更新2026.01.30
プラレール号の記録簿 vol.22:「911原理主義」という呪縛から逃れることはできるのか?
松村 透
2026年1月16日、ポルシェAGは、2025年の世界販売実績を発表しました。それによると、同年の年間の総販売台数は279,449台とのことです(2024年は310,718台)。
なお、2025年にもっとも多く販売されたモデルはマカンであり、販売台数は84,328台。つまり、マカンだけで2025年のポルシェの販売台数全体の30%ものシェアを有していることになります。
さらに、マカンの電気自動車は45,367台ということで、すでに半分以上の割合となっていることが数字からも見て取れます(2026年以降、この割合がどう変化するのか注目です)。そうです。いまやカンやカイエンといったSUVモデルがポルシェの屋台骨を支えているのです。
ポルシェにとってシンボル的存在といえる911の2025年の販売台数は51,583台。全体のおよそ18.5%のシェアを占めています。そして、911としては過去最大の販売台数を記録している点にも注目です。
なお、日本市場はどうかいうと、JAIA(日本自動車輸入組合)の発表によれば、2025年のポルシェの新規登録台数は9,767台(2024年は9,292台)。もしかしたら、2026年は年間販売台数1万台の大台に乗るかもしれません。
■1990年代前半のポルシェのラインナップといえば
筆者がポルシェに興味を持ちはじめた1990年頃、同社のラインナップといえば、944、911、928のわずか3モデルのみという時代。いまでは考えられませんが、スポーツモデルしか設定がなかったのです。
かくゆう筆者はというと、当時はまだ高校生。アルバイト先の社長さんが1992年式の911カレラ2を所有していたこともあって、仕事が終わると毎日のように「ポルシェとは911である」といった話をしていた記憶があります。
その結果、いつの間にかポルシェのヒエラルキーといえば、絶対的な頂点は未来永劫"911"であり(959などの特殊なモデルは例外として)、924や944はその一過程の過ぎないという価値観を強烈に刷り込まれてしまったのです。社長さん曰く「924や944に乗っていても、いずれは911が欲しくなる。そして結果的に乗り換えてしまう。911とはそういう存在」というわけです。現代のポルシェ社の屋台骨を支えているのはマカンやカイエンであっても、ボクスターやケイマンが素晴らしいクルマだと分かっていても、自分のなかの絶対的な存在は911というわけです。さすがにこれはまずい、と、頭では理解しているし、ずいぶんと努力してきたつもりです。しかし、どうやらこの呪縛からは逃れられそうにありません。
ちなみに、928はどうかいうと…当時911ほどのハードさを求めていないユーザーが選ぶイメージがありました。トムクルーズ主演の映画『卒業白書』や、田村正和主演のドラマ『パパはニュースキャスター』の劇用車として起用されたこともあり、これが原体験となって928を選ぶ人もいたように思います。筆者の知る限りでは、911を選ぶユーザーと928オーナーとでは客層がまったく異なるイメージがあります。
■1990年前後に雑誌でイメージイラストで見た幻の4ドア「ポルシェ989」
その昔「ポルシェ989」という4ドアのポルシェがデビューするかもしれないという噂が出たのは、いまから30数年ほど前だったと記憶しています。イメージイラストのようなものがクルマの雑誌に載るやいなや、件の社長さんも「ありえない!」「売れないよ」といきなり全否定。すっかり感化されていた筆者もまったくの同意見でした。少なくとも当時は。
事実、ポルシェが4ドアのモデルを出すという噂に対して、あまり好意的な意見が少なかったように記憶しています。「ポルシェはスポーツカーメーカーなんだからスポーツカーだけ作っていればいい」というわけです。そしていつしか「ポルシェ989」の開発は中止となったという噂が駆けめぐり、その存在は人々から忘れ去られていきます(実際に「ポルシェ989」のプロトタイプが実際に存在していたと知るのは大人になってから)。
改めて「ポルシェ989」を見てみると、まるで初代ボクスターや996(前期型)の4ドアセダンのようなフォルムです。結果として、4ドアのポルシェは2009年にデビューした「パナメーラ」になるわけですが、すでにカイエンやマカンといった「実用的なポルシェ」が市民権を得ていたこともあり、989のうわさが駆け巡ったときほどのアレルギー反応は少なかったように感じます。
■ポルシェもSUVを出す?とうとう「出る」のか
2002年にポルシェ初となるSUV、カイエンがデビューします。すでにアルバイトは辞めていましたが、先述の社長さんを訪ね、2人で「とうとうポルシェもSUVを出しますね」なんて話したこと思い出します。フェラーリでいうフェラーリプロサングエやランボルギーニウルスが発売されると知ったときのような感覚です。買う・買わない・買えないはさておき「とうとう(このメーカーでもSUVを)出すのか…」という複雑な心境のアレです。
ところが、実際に発売されたら「実用的だけどポルシェというブランドのクルマに乗れる」というわけで売れに売れたのはご存知のとおり。2014年には弟分のマカンまでデビューして、この2台の売上げだけでポルシェ全体で6割ほどのシェアも持つほど、同社の屋台骨を支えるモデルとして欠かせない存在となっていきます。
実は先日、2代目となったマカン(電気自動車)をしばらく運転する機会があり、実車を目にしたときですら正直いって「ポルシェのEV?」と、懐疑的でした。しかし、いざ走り出してみると、運転するまえの「ポルシェのEVなんて…」といった先入観はどこへやら。車重2.3tオーバーとは思えないほどの出だしの速さ、そして加速感。一瞬、重心が高いSUVであることを忘れそうになるほどの身のこなしの軽さ。
「プラレール号とマカンEVの2台体制とかサイコーでしょ!」なんて妄想してしまったほど。本当に遅まきながら「ポルシェといえば911だろ」という価値観からそろそろ脱却しないと…と思わされたのです。
■潮目が変わったのはボクスターのデビューか
1993年にプロトタイプがデビューした初代ボクスター。当時は「4万ドルくらいで買える廉価版ポルシェ」なんていわれていました。そういえば、ポルシェに関する記事で久しく「廉価版」という文字を見た記憶がありませんね。このプロトタイプは東京モーターショーにも展示され、筆者も一目ぼれ。関係者を捕まえて「(買えるかはさておき)いつ出ますか?予約できますか?」質問攻めにした記憶があります。
筆者の知る限り、初代ボクスターこそが「ポルシェといえば911」という呪縛から解き放った最初のモデルではないかという記憶があります。事実、ボクスターは大ヒット。2005年にはきょうだい車のケイマンもデビューし。それぞれのモデルが独自の進化を遂げていきます。そのうちケイマンGT4のようなスパルタンなモデルも出てきて、911の存在を脅かすように見えました。しかし、最高速やパワートレインの最高出力など、ポルシェは頑として911よりもわずかに劣るスペックに留めたままです。同社内に絶対的なヒエラルキーがあることを改めて痛感させられます。
■まとめ:原体験は強烈。もはや911原理主義という呪縛から逃れられないのか・・・
原体験が強烈であればあるほど、その固定観念からなかなか抜け出せないようです。
「ポルシェといえば911」という強烈な刷り込みを受けてからもうすぐ40年。自分のモノサシはプラレール号(ナローポルシェ)ということもあり、最新モデルに触れる機会があっても、なかなかこの呪縛は逃れることができないようです。こうして頑固ジジイになっていくのでしょうか。
さまざまなオーナーさんを取材して実感するのは「原体験でその後のカーライフが決まる」という法則です。
お父さんやお祖父さんが乗っていた。幼少期に街中で見て一目惚れした。初めて買ってもらったミニカー(あるいはプラモデル)だった…などなど。
すべてのオーナーさんとはいいませんが、かなりの割合で原体験がその後のカーライフに大きな影響を及ぼしています。
筆者の場合、911が原体験であり、いまだにこのクルマを超える存在に出逢えていません。
いい年になってきたので、最近は「もう出会わなくていいや(911が不動の1位でいい)」とすら思えるようになってきました。
こういうクルマに出逢えたというのは、クルマ好きとしては幸運なことだということ…かもしれません。
[画像:Porsche / 撮影:松村透]



