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よもやま話

更新2023.11.22

流れ流れて流山。再びの屋台ラーメン「とんこつ貴生」は私を鼓舞した

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中込 健太郎



歳を取ると臆病になる。最近特にそんなことを実感するものです。昔はなんでもなかったのに、あの発想が湧き出さない。その一手に出られない。そんなことがとても多くなった気がします。もうすぐ私も40。そういうことなのでしょうか。いつもガキだなあと思っていたのに、まだ全然半人前なのに。そしてまだ始まってもいないのに。そんな風に思ってきたが、時は待ってはくれないのですね。残酷ですし、寂しいものです。



食べ物に関してもしかり、であります。かつて立石の奥戸街道のところにあった貴生に行ったことがありました。そのしっかりと煮込まれたスープと盛大に背脂を降り掛けてある強烈なアピアランスに、恐る恐る足を踏み入れたのはいつのことだったでしょうか。仲間に誘われて自動車に乗って出かけたものでした。しかし年月は経ち、先ごろそのお店が閉まるというニュースを耳にした小生。さみしい反面、とはいえ、今、あの店に行っても食べられるだろうか。

なんだかふさぎ込んで、弱りはて、自信を無くした自分は、正直久しくご無沙汰してしまっていたあのことに対するある種の罪の意識から、怖気づいていたようでありました。どうせまた行ってもギブアップだろう。食べきらんだろう。そんな思いから、閉店のニュースを聞いて寂しいと思う反面。どうすることもできない心身ともに老途をたどる自分など別れを惜しむ資格もない。どうすることもできない。そんな風に思っていたというのが実のところでありました。それがまたさらなる寂しさへと誘う。夜な夜なラーメンを食べに行く仲間もいない。まあ、時には好きな人若干思い当たるが、僕とは住む世界が違うからあまり生活サイクルを合わせにくい。同じようなことをしている仲間はどうしているだろうか。そんな枝葉の寂しい想いまでこみ上げてきます。



その奥戸のお店が支店でどこか本店は別にある、という話は、実は以前から聞いていました。ただ、どこかも忘れていた、つい先日。実はたまたま通りかかって見つけた、というのが本当の話です。野田から流山街道を国道6号線方面に走らせていた時。松戸に入って間もないくらいでしょうか。夜だからものさみしく感じましたが住宅街が周りに広がるあたりに、それはそれはものさみしい看板が出ているお店を発見したのでした。でもそこに書かれていたのは「貴生」。何だか随分前に、森に出かけてなくしてきてしまったかもしれないものをふとしたきっかけで見つけたような、そんな気がしたのでした。



クルマを寄せて、お店に行くと。「ああ、これこれ。」なんだかもう二度と会えないと思い込んでいた人にふと異国の街で出会ったような気がしました。茶色い看板に、ホルモンラーメン、チャーシュー麺、みそラーメン。そしてそんな組み合わせと、それぞれにつけ麺がある、というような基本構成。ギョーザや、ライスを頼むとちょっと上に乗っているどんぶりなんかはありますが、基本的にはそんなもの。メニューが膨大というものではありません。頭上に掲げられたメニューを見ても、まだ私の心は、上で申し上げた奥戸のお店が閉まるニュースを聞いた時の、ここのラーメンに対する弱腰な姿勢を払しょくするには至っていません。



それでも私は、不思議と「これしかない」と思い、「トリプル」、そしてそれにごはんをつけてくれるように注文すべく口をついて出たことは、私自身不思議でなりませんでした。注文したら即その場でお会計、洒落た言い方でなければわからない人の為に申し上げるならば「キャッシュオンデリバリー」というやつでしょうか。しかしそう右から左に出てきやしませんよ!カウンターに座った私は、何か運命の扉をたたくそんな再会を果たしたような気持ちになっておりました。



しかしであります。美味しいものは脂肪と糖でできている、とは黒ウーロン茶のコマーシャルでしたでしょうか。美味しいものを調べたらそうでしょう、確かに。でも脂肪と糖でできていたら美味しいかと言われたら、これに対してはめくら判で「その通り」と申し上げるのにはいささか躊躇するものがあります。そして昨今はびこる、こだわっているようで、グルメであるようで、実はたいしたことのない感動を伴わない食事の少なからずにはくぎを刺しておきたい点でもあるのでした。

私が注文した「トリプル」とはホルモンラーメンでチャーシューが載っていて、みそ味の奴ですね。トリオの粋なセッション、ジャズなんかでありますね。そういうものの類なんです。迷ったら、で、よく行く人から薦められた初めて食べたときのあの感動は簡単に忘れることなどできませんでした。ことさら旨味をわかりやすく際立たせた味・・・ではなく、全方位に隙のない巧さが広がるよく炊かれたスープ。ほろほろと崩れ落ちそうな盛大な存在感のチャーシュー。それらをしっかりとまとめ上げ、辛味もあり、深みもある味噌のふるまいのなんと華麗なことか。

不覚にも、涙が出てきました。

スープを口に含み、しっかりと小麦の甘みを引き出しているもっちりとした麺は、グルテンの甘みを存分に堪能できます。そんな麺にまとわりつく旨い、そして塩気も勿論存分に含むスープと一緒に口に運ぶ。おかずになるでんぷん。いささか旧弊な表現を用いるとすれば、「日本を世界標準の歴々と並べ平準化し、いつの間に併合しようとする海外の鬼畜勢力諸君」、日本に何かを要求したいならばこういうものの魅力を心底理解してから一人前の口をたたいてもらいたい。まさにそういう類であるのです。スープと白飯が呼応する。麺と飯が相和す。そして夜の流山街道の畔で、一人箸を進めるオトコメシは、瞬く間の甘美な時間を刻んでいくのでありました。



正直に告白します。飽き足らず「替え玉」しました。だって、夜が明けてしまうのが惜しかったものだから。ああ旨い!実に旨い。大口をたたいてこのラーメンの足元にも及ばないラーメンのいかに多いことか。心の中で叫んだ。そして麺とごはんが足並みをそろえて器の底を見せたとき、私は、スープに浮かぶ「食べる画竜点睛」しっかりと色、味のしみた煮卵で最後の一口を平らげた。



夜はふける。くらい闇の彼方に野田、間もなく空が白々として来るであろう方角には松戸や東葛地域の家々が軒を連ねる。夢と現実のはざま、今日が明日になるその時にふと道端にある小さなラーメン屋で果たした再会。

「ン勿論だよ!また来る!」そう心の中でつぶやき、店を後にしたのでした。

屋台ラーメン とんこつ貴生 松戸本店(食べログ)

[ライター・カメラ/中込健太郎]

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