GOの生産工場は従来のような大規模生産工場からの脱却を目指し、小さな面積で最大限の柔軟性を持たせるべく、建築・機械・配管・電気・材料・搬入搬出経路などのすべてを3Dモデルの中で検証・設計が行われました。その結果、図面だけに頼って建てられた従来の工場に比べて「総コストを最大35パーセント削減可能」とする工場が完成。年間1万人もの見学者が訪れることから「生産工場すら製品のひとつ」と言われるほどです。


クルマ自体にも、コスト削減の鍵はいくつも隠されています。多くの場合専用設計となるヘッドライトはあえて単純な丸型として、ヘラ・ボッシュ・ZFなどの複数のサプライヤーから納入。モーターはボッシュ製、バッテリーはBMZ製とすることで、自社開発コストの削減を図っています。また、アルミ製スペースフレームの溶接工場は組み立てライン工場と隣接させることで、輸送コストの削減も可能にしました。


これらの取り組みの結果、e.GOの生産工場は「それまで自動車生産の経験がない発展途上国でもそのままモデルとして利用可能」とされるほど、低床面積かつエネルギー消費の少ない高効率の生産ラインを完成させることができたのです。


■新型コロナ感染拡大の影響はまぬがれず



しかし、そこまで高い理想を求めた製品と工場をもってしても、スタートアップにつきものの資金繰りの難航や、新型コロナ感染拡大による各サプライヤーからの納入遅れには対抗できませんでした。


発表当時「ドイツで手に入る、もっとも安価なEV」として鳴り物入りで登場したe.GO ライフは好調な予約数を記録し、2019年には540台のe.GO ライフを販売したものの、2020年7年には破産を申請し生産ラインは停止。「e.GO Mobile AG」は一旦解散となりますが、後にオランダの投資家が過半数の株を取得して、新社名「Next.e.GO Mobile SE」として再出発しました。


2021年4月末時点の情報によれば、1年ほど停止していた生産ラインも、2021年夏に再稼働するという発表がなされています。2021年5月現在、e.GOの公式サイトでは試乗や予約の受け付けを開始するなど、メーカーの動きは再び活発化しているようです。


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■自動車メーカーがこれから「デザイン」しなければならないもの



かつて自動車の生産は、規模の大きい工場を持った大企業を中心に、ある程度の数を作らなければ採算が取れない仕組みの中で発展してきました。しかしEVにおいては、複雑な制御や機構を持たないことから市場への参入障壁も低く、ドイツだけでなく中国やタイといったアジア諸国でも、EV開発ベンチャーがいくつも名乗りを上げています。EVの生産には従来のような大規模工場を必要とせず、エネルギー消費を低く抑えられるという点においても、気候変動に神経を尖らせている現代の流れに沿っていると言えるでしょう。


自動車メーカーがクルマを作って売るだけの時代は、終わりを迎えつつあります。自動車メーカーはただ単にガソリン車をEVで代替しようとするだけでなく、クルマ社会全体を「モビリティサービス」と定義し直し、交通の自動化や生産工程の効率化、シェアリングサービスのさらなる普及などを進めていく必要に迫られています。さらに、多くのスタートアップやIT業界からの参入によって、競争は激化していく一方です。


私たちが自分のクルマを持つこと自体、過去のものとなってしまうのでしょうか。今この瞬間、クルマの歴史の転換点を迎えているのは間違いなく、私たちはこれからの数十年間で大きく「景色」が変わっていく様子を目の当たりにすることでしょう。


[ライター/守屋健]

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