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コラム

更新2018.12.26

もはやスポーツカー=パワーとスピードではない?近年のスポーツカーの存在意義とは

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鈴木 修一郎

以前、JUN MASUDAさんの記事に「スポーツカーが売れなくなりスーパーカーが売れるのはなぜか」という記述がありましたが、まかりなりとも、何度か自動車整備関連の仕事に従事し、クルマに関する執筆をするようになった身としては、輸入車国産車問わずスポーツカーが売れなくなったというのを体感的に感じるのは事実。

それどころか最近ではスーパーカーメーカーまでSUVに触手を伸ばし始めたあたり、実際のところスーパーカーメーカーもこの流れに抗うことは年々難しくなっているのではないかとすら思えてきます。スポーツカーが売れなくなった要因はさまざまあるかとは思いますが、個人的にはその最大の要因として「もはやスポーツカーの存在意義が薄らいでいるのではないか?」というのがあると思います。

年々中古のスポーツカーが高騰する現実




こんな事をいうと「何言ってる、スカイラインGT-RもRX-7も中古車市場じゃ価格が天井知らずで跳ね上がってるし、みんなスポーツカーが無くなって中古車を血眼になって探してるじゃないか」と思う方もおられる事でしょう。

でも、色々な人の話を聞いていると求めているスポーツカー像はおおむね、「2002年の真夏の悪夢」以前のスポーツカーであって、現代の時代の要請を満たしたスポーツカーではないように感じます。自動車メーカーにとってコスト、環境性能、なにより安全性やリコール問題などの現在の時代の要請を満たしつつ、スポーツカーとして存在意義の濃厚なクルマを作るのは非常に困難な、ある意味スポーツカーにとって残酷な時代になってしまったのかもしれません。

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スポーツカーに抱くものと言えば?


読者の皆さんがスポーツカーに抱くイメージといえばスピード、ハンドリング、流麗なデザイン、ハイエンドのメカニズムと言ったところでしょうか。かつてはスピードやパワー、ハンドリングといった動力性能はスポーツカーの象徴のような物であり、また特権でもあり、動力性能を得るためには、余分にお金を払い、多少の快適性や実用性を犠牲にする必要がありました。

中にはその両立を試みた「スポーツセダン」というカテゴリーも存在しますが、かつて「羊の皮を被った狼」と呼ばれた国産車を代表するスポーツセダンのスカイラインGTは、一方でその歴史はGTスポーツとしての動力性能と、ファミリーセダンとしての実用性の狭間でもがき苦しんだ歴史でもあります。

スピードのためにスポーツカーは不要になってしまった現在




しかし技術の進歩は目覚ましく、とくに環境性能の要請から高効率が求められた結果、今や軽自動車から高級車まで車格を問わず基本性能が非常に高くなり、場合によってはライトバンやコンパクトカーですら20~30年前のミドルクラスのスポーツカーを凌ぐ事もあると言います。かくいう筆者の1973年製造のセリカLBも、ゼロ発進の全開加速に関しては今時のターボ付き軽トールワゴンの方がよっぽど速いという有様です。今や動力性能を手に入れるのにスポーツカーである必要は無いのです。

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スポーツカーに押し寄せるイージードライブ化の波


それどころか、スポーツカーとスポーツカー以外のクルマの逆転現象ともいうべき事象も発生しています。国産車が黄金期を向かえた90年代でさえ200馬力を超えるクルマはごく限られ、当時の自主規制いっぱいの280馬力のクルマと言えばごく一部のフラッグシップモデルのスポーツカーに限られていました。

ところが現在はどうでしょう。もはやフルサイズセダンやミニバンでも200馬力300馬力は当たり前、300馬力のSUVや400馬力のフォーマルセダンやなんてのも珍しくありません。



海外に目を向ければかつて当時現役F1パイロットだったゲルハルト・ベルガーをして「雨の日には乗りたくない」と言わしめ、4650万円もしながらカーラジオですらオプション扱いだったスペチアーレのフェラーリF40ですら「僅かに」478馬力です。この程度のスペックは今やセダンやSUVでも珍しくありません。

かつては汗をかきながらステアリングにしがみついて、ヒール&トゥーを駆使し、スピンと隣り合わせだったスピード領域も、今では大人4人と荷物を載せてエアコンの効いた車内でDVDシアターを堪能しながらフルオートマチックと全輪制御で快適かつイージーにこなせてしまうから恐ろしい時代になったものです。

消えゆく運命の3ペダルMT



一方、スポーツカーといえばかつては走り屋の象徴だった3ペダルMTがハイエンドモデルから次々に消滅し、多段変速トルクコンバーター式フルオートマチックかせいぜい2ペダルセミATに移行し、3ペダル式は世界的にも少数派になりつつあります。

今やフェラーリがパワステはおろか、クラッチレスどころか変速までフルオートでスタビリティコントロールも搭載しクラウンでも運転するような楽チン仕様になったかと思えば、今度はクラウンがニュルブルクリンクを走りこんでラップタイムに挑むようになるとは…。筆者が免許を取った1990年代半ばには考えもしませんでした。

2000年頃まではよくハコスカのオーナーが「ハコスカに乗ったら、R32以降のGT-Rなんてパワステも付いて、エアコンも効いて、インジェクションでグズらないからセドリックかグロリアにでも乗っているみたいだ」と言っていたのですが、今やそのR32~R34GT-Rでさえ「MTでスタビリティコントロールも無くてストイック」と言われるくらいですからつくづく時代は変わった物です。昔は300馬力を超えるクルマと言えば仰々しい言い方をすれば「愛車と心中する覚悟がある人が乗る」という物でした。

しかし、普通の乗用車が300馬力超えも当たり前の世の中、スポーツカーがその上を目指すとなればさっそくF1に迫る600馬力、800馬力の世界になり、F1に迫るパワーのクルマをマニュアルのギアボックスと油圧クラッチで制御デバイスの介入なしに公道を走らせるというのはいくらスーパーカーメーカーと言えど企業倫理に反するということなのでしょう…

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スポーツカーの存在意義とは




では、もうスリリングでストイックなスポーツカーというのは存在意義が無いのでしょうか?スリリングかつストイックで、なおかつ安全にスポーツドライビングを堪能できるスポーツカーとして古くから珍重されている物に「ライトウェイト(小型軽量)スポーツカー」というのがあります。

近年、セダン、SUVが大排気量、高出力化が進む一方で、マツダロードスターやトヨタハチロク、果てはホンダS660、ダイハツコペン、スズキアルトワークス、ケイターハムスーパセブンR160と言ったライトウェイトスポーツカーがにわかに注目を集めているようにも思えます。パワーこそ控えめですが、限られた環境でエンジンパワーを目いっぱい使い、軽快なハンドリングでスピードよりも、プリミティブなクルマの運転自体を堪能できるという美点があります。しかも、既存の量販車のコンポーネンツを組み合わせることで安価に魅力的なハンドリングのクルマを市場に提供できるというメリットもあります。

昔はカローラレビンやサニークーペなど、量販型の小型ファミリーセダンのバリエーションとしてクーペボディをラインナップし、高出力型にチューニングされたエンジンを搭載して小型スポーツカーを仕立てるというマーケティングもありました。しかし軽自動車さえ基本設計が高度化している現在、ラインナップにはライトバンやピックアップもあって基本設計が商用モデルと共通のシャシーにパワーのあるエンジンを載せてスポーツカーとして売る事が許された時代と同じことをするのは難しいでしょう。

よく冗談半分で「安いFRスポーツカーと思ったらいっそライトエーストラックのシャシーを使って3SZ-VE型エンジンをチューニングしてオープン2シーターのボディでも架装したら面白いスポーツカーが出来るんじゃないかと身内で話す事もあるのですが、「たしかにオイルショックより前のスポーツカーが好きな僕ならそんな、ノーズへビーでリアサスがリーフリジットのどったんばったん大騒ぎのスポーツカーを楽しいー!って喜ぶけど、そんな変態そうそういないんじゃ?」というのが正直なところです。(ちなみに、国産車ではじめて最高速度が200km/hの大台突破を果たしたフェアレディSRはダットサントラックと同様のラダーフレームシャシーです)

車格問わず、クルマの基本性能が高度になった今、「軽量化の為にこのくらいストイックでもよいだろう」という理屈が通用する時代でもないのです。

もはやスポーツカー=パワーとスピードではない


そうなると、マツダロードスターやトヨタ86のようにある程度専用設計のスタビリティの高いシャシーに少しアンダーパワー気味のエンジンを組み合わせるというのが妥当かもしれません。しかし、これはクルマを作る側には非常に勇気のいる事です。己の技術力のすべてを注ぎ込みたいエンジニアはもちろん、セールスマンもカタログを飾る数値上のスペックの誘惑にはそうそう勝てるものではありません。場合によっては、コスト上の理由で意見が対立するはずの財務畑も「スペック値が小さいと商品になりやしないからもっと予算を付けるぞ」と言いかねません。

結局それを繰り返した結果が、スポーツカーを凌駕するモンスターマシンのフルサイズセダンと大型SUV。そして素人には手に余るため、さまざまなデバイスとリミッターだらけでセダンと変わらない「イージー&コンフォータブル」になったスポーツカーではないでしょうか。

以前、ある雑誌で自動車評論家の三本和彦翁から「新型86は初心者向けのスポーツカーというには200馬力は速すぎるんじゃないですか?」という質問に開発者の多田チーフが「86は本当は150馬力くらいで作りたかったのですが、営業サイドから250馬力くらいは無いと商品にならないと言われてしぶしぶ200馬力に妥協しました(!)」と答えていたのを読んだ事があります。実際、筆者も何度か新型86を運転したことはありますが、グロス145馬力のセリカに乗っている身にはネット200馬力の86を街中で乗るには持て余してばかりというのが正直なところです。

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目から鱗のマツダロードスター


ところが、ロードスターといえばNAという偏った思考ゆえに、ND型マツダロードスターはまったく気にかけていなかったのですが、ある日ND型の取材でスペックを調べて最高出力が131馬力と知り驚嘆しました。元々、パワーよりもハンドリングを追求していることで有名なマツダロードスターですが、2Lまで拡大したNC型でも170馬力。これでも今やスポーツカーとしてはかなり控えめな数値ですが、なんとND型ではボディサイズや排気量だけでなく、エンジンパワーまでもNA型に迫るダウンサイジングを敢行していた事に驚きました。

RFの2LモデルでもNC型を下回る158馬力。現在、1.5Lは132馬力。RFが184馬力となっていますが、あのサイズでここまでアンダーパワーのスポーツカーは他に無いでしょう。



しかし、乗ってみるとパワー不足を感じることは無く、街中でも安全な速度域でパワーを使い切る楽しさがあります。スポーツ走行はもちろん、ただコンビニに何かを買いに行くためだけに乗っても、クラッチを踏んでギアシフト、アクセルを踏む、ブレーキを踏んで減速する、ウィンカースイッチをオンにする、ステアリングを回すという一つ一つの行為がすべて楽しいクルマで、世界中にファンがいる事も納得でした。新車にはまったく興味が無い筆者ですら、マツダロードスターにはひれ伏しそうになる思いをしたことがあります。

スポーツカーの動力性能の追求の方法と言えば数字上のスペックを上げるというのが定石というのは誰もが疑う事が無い中、ロードスター(ミアータ)の理想のため、あえて新型へのモデルチェンジで「デチューン」を敢行するというのは、エンジニアもセールスマンも相当な勇気が要った事でしょう。

ND型ロードスターは、あえてスタビリティの高いシャシーにアンダーパワーだけど小気味よく回るエンジンを載せて、純粋にハンドリングを楽しむためだけにあるというのがプレミアムであり、それがこれからのスポーツカーの存在意義となりうる事を世に問うた稀有な存在かもしれません。

スピードよりもハンドリングを




そもそもスポーツカーが世に広まるきっかけとなったのは、第二次大戦後ヨーロッパに駐留していた米兵が主にイギリスなどの小型スポーツカーをアメリカ本国に持ち帰り、それまで自国に無かった、小型軽量で軽快なハンドリングの小型スポーツカーに酔いしたことに端を発するそうで、やがて北米はヨーロッパのスポーツカーの最大の市場になり、アメリカでもコルベットやサンダーバード、マスタング、カマロなどのスポーツカーやマッスルカーが(初代マスタングはポニーカーと呼ばれアメリカ基準ではコンパクトカーに分類されます)開発される契機となります。

これからの時代は、あえてパワー競争の誘惑を振り払い、速さよりもただ純粋にハンドリングの面白さを追求する事がこれからのスポーツカーの存在意義となるかもしれません。

[ライター・カメラ/鈴木 修一郎]

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