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ドイツ現地レポ

更新2021.08.12

ハイブリッド化・EV化の噂があるポルシェ911、ドイツ人の意外な本音とは?

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守屋 健

2021年7月にニュルブルクリンクにて、あるクルマのプロトタイプが撮影されました。そのクルマとは、世界中のスポーツカーファンが常に動向を注視する、ポルシェ911。撮影された画像から、ハイブリッドシステムを搭載した初期試験車両ではないか、と噂されています。


これに対して、ドイツ現地のスポーツカーファンはどのような反応を示しているのでしょうか? ポルシェ社内でも911のEV化やハイブリッドシステム搭載については様々な見方があったようですが、最近は少しずつ意見が集約されてきているようです。このあたりの意見も整理しつつ、ドイツのスポーツカーファンが抱く「911のハイブリッド化・EV化への期待と不安」を紐解いていきたいと思います。


■今後も「911らしさ」を維持できるのか。ポルシェ上層部の総意とは?



まずは、わかりやすいリミットを示しましょう。今後も変更の可能性があるにせよ、EUにおいては2035年から内燃機関を搭載したクルマの販売はできなくなります。つまり、ガソリンエンジンを搭載したポルシェ911の歴史は、このときに終わりを迎えることがすでに決まっているのです。


問題は、それまでの間に911がどのような筋道をたどるか、です。ポルシェのCEO、オリバー・ブルーメ氏は最近のブルームバーグによるインタビュー内で、現行992型の生産が終わる2026年に、ハイブリッド搭載型が登場する可能性を示唆しています。


スポーツカー部門ディレクター、フランク・ステフェン・ウォリザー氏は、少なくとも2030年までは純粋なEVの911が登場することはないということと、ハイブリッドシステム搭載については問題が山積みである、ということをオートカー誌のインタビューで述べています。「2+2の定員は保ちたいですし、適切なサイズの荷室も残したい。911らしいデザインも崩したくはありません」というのが彼の意見です。


ポルシェの研究開発担当取締役、マイケル・シュタイナー氏は、911にハイブリッドシステムを搭載する際、問題となるのは重量だ、とイギリスのメディアに語っています。彼は「現時点で、ハイブリッドシステムを搭載すると車重が約100㎏増加することがわかっています。バッテリーやシステム全体の重量には当然満足していませんが、現在は減らせる目途が立っていません」としています。


3者のインタビューを読み解くと、


・911はもともと、RRの純粋な内燃機関車としてデザインされている
・そのため、ハイブリッドシステムの搭載と、現在のパッケージング・デザイン・運動性すべてを両立するのは非常に困難
・純粋なEV化を目指すなら、最初からまったく新しいクルマとしてデザインする方が簡単


ということが異口同音に語られています。このあたりが、ポルシェ上層部の現在の総意といえるのではないでしょうか。


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■ドイツの一般的なスポーツカーファンの心境は?アンケートは驚きの結果に



ポルシェ上層部のいくつかの意見からも、スポーツカーとしての911を存続させることと、ハイブリッド化・EV化の板挟みに苦しむ様子が伺えますが、ドイツの一般的なスポーツカーファンはどんな思いを抱いているのでしょうか。


ドイツのアオト・モーター・ウント・シュポルト誌は、2021年7月にインターネットでアンケートを行いました。テーマは「ポルシェ911に純粋なEVシステムが搭載されることについてどう思いますか?」。回答方法は3択で、「反対(それは残念なことです)」「どちらともいえない」「賛成(それは時代の流れです)」が用意され、5,500件を超える意見が集まりました。


みなさんは、この結果がどうなったと思いますか?


結果は、EV化に賛成が51%、反対が35%、どちらともいえないが14%でした。なんと、EV化賛成派が半数を超え、反対派は4割にも届かなかったのです。


このアンケートのポイントは「911のハイブリッドシステム搭載について」の是非を問うたものではない、という点です。ドイツのスポーツカーファンには、ハイブリッド化のみならず、その先のEV化まで推し進めた、これからの環境に適応した911の登場を望む声が多い、ということを示しています。


■避けて通れない「気候変動問題」とどう向き合うか?



なぜ、このような結果になったのでしょうか? その答えは、現在のドイツ社会が置かれている状況の中にあります。今のドイツでは、環境保護や気候変動・気象災害に向き合う姿勢が非常に重要視されているのです。


ドイツでは2021年7月、西側を中心に非常に大規模な洪水が発生。過去50年間で最悪の、300人以上の死者・行方不明者を出した歴史的な大災害になりました。ドイツではこうした気象災害と地球温暖化を結び付けて考えることが一般的で、今回の洪水被害をきっかけに、市民はさらに「経済や社会の脱炭素化」への関心を高めていく、と考えられています。


政府・政治家はもちろんのこと、大企業、銀行、そうした大きな実行力を持つ組織は、例外なく「地球気候変動について、自分たちはなにをしていくか」についてのはっきりとした考えや意見を求められます。


そうした指導的立場にある人々だけでなく、市民の脱炭素化への関心の高さも相当なものです。


ドイツでは電力会社を自由に選択できるのですが、料金が割高であっても「100%自然エネルギー発電(風力・水力・地熱・太陽光など)」の電力会社を選ぶ人が多く、さらに太陽発電施設を自宅に設置するケースも以前より増えています。都市部では、クルマを持たずにカーシェアリングで済ます人も珍しくなく、さらに「貸出用のクルマは100%EV」を謳うカーシェアリングサービス「WeShare」をフォルクスワーゲンが提供するなど、ドイツが脱炭素化への真っただ中にいるのは疑いようのない事実といえるでしょう。


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■ドイツのスポーツカーファンが求める「ポルシェらしさ」とは?



もちろん、ドイツにも「純粋な内燃機関の信奉者」は存在します。911を愛する人々の中には、フラット6の奏でる音色やマニュアルトランスミッションを操る快感を忘れることができない、という声も少なくありません。


それでもポルシェは、タイカンで「EVにおけるポルシェらしさ」をはっきりと打ち出すことで、EVに関して中立的な考えを持つ人々を納得させることに成功しました。


また、WECやフォーミュラEなどのモータースポーツ活動を継続することで、純粋な内燃機関・ハイブリッド・純粋なEVのすべてで最先端の研究開発ができる環境を構築し、今後も市販車へのフィードバックを行うことを約束しています。


こうした活動ひとつひとつの積み重ねが、ポルシェという会社への信頼につながり、ドイツのファンをして「911のEV化に賛成」というアンケート結果につながったといえるでしょう。


■果たして、ポルシェ911の未来は明るいのか。それとも?



日本でも賛否両論が飛び交った「911のハイブリット化・EV化」に関するニュース記事。かくいう筆者も、時代の流れだと頭では理解していても、感情が追い付かずに「さびしい」という気持ちを抱いてしまった人間のひとりです。


一方で、タイカンで示された「EVスポーツカーの未来像」に関して、これからのポルシェはどうなっていくんだろうという、前向きなワクワク感を感じてもいます。ポルシェはラインナップのEV化を順次進めていきますが、「911のEV化は最後に行われる」とは先述のフランク・ステフェン・ウォリザー氏の弁。それはつまり、他モデルのEV化によって得られた多くの経験やノウハウが、最終的に911に集約されることを意味しています。


他モデルのハイブリッド化・EV化を経て、完全なEVとなった911は、いったいどんな世界を私たちに見せてくれるのでしょうか。さびしいという感情を抱えながら、その日が来るのを待ち遠しく思っているのも、また事実なのです。


[ライター/守屋健]

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