コラム
更新2019.02.27
自動車雑誌の未来は?発行部数の減少を食い止めるのに必要なこと
糸井 賢一
止められない自動車雑誌の発行部数の減少
一般社団法人「日本雑誌協会」にて「印刷証明付き発行部数」が公表されている自動車雑誌は、講談社の「ベストカー」と交通タイムス社の「CARトップ」の2誌(※著作権の関係上画像にモザイクをかけております)のみになります。2008年7~9月に発行された「ベストカー」1号あたりの平均発行部数は307,000部、「CARトップ」は206,350部。昨年(2018年)7~9月に発行された「ベストカー」1号あたりの平均発行部数は224,500部、「CARトップ」は125,077部でした。この10年で「ベストカー」はおよそ27パーセントの発行部数減少、「CARトップ」はおよそ40パーセントも減少しています。程度の差はあれ、他誌も同様なのではないでしょうか。
一般社団法人 日本雑誌協会
https://www.j-magazine.or.jp/
雑誌の発行部数低下の原因は、これまで読書に費やされていた時間がSNSやソーシャルゲームといった、より手軽な娯楽に奪われたこと。出版業界の構造自体が時代にそぐわなくなったことなど、いろいろと要因があるのだと思います。しかしインターネットの普及が一番大きいことは疑いようがありません。
かつて自動車に関わる情報の通知や伝達は雑誌が担っていました。新車の発表会やイベントの報告、自動車競技のリザルトなど、発表から各雑誌のスケジュールに沿った翌号か、タイミングがあわなければ翌々号にて掲載されます。古い情報が欲しければ、収録されているバックナンバーを探して取り寄せる必要がありました。しかし現在では自動車WebメディアやSNSにて最新の情報が発表と同時に掲載され、ユーザーも熱量の高いうちに入手できます。古い情報も検索すれば楽々、入手できます。フットワークも手軽さも雑誌はインターネットに遠く及ばず、情報を求めるユーザーが離れてしまったのも至極当然の流れでしょう。
ならばコアな情報やライターの質で勝負!と、いいたいところですが、それがどれだけコアな情報であっても、また質の高いライターの手がけた文章であっても、雑誌に掲載できる情報が電子書籍やWebメディアに掲載できない道理はありません。もし車雑誌にのみ情報を掲載するといった手段を取れば、雑誌、電子書籍、Webメディアとすべてのユーザーから「不親切」と見なされ、見放されてしまいます。
電子書籍やWebメディアと雑誌の差別化は難しい。そう判断した多くの出版社は雑誌の発行部数低下分の損失を、電子書籍とWebメディアからの誘導、広告による収益で補うといった方向に舵を取りました。私も現状では一番正しい手段と考えます。ユーザーにはそれぞれ接しやすい媒体を選んでもらい、自動車情報メディアとして総合的に収益を得るしかないのでしょう。
自動車雑誌の強みは相互扶助
では、電子書籍とWebメディアがあれば雑誌は必要ないのでしょうか?私はそうは思いません。もちろん書籍という媒体を好むユーザーが一定数、いるという考えもありますが、何よりインターネットは性質上「目的の情報」は探しやすい(検索しやすい)。その反面、「目的以外の情報」は見つけにくいという性質を持っています。ユーザーは検索により目的の情報にはたやすくたどり着くものの、他の興味のある情報を見つけることが難しい。
例えば新しいWebメディアを立ち上げた、あるいは新刊を発刊したとしても、検索により目的の情報へ一目散に辿り着いてしまうユーザーに、伝えたい情報を通知する手段がないのです。大手ショッピングサイトでは同じ商品を購入した人のデータや、ユーザーの購入履歴から、興味を持つであろう商品(この場合は自動車雑誌)を提示しますが、目を通すユーザーはごく少数でしょう。
一方、書店(店舗)ならば、どうしたって色々な雑誌や書籍が目に入ります。ユーザーも、わざわざ足を運んだのですから、急ぎの用事がなければ店内を見て回るでしょう。その際、興味のある情報が載っている雑誌を見つけることができるかもしれません。A社の自動車雑誌を購入すべく訪れた書店で、たまたま手に取ったB社の自動車雑誌に知りたい情報が掲載されており、一緒に購入する。そういうケースもあると思います。インターネットでは成り立ちにくい相互扶助や購入の広がりが、書店では成り立ちます。
発行部数の減少を食い止めるには、活気のある書店が不可欠
書店で成り立つ相互扶助が、雑誌をはじめとする書籍の強みです。しかし逆にいえば書店という場がなければ、この強みは発揮できません。近年、雑誌の発行部数と同様に書店数も著しく減少し、その場は失われつつあります。
▲出版社、編集部、書店と、今後は三者による情報のやり取りが不可欠になる
「日本著者販促センター」にて公表されているデータによれば、2007年の書店数は17,098店。2017年では12,526店に減少しています。およそ26パーセントですから、10年で4店舗に1店舗が閉店していることになります。2019年の今現在は、もっと少なくなっているでしょう。
日本著者販促センター
http://www.1book.co.jp/
出版社にとって書店は書籍を売るための土台であり、生命線といっても過言ではありません。しかし、外(書店)回りを業務とする営業レベルはともかく、編集部をはじめとした製作レベルは視線が読者に向いているため、書店の重要性に気付きにくいもの。私も雑誌の編集者でしたが、日々誌面を作るだけで手一杯だったこともあり、恥ずかしながらフリーライターとなるまでその重要性に気付けませんでした。
出版社と書店は共に生き残るため、より連携を強める必要があります。現状、ポップなどの販促物の提供やサイン入り著書の提供、著者のサイン会を催すなど協力し合っていますが、状況のひっ迫具合を考えれば、もっと直接的なお金のやり取りが発生する、書店側にとってメリットのあるサービスを結ぶ時期に入っていると考えます。
例えばゲームソフトのダウンロードチケットをゲームショップやコンビニエンスストアで取り扱っているように、電子書籍版のダウンロードチケットを書店で購入できるサービスを本格運用する。雑誌を書店で購入した場合に限り、電子書籍版のダウンロードチケットを付属するなど、電子書籍の扱いに書店を含めるなどです。ユーザーからみても、代金の支払いにクレジットカードを使用しないことで個人情報流出のリスクを減らせ、またクレジットカードを所有しないお子さんでも電子書籍を入手しやすくなるといったメリットがあり、ユーザーが書店に訪れるだけの動機を生み出せるサービスだと考えます。
自動車雑誌に限らず、雑誌は単体ではなく電子書籍、Webメディアと足並みを揃える。書店で他社の雑誌と相互扶助で存在を印象づける。書店で力を発揮するため、お金の流れに書店を組み込み、共同で書籍の再活性化を図る。これが私の考える、自動車雑誌の取るべき方向性です。
次回はWebメディアの将来の展望と、記事を製作する編集部にできることを考え、語ってみたいと思います。
[ライター・画像/糸井賢一]