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更新2025.09.29

プラレール号の記録簿 vol.16:「空冷911に乗りたいんです」と問われて答えに窮した話

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松村 透

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プラレール号こと、ナローポルシェに乗っていると「空冷モデルの911に乗りたいんですが、どう思いますか?」といった質問を受けることがあります。かつて自分がそうしてきたように。


ひと昔前、911乗りの先輩たちは「大丈夫。買えば何とかなるから」と、当時20代だった背中をさらりと押してくれたものです(実際には何ともならなかったんですが)。いざ自分が相談を受ける側にまわってみると、当時とは事情がまったく異なってきていることを痛感します。



とてもじゃないけど「買えば何とかなるから」なんていえません。「買うだけであれば」、200万円台の空冷911がいくらでもあった20数年前ならいざ知らず、近年は1000万円以下の個体を見つけることすら難しくなってきました。単純計算で底値が5倍になったのです。しかも、ここからさらに整備代が「確実に」加算されていきます。


「じゃあコンディションの良い個体を買えばいいじゃん」という話になるのは当然の流れ。…ではありますが、コンディションの良い(と思われる)個体の中古車価格はそのさらに上の上をいきます。しかも、程度極上であったとしてもノーメンテとはいきません。どちらにしても、遅かれ早かれ大掛かりなメンテナンスが必要になる可能性が高いと覚悟しておく必要があります。


■夢を壊していいのか、現実を伝えるべきか悩む



これから伝えることは、確実に夢や憧れに対して大なり小なり冷や水をぶっかけることになります。ここで心が折れたら、素直に新しいモデルを手に入れてください。同じ大金を使うなら、その方が幸せになれます。


もしも、小島よしお張りに「そんなの関係ねぇ!」の気概があるとしたら、人生を911に捧げるくらいの覚悟で楽しんでください。もっとも、お金のことは一切気にしなくていい「予算青天井」な方は、私の戯れ言などは気にせず、心の赴くままにどうぞ!


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■憧れだけでは空冷には乗れない時代に?



最後の空冷911として現役当時から人気が高い「993」ですら、気づけば30年選手です。もう立派な旧車なのです。もし手に入れた場合、歴代のオーナーが少なくとも30年以上(ナローポルシェにいたっては50年以上)使い倒してきた分の時間を巻き戻す必要があります。まず、その覚悟と軍資金を用意できるかどうかです。


「空冷に乗りたいんです」と問われたら、自分でもイヤな役まわりだなあと思いつつ「なぜ空冷がいいんですか?」とめんどくさい質問します。ここで「なんとなく」とか「昔から憧れて」とか「周りが空冷推しなので」答えた場合は「レンタカーで借りられるところがあるので自分で運転してみてください。もしかしたらしっくりこないかもしれないので」と伝えます。憧れやイメージだけで、実際の感覚を知らないまま空冷モデルを買うのは厳禁です。



最初のアクセルのひと踏みで「こりゃたまらん!」となるか「なんか違うなあ」となるか。試乗が終わるまでにどれくらい印象が変わるか、できれば高速道路やワインディングを走らせることができたらベストです。これで「なんか違う」となったら迷わず現行モデルにあたる992.2型かメーカー認定中古車を選んでください。その方が幸せになれます。


もし「こりゃたまらん!」となった場合、可能であれば理想の1台を探りあててください。特殊なモデルともなれば運転する機会が限られると思うので、オーナーを紹介してもらうか、直接交渉して助手席に乗せてもらってください。事情を説明すれば面識がなくても乗せてくれる可能性があります。みなさん同じような体験をしてきているから、同じ思いを共有できる仲間が増えるのは単純に嬉しいのです。



ナロー、930、964、993。どのモデルがしっくりくるかイメージが固まったら、あとは予算や憧れのモデルに手が届くのであれば、一直線に夢の実現を目指してください。なにしろタマ数がないので、かつてのように「ステップアップして」という方法ができにくくなっているからです。そしてせっかく仕上げたクルマを手放し、またブラックボックスに近い空冷911の面倒を見なければならないのです。つまり、クルマのコンディションに関していえばいちどリセットされてしまいます。それであれば、個人的にははじめから可能な限り最短ルートを狙うべきだと考えます。


■主治医と見解が一致



若い方を含めて、2025年9月現在「空冷911が欲しいんです」と問われたらどう答えるか。これはプラレール号の主治医とも話しました。


仮に1500万円の予算が工面できるとしましょう。1500万円といえばかなりの大金です。年齢を問わず、これだけの予算があるだけでもかなりすごいことです。ポルシェに限らず、新車・中古車を含めてかなりの選択肢があります。クルマ以外だと、少し築年数が経った中古の別荘も買えます。それだけの予算が捻出できて、何が何でも911が欲しいとしたら…。



同じ金額を出して992.1型の認定中古車を買うか、思い切って992.2の新車の頭金に充てる(残りはローン)の方が確実に幸せになれるという結論にいたりました。


ご存知のように、メーカー認定中古車として販売されている個体は新車同様とまではいかないにせよ、中古車としてはかなりコンディションの良い個体である確率が高いです。さらには故障時でも安心なメーカー保証が付帯されています。有償にはなりますが、メンテナンスパッケージを加えればさらに安心感が得られます。エアコンもバッチリ効きます。雨の日でも猛暑日でもガンガン乗れます。いざアクセルペダルを踏み込めば恐ろしい勢いで加速していきます。



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■まとめ:鬼ローンを組んでまで買うべきではない(とお父さんは思う)



かつて私自身もやりましたが、24才のときに手に入れた初代プラレール号(1973年式ポルシェ911S)のときは購入金額400万円、頭金100万円+60回ローンを組みました。毎月5万円オーバーのローンは正直キツかったです。これに車検代やメンテナンス代が掛かるというプレッシャーは相当なものでした。所有する喜びが、いつしかストレスに変わっていったのです。


いまや空冷911の中古車というだけで1000万円オーバーはあたりまえ、走行距離が10万キロオーバー、修復歴ありであっても、です。


ここから大なり小なり、さまざまなメンテナンス代が掛かってきます。もちろん保証はないのですべて自腹です。100万円なんてあっという間に吹き飛びます。しかもそれだけでは済まされない可能性が極めて高いです。



カツカツの鬼ローンを組んで空冷911を買ったうえに、さらにメンテナンス代が加算されていきます。しかも、修理に預けているあいだは911に乗れません。これがなかなか辛いです。オーナーのとってかなりのストレスになります(経験者)。


決してポルシェジャパンのまわし者ではありませんが、「最新のポルシェは最良のポルシェ」はうそではありません。それは性能だけでなく、故障する確率が低い、故障しても保証でカバーしてもらえるということも含まれているのです。



911デビューが空冷モデルだと現代のモデルでは考えられないような気遣いが必要になります。当然ながら暖機運転は必須です。エアコン(クーラー)の効きなんて期待してはいけません。そして、現代のハイパフォーマンスモデルに慣れ親しんできた方にとっては「遅っ!」と感じるかもしれません。そりゃそうです。どんなに新しくても30年以上の前のクルマなんですから。



ひとつの判断基準として「最新のハイレゾオーディオ」と「レコード」、どちらが好みかによって見極めができるのではないかという気がしています。


レコードを再生する前に盤についた埃を落とし、そっとプレーヤーに置いてレコード針をそっと落とす。この一連の所作が苦にならない、そしてレコード特有の柔らかい音色が好みであれば、空冷911との相性が良いんじゃないか。そんな気がします。


 

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