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コラム

更新2019.05.08

ポルシェ博士が天才と呼ばれた所以。VWの圧倒的な汎用性の高さに驚く

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鈴木 修一郎

以前、スバル360のVWの模倣説は事実無根では無いか?という記事を書いた際に、その根拠の一つとして「スバル360はフルモノコックボディであるのに対し、VWはプラットフォーム型シャシーのセミモノコック型ボディである」という指摘をしました。

20世紀前半の自動車は鋼材で梯子型のフレームを組み、そこにエンジンと駆動系の機関装置を組み付け、ボディを架装するという構造で、高級車になると自動車メーカーは梯子型フレームに機関装置を組みつけただけのベアシャシーの状態で販売し、ボディはコーチビルダーへ外注し顧客が自分の好みのデザインと内装のボディを製作させ架装していたという時代もあったといいます。現在、乗用車では無くなりましたが今でもトラックでは荷台部分を顧客の使用目的に合わせた荷台を架装する事も多く、ごくまれにベアシャシーの状態だけのトラックが仮ナンバーを付けて自走で陸送されている光景を目にしたことがあるという読者の方もおられるのではないでしょうか?

VWのプラットフォーム型シャシーは、梯子型のフレームでは無いものの1枚の鋼鈑パネルにリブを打つことで十分な強度を持たせ、1枚のフロアパネルにエンジン、駆動系、操舵装置を取り付け、ボディを被せるという構造になっています。やがてそこからフロアパネルとボディを一体にして、車体全体を剛性と強度を確保するための構造材にした「モノコック構造」へと発展するのですが、VWはその過渡期のボディとシャシーが一体となって構造材となる前の時代の設計なので、ボディとシャシーを分離する事が可能な構造になっています。


▲この通り、ボディを降ろしてシャシー単体で自立(?)しています

そのため、やろうと思えばシャシー単体のまま走行する事も可能だそうです。それゆえに日本でいう1BOXバンタイプのタイプ2やステーションワゴンのタイプ3、カルマンギア、果てはポルシェ356といった様々なバリエーションモデルや派生モデルが誕生したわけですが、安価に入手出来てシャシー単体を分離できるということは、当然それを使ったカスタマイズモデルやキットカーのベースとして重宝されるのは想像に難しくないと思います。今回は、そんなVWをベースにしたカスタマイズカーやキットカーを紹介してみたいと思います。



VWベースのカスタマイズカーと聞いて、これを真っ先にこれを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?VW BAJA(VWバハ)、BAJA BUG(バハ バグ)と呼ばれています。バグとは英語で「虫」を意味し、別名「かぶと虫」のVWタイプ1のアメリカの愛称でもあります。余談ですがディズニーのコメディ映画に意思を持ったVWがレースで活躍する「ラブ バッグ」という作品がありますが、この「バッグ」はVWの愛称である「BUG」をそのままタイトルに使った物です。

オフロード走行に対応するためノーズやテールエンドを大胆に切り落として、前後フェンダーを大幅に形状を変更できるのは、アウターボディ本体が応力の影響を受けない構造ゆえに可能な改造でしょう。BAJAとはメキシコのバハ・カリフォルニア州で開催されるオフロードレースを意味し、ラリーレイドと違い砂漠地帯を不眠不休で1000マイルを最も速く走り切る事を目的とする過酷なレースです。シンプルかつチューニングパーツが豊富で空冷エンジンのVWは現在もなおこのレースでは重宝されているようで、 「BUG CLASS」として独立したカテゴリーになっているくらいです。





中でも寄り目のVWは「バグアイ」と呼ばれ日本では筆者をを含めタミヤのオフロードRCカーで馴染みのある方も多い事かと思います。バギーといえば、ある一定の年齢の方であればオープン2シーターのデューンバギーを思いうかべる方も多いと思います。1960年代~1970年代にかけての西海岸のカスタムカー文化の象徴の一つといってもいいでしょう。



実はこれも、VWのシャシーをベースにしたキットカーです。1960年代にブルース・メイヤーズが発案し、メイヤーズ・マンクスのブランドで商品化したのがこのバギーの始まりで、その後複数のメーカーからもコピー品が販売されていたようです。諸般の事情により1971年にマンクス社は廃業してしまいますが、日本ではルパン三世のTVアニメに登場したり、こちらもタミヤのRCカーやモデルカー等で商品化され、むしろマンクス社廃業後に知名度が上がっていったという経緯があります。ちなみに筆者がこのバギーを作ったメイヤーズ・マンクス社の存在を知ったのは1990年代半ばになってからでした。



こちらはデューンバギーのレストアの作業風景で、実はこのバギーがVWのシャシーをそのまま使ってるという事がよくわかると思います。ちなみにメイヤーズ・マンクス社は当時の創業者ブルース・マンクス氏によって2000年に事業を再開、現在もVWをデューンバギーに改造するキットを新品で入手することが可能です。
MEYERS MANX:http://meyersmanx.com/

VWベースのカスタムカーといえば「クラシックカーレプリカ」というのがあります。一番有名な物は、そもそもの生い立ちがVWタイプ1の派生モデルから始まったポルシェ356だと思いますが、かつてブラジルには「MP Lafer」というかなり変化球なレプリカメーカーが存在しました。「Lafer」の読み方については媒体によって「ラファー」「ラッフェル」諸説あるようですが、筆者が子供のころ読んでいた自動車の児童書の海外メーカーの紹介ページにも出てくるくらいなので、1970~1980年代には日本市場でもそれなりに認知されていたようで、相当数日本にも入っているようです。



外観は1950年代のイギリスのクラシックカー「MG-TD」をモチーフにしています。筆者が現代の車両のシャシーにクラシックカーを模したボディを架装する「クラシックカーのレプリカ」という概念を知ったのはこのクルマがきっかけでした。MP LAFERは元々は家具工房の家具職人でクルマ好きの PERCIVAL LAFER氏の趣味でVWをベースにしたクラシックカーレプリカの製造を始めたとの事です。


▲MP LAFERのレストア風景、ここでもやはりVWのフロアパネルが出て来ます

VWベースのためオリジナルではエンジンルームとなっているフロントノーズがラゲッジスペースとなり、フロントグリルとエンジンフードのスリットはダミーでフロントグリルを外すと何もないのっぺらぼう、逆にリアのスペアタイヤ下のトランクスペースがエンジンルームとなります。デザイン的にも全く違和感なくMG-TGのディテールをVWベースで再現したというのは流石は家具職人といったところでしょうか。

ちなみに、本来の家具製造ではLAFERは現在もサンパウロ市内に3軒の直営店を持つなど、ブラジル有数の家具メーカーとして存続しているのですが、家具業界でもまた「レイファー」「ラフェール」等日本表記が安定していないようです。
LAFER:http://www.portal.lafer.com.br/

さて、以前VWとスバル360はなぜ似ているのかというテーマでVWの来歴にはポルシェ博士の意図とは別にドイツ軍が軍事転用を目論んでいた歴史があると書きましたが、やはりミリタリーメカのマニアというのは本当に業が深いと言えばいいのでしょうか……元々第二次大戦のドイツ軍の軍用車への転用が目的で設計された車両が戦後、民生用の乗用車として市販されたということは第二次大戦中のドイツ軍の軍用車両のレプリカのベースになるというのは容易に思いつくようです。


▲今回の記事には既に何度も出てきたあのフロアパネルがこの動画にも出てきます


▲インターメカニカ社のレプリカ。こちらの車両は日本にも販売業者が存在します

軍用車のミリタリーモデルやイラストでは必ずモチーフされるだけに、キューベルワーゲンとシュビムワーゲンは必ず一度は何かのメディアで目にされているのではないでしょうか。ちなみに「キューベル」とは「バケツ」という意味だそうで、当初の軍用車は乗降性を優先してドアを省くより、高速走行や悪路走行時に乗員が転落しないようにドアを付けたほうが合理的ではないかというアイディアから生まれた物で、キャビンが器(バケツ)状になっていることから「バケツ自動車(=キューベルワーゲン)」という名称になったそうです。

ちなみにインターメカニカ製のレプリカはFRPボディとのことで、日本のマニアからは「プラキュー」と呼ばれていると聞いたことがあるのですが、それを聞いて同社製のキューベルワーゲンレプリカは「ポリバケツ自動車!?」と笑った事があります。
インターメカニカ:http://www.intermeccanica.co.jp/






▲中にはシュビムワーゲンを自作した人もいるようです


▲詳細な製作過程はわからないのですが、こちらの車両も1968年型VWのコンポーネンツを使ったレプリカだそうで、実際に水上走行もしています

キューベルワーゲンと並んでシュビムワーゲンも様々なメディアでモチーフにされ、ミリタリーマニアでなくてもご存知の方は多いのではないでしょうか?

「シュビム(=Schwimm)」とは「泳ぐ」英語でいうスイム(=swim)に相当し、ズバリ「泳ぐ自動車」を意味します。また接岸時に上陸できるように前輪も駆動するする4輪駆動車で、悪路での高いトラクション性能に水陸両用というミリメカ好きでなくてもどこかカルトな魅力を感じてしまう物があります。

その複雑な生い立ちから軍事転用されることを前提に設計されたVWですが、こうした様々なカスタマイズやキットカーのベースとしても重宝されるなど、VWのコンポーネンツの汎用性の高さにはポルシェ博士が天才と呼ばれた所以を垣間見ることができるのではないでしょうか?

[ライター/鈴木修一郎 画像出典/YouTube]


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