更新2026.01.26
プラレール号の記録簿 vol.21:「空冷911が欲しいです」との問いに対する最適解とは?
松村 透
プラレール号(ナローポルシェ)に乗っていることもあり、「空冷911が欲しいです」といった相談をしばしば受けることがあります。現実を伝えるべきか、背中を押してあげるべきか…毎回ものすごく悩みます。
そこで、自分なりに思うところをまとめてみました。
■「以前より空冷911が高くなった=コンディションが良くなった」・・・というわけではない
ひと昔、あるいはそれ以前の空冷911の中古車価格を知っている者としては、現在の価格はいまだに異常としか思えない(なかなか受け入れられるものではない)のが正直なところです。「買うだけ」であれば、200万円台のナローポルシェや初期の930がゴロゴロしていた時代を知っているだけに、さらりと1ケタ増えてしまったいまの状況には言葉を失います。「空冷バブル」という言葉を聞いてから少なくとも10年以上が経過していますが、バブルが崩壊するどころか、このまま維持されていってしまう気配すらします。
これまでよりも劇的にコンディションが良くなっているのであれば少しは合点がいきます。しかし、現実にはそうではありません。どの個体も確実に経年劣化(人間でいうところの老化)が進行しているからです。なかにはエンジンやトランスミッションをオーバーホールしたり、ブッシュを打ち替えてリフレッシュした個体もあります。が、それらの手入れが行き届いた良質な個体は、市場に出る前に嫁ぎ先が決まってしまうことがほとんど。いずれにせよ「空冷911が高くなった=コンディションが良くなったわけではない(むしろ相対的に下がっている)」のです。
■空冷911をメンテナンスできる人が限られている
日本のポルシェの黎明期を支えてきた方たちが、引退あるいは鬼籍に入りつつあります。否が応でも世代交代の時期に突入していることを実感しています。日本のポルシェの黎明期を支えてきた方たちの手ほどきを受けた次の世代(主に50代〜)のメカニックの方たちが頼みの綱です。しかし、絶対数が少ないうえに、すでに多くのお客を抱えているのでメンテナンスを受けてくれるかどうかは未知数です。
そうなると、新規のお客さんを診てくれるかどうかは「運とタイミングと縁次第」です。…というのも「どこの誰かがいじったか分からない"ブラックボックス"状態の空冷911」の現状把握するところからはじめる必要があるから、です。さらにはエンジン内部のように「おおよその予測はついても、実際に開けてみないことには本当のところは分からない状態」の個体を引き取って、善意で予算+αのメンテナンスを行い、依頼主の期待(預ければ絶好調になって戻ってくると信じて疑わない)に応えなければなりません。
なかには「1500万円もしたナローポルシェなんだから調子が良いはず」と思い込んで(信じて)いるオーナーもいるわけです。メンテナンスを請け負う以上、その楽観主義に現実を突きつける役回りも担わなくてはなりません。中古車価格1500万円はあくまでも「0地点(たいていは現状販売。下手をするとマイナス)」であり、ここからが本当のスタートです。なかには「そんなはずはない。きちんと診たのか。ぼったくりだろう」といってくるアホなオーナーも実在します。いくら説明しても「そんなはずはない。クレーム扱いだ。金は払わない」と、いつしかクレーマー対応する羽目になることも(本当に)あります。はっきりいってものすごく損な役まわりなのです。
新規のお客さんを嫌がる理由はそこにあります。商売としてはまわっているのだから、わざわざ面倒な客を相手にして時間と労力を無駄にしたくないのです。それでもまだ「俺は(私は)客だ。金を払う側だ」という思考から抜け出せないとしたら…この際、空冷911はあきらめましょう。はっきりいって向いていません。…むしろ、メーカー保証を完備している新車の方がよさそうです。とはいえ、イマドキ「お客様は神様だ!的な思考停止状態」ではディーラーのスタッフにも嫌われてしまうのでご注意を。
■空冷911を買うより、メーカー認定中古車を買うべし
これはプラレール号の主治医ともよく話すことなんですが、仮に1500万円もの予算があるなら、いちど頭を冷やしてみてください。「なぜ空冷911が欲しいのか」、1度自問自答してみてください。よほどの揺るぎない決意がない限り、空冷911を買うよりもメーカー認定中古車として販売されている911(つまり、現行モデル992型か先代の991型)の方が幸せになれるという選択肢も見えてくるはずです。
旅行から買いもの、デートなどの日常使いから、ポルシェ仲間とツーリングやサーキット走行といった趣味の領域まで1台でこなせます。しかも、エアコンはバッチリ効きますし、炎天下の渋滞にハマってもオーバーヒートする心配も(たぶん)ありません。さらにいうと、故障したとしてもメーカー保証でカバーできる(例外はありますが)。この安心感は絶大です。
これが空冷911となるとまったく勝手が違ってきます。無理をすれば近年の911と同じ使い方が「できなくもない」ことは事実ですが、どれほど新しいモデルでも30年選手となった空冷911にとっては過酷です。オーナーは我慢を強いられ、クルマは老体にムチ打って負荷に耐える…。お互いに我慢大会です。こんな生活が長く続くとは思えません。
■まとめ:好きだけで手に入れられるクルマではなくなってしまった
もう30数年前のことです。とあるクルマ雑誌で911特集が組まれ、そのなかで「タイヤを1万キロごとに交換が必要」といった記述があり、愕然とした記憶があります。「そんなの維持できるわけないじゃん…」と絶望した記憶があります。それから年月が経ち、似たようなことを伝える側になってしまっているとは。はっきりいって「引導を渡しているような状態」です。
多くの旧車およびネオクラシックカーオーナーを取材していて発せられる言葉のなかに「覚悟」があります。壊れる覚悟、部品がない覚悟、最後は自分で何とかするしかないという意味の「覚悟」です。もちろん、同じモデルを所有するグループやクラブに参加して、SOSを発信すれば誰かしら手を差し伸べてくれます。しかし、毎回その行為に甘えるわけにもいきません。
これらのリスクを文字どおり「覚悟のうえで」空冷911を手に入れてみるとしたら…「意外となんとかなった」と思うかもしれませんし「やはり大変だったから手放した」の結末かもしれません。いずれも所有してみてみないと分からないことですが、いずれにしても「覚悟」が必要であることは間違いありません。
[画像:Porsche]



