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コラム

更新2017.07.24

世界で最も過酷な使用環境であろう日本で、あえて輸入車を選ぶのはなぜなのか?

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鈴木 修一郎

不肖「国産クラシックカー一筋」の筆者ですが、今回はあえて国産クラシックカーのオーナーからの視点で「日本車を選ぶ理由」という事を考えてみようとかと思います。いやもしかしたら筆者自身が何故、突然「オールドメルセデスに乗りたい」と考えるに至ったのかという理由を考えることでもあるかもしれません。

日本で輸入車に乗る事になんのメリットもない?




カレントライフの誌面で言うべき事では無いのを承知で、実も蓋も無い事をいってしまえば、実用面において日本で輸入車に乗る事になんのメリットも無いでしょう。最近は国問わずどこのメーカーもあらゆる状況を想定し、時には輸出先の国で実走テストをしあらゆる不具合を洗い出し、日夜開発競争でしのぎを削っているとはいっても、本国とは気候も、道路事情も使用環境も全く違い、むしろ温暖湿潤で気候変動も寒暖差も激しくストップ&ゴーが多く、狭い路地の入り組んだ、おそらく自動車にとって世界で最も過酷な使用環境であろう日本で輸入車に乗るのは国産車と全く同じ感覚というわけにはいかないでしょう。

クルマに対して特に拘りが無い、あくまで実用、かつ日本の道路事情という意味においては国産車、1000ccクラスのコンパクトクラス、あるいは軽のハイトワゴンでも十分なくらいかもしれません。一時期仕事でスズキワゴンRやダイハツタント、日産デイズ等の軽ハイトワゴンに頻繁に乗ることがあったのですが、日常の移動手段としてならもうあれに勝るものはありません。見事なパッケージングで体感的なキャビンの広さではロワーミドルセダンも凌駕し、最近はCVTとスロットルの制御が絶妙で加速性能にも不満はありません。

市街地走行なら筆者の昭和48年セリカLBより現行のターボ付き軽トールワゴンの加速の方がよっぽど速いくらいです。入り組んだ路地を走ることが多い人であれば、国産でも下手にアッパーミドルやフルサイズのセダンに乗るほうが持て余すかもしれません。ちなみに、現行軽自動車のサイズは全長が初代カローラより300mm短いだけです。おそらく、現行規格の軽自動車のサイズは日本の道路規格や建築規格を鑑みて本来は日本の国土事情に一番適したサイズなのかもしれません。

正直な所「普通に考えたら」日本で輸入車を選ぶ合理的な理由なんてどこにも無いのです。何しろ我々は「兎に角自動車を始めとするあらゆる工業製品を輸出産業として発展させなければこの国の未来は無い」と先人たちが尽力し、世界最強の品質と信頼性を勝ち取った日本製工業製品の筆頭たる日本製自動車を製造してるその本拠地にいるのです。

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合理性ではない「何か」がある




でも、カレントライフの読者の皆様のように、自動車に対して趣味的要素を持ち始めると普通に考えれば「輸入車に乗ることに合理的メリットは無い」とわかっていても、合理性とは違う「何か」を求めるようになるのではないでしょうか?その「何か」とは……「国産旧車ひいき」の筆者が日本製クラシックカーを究めようとすればするほど、日本車がどれだけ品質も性能もカタログ上では高い数値をたたき出しても、輸入車を超える事の出来ない最後の壁のような物があるように感じる事があります。それこそがカレントライフの各記事にしばし出てくる「バックグラウンドのヒストリーや文化」ではないでしょうか。

筆者はそれこそ一時期は視野狭窄的なまでに国産クラシックカーに入れ込んでいました。全く興味が無いというわけではありませんでしたが、「自分が輸入車に乗る」ということは全く考えもしなかった時期もありました。ところが、実際にスバル360やセリカLBを所有しオーバーホールやレストアを経験し、時には自分の手でエンジンや足回りを分解、整備をしたりするうちに、以前の記事で書いた模倣とは言わないまでも、次第に技術的な参考にしたであろう外国車に思いをはせるようになっていきました。「この技術、機構、この部品、これらを発明した国はどんなクルマを作っているのだろう……」と。

実績もノウハウも無いゼロからのスタートで世界市場を視野に日夜、性能と品質の向上に取り組んでいた時代の日本車の合理性の追求の執念はむしろ今日のクルマを凌ぐ部分さえ感じる事があるのですが、長く愛用出来て尚且つ合理性を突き詰めたクルマというのが自分の理想のクルマなんだと気づいた時に突然降って湧いたように現れたのが、「メルセデスへの興味」でした。

スペックや品質、装備や、全国にあるディーラー網と維持費、トータルのコストパフォーマンスを考えれば、クラウンやレクサスのほうが上回るでしょう。でも長年乗っても飽きない、そればかりか所有歴の長いオーナーには表彰制度も存在し、オールドタイマーのモデルに対しても部品供給のサポートが確立され、むしろタイプによってはヴィンテージモデルでは維持のしやすさやコストパフォーマンスが国産車と逆転するなど、クラシックカー好きには魅力的な環境が整っていて、なにより「世界で初めてガソリンエンジンの自動車を商品化した」というバックグランドのヒストリーと文化に惹かれ、ついにはドイツの歴史や文化そのものにまで関心を持つように至ったわけですが、この時に昔、大学で学んだマーケティング論の「付加価値」「プレミアム」「ロイヤルティ」という物を思い出しました。

つまり、カタログに並んでいる数値上のスペックとユーザーの顧客満足度は必ずしも一致しない事があるのではないか、日本であえて輸入車に乗るというのは、付加価値や所有する悦びは、数値上のスペックやコストパフォーマンスとは必ずしも一致しない事に気づくことではないでしょうか?

ブランドが持つ価値には対抗できない




今や、BMW資本になってしまったロールスロイスですが、レクサスでも、センチュリーでもなく、ロールスロイスでなければならないというユーザーがいるのはやはり、創業時から世界最高級の世界最高品質の自動車として君臨し、ロールスロイスには世界中の王侯貴族に愛用され、英国の女王陛下の御料車でもあるロールスロイスというブランドが持つバックグラウンドの歴史と文化がロールスロイスの価値であり、これを数値上のスペックやコストパフォーマンスで対抗しようというのが無理な話というものです。

それゆえに何度倒産を繰り返しても必ずどこかの企業が負債を抱えて居ることを承知でブランドを買い取り継続させるというのは、ロールスロイスというブランドというだけで債務の事など些細に思えるほどの価値があるからに他ならないからでしょう。

フェラーリ、ランボルギーニやポルシェはもういわずもがなです。今やフェラーリ、ランボルギーニやポルシェを凌駕するスペックを持ち、品質とコストパフォーマンスでは圧倒的に上回る日本製のスーパーカーも珍しくありません。ランエボやインプレッサのように数百万円でフェラーリ、ランボルギーニやポルシェのエントリーモデルを凌駕するスペックをもつスポーツモデルもあります。それでも何千万円もするフェラーリ、ランボルギーニやポルシェが強烈なカリスマ性を持つのは、数々のレース入賞の逸話、スピードに対する飽くなき挑戦、時にはミステリーじみた開発秘話など様々な伝説のような歴史を抱えているからこそ、そこに惹かれ、時に性能やコストパフォーマンスとは違う付加価値に魅了されるのではないかと思います。

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日本の自動車メーカーに問いたい




筆者は国産クラシックカーを愛でる者として、常々思うのが国産車メーカーが時に「バックグラウンドのヒストリーや文化」を軽視してやしないか?という事です。安易にコンセプトをいじりまわしたり、歴史ある自社製品のブランドを消滅させたり、新車さえ売れれば後はどうでもいいと考えてやしないかと思えるマーケティングをしたり……。

若者が自動車から興味を失っていると言われて久しいですが、その原因は若者の所得の減少もさることながら、所得が限られてるがゆえに「物の価値」という物にシビアになった若者に、国産車メーカーの企業の姿勢を知らず知らずのうちに見抜かれている部分もあるのかもしれません。

スペックやコストパフォーマンスという話では今、経済成長の著しい中国や東南アジアがいずれ日本車に追いつくのは時間の問題でしょう。日本でもただ、安くていいクルマを選ぶなら国産車じゃなくても中国や東南アジアの新興メーカーでも十分という時代が来るかもしれません。特に電気自動車においてはニュルブルクリンク北コースで中国上海の「NIO EP9」というEVスーパーカーが6分45秒900の最速記録をたたき出す等、中国がかなり先行しているという話もあります。

しかし、以前トヨタ博物館の布垣館長のインタビューでもあったように、日本の自動車メーカーも相応の歴史を持つようになったのも事実です。乱暴な言い方をすればスペックは資本投入すれば新興メーカーでもどうにもなりますが「バックグラウンドの文化とヒストリー」はどれだけ資本投入しても手に入る物ではありません。幸い日本の自動車産業にも100年近い文化とヒストリーの蓄積ができつつあります。次は「あえて日本車を選ぶ理由が日本車が持つバックグランドの文化とヒストリー」という時代が来ることを切に願います。

[ライター/鈴木修一郎 画像/カレントライフ編集部]

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