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試乗レポート

更新2023.11.22

執拗に未来を乞うのではなく、あるべき姿を振り返るセダン「VWパサートGTE」に試乗する

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中込 健太郎

フォルクスワーゲンは、このところいろんなことに翻弄されていたと思います。確かに、事実ではないことや、何かを欺く行為はしっかりと追及されてしかるべき。しかし、だからといって、非常にシンプルに秀逸なクルマとしての乗り味への評価まで「否定されることはないのではないか」。フォルクスワーゲンに対してそんな思いを持っていました。

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日本ではその話題で持ちきりの状況下ともいえる時期に導入されたのが現行のパサート。この時期しばしばディーラーでイベントのお手伝いなどをしていたこともあり、発表会、事前内覧会、先行試乗会など様々なイベントでフォルクスワーゲンファンがこのパサートに寄せる期待の大きさは、自分の目で見て、肌で感じていました。だからこそ、興味があったのです。このクルマには。

正直、特に日本においてフォルクスワーゲンはかなりメジャーなブランドです。しかしそれはすなわち、ゴルフやポロなどを指すものであり、日本におけるフラッグシップ・フォルクスワーゲンの影が色濃いというのは、ややはばかられるもの。そう言わざるを得ないでしょう。そんなパサート、少し前にしばらく一緒に過ごして試乗することができましたので、少し振り返っておきたいと思います。

プレミアムとはなんだろう?高級車って何だろう?


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▲最近のトレンドの一つと言えるかもしれません。室内を取り囲むように彩られた照明アンビエントライトがめぐらされます。これがすなわち高級なのかというと、そこは評価の分かれるところかもしれませんが、パサートGTEのそれは照度、色共にシックで五月蠅さがない。

前述のフォルクスワーゲンのキャラクター。それはゴルフやポロなどが広めた、実用車の本領というステージの上での評価ではなかったでしょうか?それからするとこのパサートは「確かに高級」なのだけれども、「それでもやはりフォルクスワーゲンだ」というこの二点を併せ持つ一台だということができるでしょう。

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▲メーター類、ナビゲーション、ブレーキ回生の状況、バッテリー残量など様々な情報を提供してくれるアクティブ・インフォ・ディスプレイ。うまく整理されてレイアウトされているし、視認性も良好だと感じた。

クルマとして嫌みのないところ。そしてこう言ってはアレだが、決して色気のある恰好ではない。けれども二度見の走りを、いざとなればしっかりこなす実力を持つ。それを想定しうる最大限の実用性と共に仕上げたクルマ。それはこのパサートGTEでもやはり強く感じるところでした。ハンドリングはまったく違和感なく、あらゆる速度域で自然。乗り心地も芯がありながらしっかりといなすものであり快適そのもの。業務用冷蔵庫のように大きなトランクは奥の荷物を引き出すのにやや難儀するほど。ゴルフで満足のあの感じ、それを全方向にストレッチ、熟成させたようなキャラクターはしかし、出しゃばらない。それがとても心地いい。

例えばサービスを受ける場合でも「●●というシステムになっております。」と言ってみたり「ごめんなさい、それはできないんです。」とビジネスモデルの都合を客に押し付けるような場面をとても多く目にするものです。最近ああいうことで時々イライラするのですが、ああいうところがない。それが例えばいいホテル(高いホテルがいいとは限らない、という前提はここで強調しておかねばなりません。)だと、そもそも「申し訳ございません」と言ってきません。有益な提案として提示され、消去法で客が我慢するのではなく、アフォーダブルな選択を客がした結果、ホテルのサービスを受けるというニュアンスが強いものです。

フォルクスワーゲンは人が心地いいように、さほど主張することなく、気づくとものすごいことをさらっとやってのける。そういうことを自然にこなすキャラクターではないでしょうか。それをさらに、俊足は滑空するかの滑らかさ。ハンドリングはより上質なもの。ボディも静粛性もなかなか高い。「高級なフォルクスワーゲン」の心地よさは、クルマに求める心地よさの王道であり、そのいいホテルのもてなしに通じるものを感じます。

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▲甲府・湯村温泉の常盤ホテルは数あるこの地の宿の中でもホスピタリティも素晴らしい宿で、このところ利用する機会が多い。コンテンツのバラエティではなく、一つ一つに粛々と迎えてくれる感じが実に過不足なく心地よい。先進のPHEVながらパサートGTEにもある種、そのようなもてなしを感じる。

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楽しい道をドライブして帰ろうか。と思えるクルマ


取材と身内の用事で幕張と山梨を往復を2日続けてすることになったのですが、そんなことで音を上げることがなかったことは言うまでもありません。そればかりか、行きも帰りも、ちょっと寄り道をしたくなったのです。多少渋滞していたというのはあるのですが、普段から、高速を標榜していてその巡航速度が担保されないのであれば、本来享受すべきサービスレベルを受けられないわけで、その間をダイレクトに結ぶのだからという最低限の事実だけでしっかり通行料金を徴収してくるのが日本の高速道路です。

しかし、時間を買っているという側面を棚に上げて、そういわれてもちょっと釈然としない部分もあります。こうしたときに、別の道を通り、季節を満喫、郷土を満喫する価値を、高速道路への支払うコストの代わりに堪能することを、筆者はしばしば選択することにしています。多少距離も多く走って、車速の関係で燃費も悪化するかもしれませんが、それでも、期待値が望めない高速料金を支払う分をそこに充当する。そのかわり気ままに、かつその時に走らねば見れない景色、産物の購入などに充てるということなのです。こういう思考に至った際、同様に快適で、低燃費(低コスト)では知れたらいうことはないわけでありますが、パサートGTEがまさにそんなクルマだったと言えるのです。

優秀な運転支援システムも当然ついています。ですので渋滞に唯々諾々と突入しても、それなりに楽しい時間を過ごすことはできるでしょう。ハイブリッドですし、エンジン自体が1.4リットルだというので、声にあげて驚いてしまったものですが、燃費だって悪化の心配はありません。それでも、楽しい道をドライブして帰ろうか。と何の疑いもなく、そういう思いに至るのは、このクルマが快適で、乗り心地に加えて、ハンドリングもよい証でしょう。

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▲今年のヌーヴォーはもう少し待つことになりそうだ。日照時間も十分で、糖度旨みも十分な今年のブドウを見ると、ワインの出来も楽しみだ。我が家では古くからおなじみのグレイス・ワインの中央葡萄酒にも立ち寄った。ちなみにこの日は前日に幕張から直行。あくる日も幕張に行くことになっていたさなかでのドライブ。ロングドライブだからといって旅程を削るという判断は、パサートGTEでは無用。ことさらにひけらかす外観ではないフォルクスワーゲン。乗ると二度見の感動というのはさすがフォルクスワーゲンだし、こういうドイツ車に触れると、嬉しくなるものだ。

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▲大ぶりなボディは決して軽量ではない。それでも1400㏄のエンジンをPFEV化したこのクルマ。十二分なパフォーマンスと、燃費も1リットル当たり20キロ目前程度の実績をたたき出すのに、さほど燃費を意識する必要はない。こういうクルマのパッケージにのみ、ある種の「未来感」を感じる。

外見は、全く穏便そのもの。およそドライビングを楽しむためのクルマの装いではありません。しかし、こざかしいハンドリングマシーンの中で、大柄なパサートのほうがマシというクルマなど枚挙にいとまがないほどです。燃費に関しては1リットル当たり15キロ前後のレベルですので、今時ことさら話題の中心にするまでもないかもしれません。しかし、荷物満載で、人もしっかりフル乗車、それでペースを優先、ドライビングを楽しむことを優先してもそのくらい走りますので、非難されるほどでもないのでしょう。

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▲すべてにおいてちょうどいい、がフォルクスワーゲンの身上だと思うわけだが、その中でも持て余すはこのトランクルーム。奥行きがたっぷりしていて形状もスクエア。これをいかにしていっぱいにするか、は考えない方がよいだろう。多くの人にとって「無駄な抵抗」であるに違いない。

失念しておりました。パサートGTEはPHEVです


最初パサートをお借りするときに正直、「普通のでいいのだけれど」と、フォルクスワーゲン広報の池畑さんのご好意を無にするようなことが頭をよぎったことも事実です。最近はだいぶましになりましたが、ハイブリッドのあの妙に「エンジンの部」で走っていて、バッテリーでの走行に移行するとき、その逆もしかりですが、この境目の挙動がどうも好きではありませんでした。変な空虚な瞬間を感じるのです。ブレーキを踏めば、何か秦のようなものが挟まったようなフィーリングのものがあったり。パッド交換時期ですか?というあの感触も違和感を感じました。

とにかく、すべての挙動に何か注文を付けたくなる余地があったものです。ここまでパサートの出来には感銘を受けました!と申し上げてきた部分はすべてパサートGTE、PHEVでのフィーリングなのです。すべてが自然、エンジンに寄り添うように加減速をアシストする。このクルマのフィーリングはまず「鼻につく部分がない」ことに加えて「クルマとしてのフィーリングにおいて完成度の高いもの」を実現しているといってよいでしょう。

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▲シンプルなフォルムはしかしスマート。この位置からの眺めがなかなか良いと感じた筆者であるがいかがだろうか。もちろんパサートGTE、大人気、そしておなじみのワゴンボディ「ヴァリアント」も選択可能だ。しかし、このセダンでも十分な実用的だし、ワゴンではパサートのパサートたる個性が若干影を潜め、「圧倒的なワゴン」というメッセージの方が色濃いように感じる。もちろんアウトドアから、インテリアなど、ONもOFFも、アーバンもサバーバンでも無敵のヴァリアントを使いこなせる暮らしには一抹のあこがれはあるものの、実際問題その器を持て余すことはほぼ必至だ。

普通のセダンとしては十二分に速いですし、そうして滅法速い状況下でも的確にコントロールできるステアリング、ブレーキなど、こうしたタウンユースから高速走行までの幅広い速度域における操作性の総合的な印象については、四半世紀ほど前のメルセデスベンツのような、ニュートラルな印象すら覚えた程です。しかし、誤解ないよう、加えて申し上げなければいけないのは、もっとずっと軽やかだし、フレンドリーです。威光を見せて対峙させようなどという雰囲気がないのは、このクルマのフォルクスワーゲンたるところ、そういってよいのではないかと思います。

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▲返却は毎度のことながら名残惜しいもの。しかし、心を鬼にしてとっとと返却しなければならない!という思いも。うかうかとまたあちこちに出歩いてしまいそうで、ストレスは発散されても、宿題はたまるばかりのような気がするから。

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パサートGTEのセダンボディは節度ある中庸さ


こんなタッチのセダンですので、うっかり失念ていたことはPHEVであることにとどまらず、このクルマの大きさです。もう5メートルになろうかという全長4800ミリほど幅は1800ミリを当然のように超えるのは今時のクルマだと思いました。しかし、「ジェッタ?」今は日本では見ないゴルフのノッチバックバージョンと大差ないような取り回しに感じるほど、走行中のサイズ感は小さいものです。時にUターンなどで切り返しをしたり、ショッピングセンターの駐車場で柱の脇に停めたりしたときの枠の占有率を見て、結構大きいのね、と再認識させられる程度でした。

パサートならワゴンだろ!と最初思っていた私も、返却するときにはセダンでもいいなあ、と思うほどでした。何しろ、クラウンもアスリートがメイングレードになった感があり、ややかつての穏便さがないなどというこの時代、パサートGTEのセダンボディの節度ある、中庸さ、冠婚葬祭を選ばぬ万能性こそが、実は現在この国でクルマに求める性能の重要な部分でありながら、それを満たすクルマが極めて少ない状況に対する、このクルマの持つ大きなアドヴァンテージなのではないか。そんな風に感じたものです。

実はこれはシトロエンなどではもっと明確に感じることなのですが、「ワゴンになるとその車種が何かよりもワゴンであるという事実の方が色濃くなる」という傾向はないでしょうか?シトロエン・エグザンティアはいいクルマですし、普通のセダンで相当の実用性を持っています。あれのブレークはもちろんその上をいくでしょう。しかしもはや、キャラクターにおいてエグザンティアであるということは希薄になり、「ワゴンである」となってしまうような気がするのです。パサートワゴンにも今回似たような印象を持っています。とてもいい選択肢だと思いますが、あの今時稀有なセダンのノーブルな雰囲気をとどめながら、あれ程大きなトランクを有し、キャビンが独立したセダンの快適性があることを思えば、あえてワゴンは要らないかも、と感じたのです。この案配はぜひ皆様ご自身の目と感覚で判断していただきたいところです。

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▲常盤ホテル、実はEVの充電施設があった。お願いして充電させて頂けばよかったと、少し後悔。

こういうクルマを見ると、まだまだ欧州車の底力を感じますし、ぜひセダンがずいぶん減った日本車のこのクラスを刺激してほしいとすら感じる一台。愛車の一台にこのパサートGTEを選ぶ。いい選択肢だと思います。そうそう。GTEはPHEVですので、フル充電しておくと、最大で50キロほど電気だけで走ることもできるそうです。近場のガソリン代は抑えられますね。こういうPHEVの特殊性や利点、それがなかったとしても十分優秀な質を盛り込んだフラッグシップ・フォルクスワーゲン。それだけ自然だということなのでしょうが、記事にまとめようとすると、いろいろとすぐに失念してしまっていけませんね。

意のままに走り、呼吸するように自然な佇まい。PHEVである以上にフォルクスワーゲンである。パサートGTEはそんなクルマだと感じました。

[ライター・カメラ/中込健太郎]

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