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更新2024.02.23

欲しいクルマを手に入れるなら原体験+αが重要かもしれないという話

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松村 透

人生初の輸入車体験は高校1年生のとき、いわゆるこれが「原体験」だ。


もう30年以上の前のことだけど、強烈な体験だったのでいまだによく覚えている。輸入車初体験となったクルマは、親友のお父さんが念願かなってついに購入したジャガーXJ6だった。年式は忘れてしまったが、たしか当時5年落ちくらいで、1986年あたりだったはずだ。


親友からは、ジャガーが納車されたら見せてもらえるという約束を事前に取り付けてあったが、当日になって同乗させてもらえることになった。こんな機会はめったにないので、親友とそのお父さんの厚意に甘えさせてもらうことにした。


当時、筆者が住んでいた自宅はマンションの5階だった。そのマンションには駐車場が隣接されていて、暇さえあればベランダから駐車してあるクルマのフォルムを眺めていた。ミニバンもRV車も少数派でほとんどがセダンだった。同級生の自営業のお父さんが発売されたばかりのV8クラウンが止めてあり、カローラクラスとは2まわりくらい違うボディサイズに驚いたっけ。この日も、自宅のベランダからジャガーの到着を待ちわびていた。


そして夕暮れどき。これまで見たこともないような曲線を描いたガイシャがすべりこんできた。それこそまさに親友のお父さんのところに納車されたばかりのジャガーだ。上からの眺めだと、リアの絞り込みがより強調される。マンションの駐車場に止まっている日本車とはあきらかに役者が違う。一瞬で先述のV8クラウンが色褪せてしまうほどだ。まさにエレガントという表現がぴったりなクルマだと思った。



とはいえ、このまま見とれていては物事が先に進まない。玄関を飛び出し、急いで階段を駆け下りると、そこには堂々とした、まさに「ジャガー」がたたずんでいた。


何しろそれまで、自分の親はもちろん、親族を含めて輸入車に乗っていた人が誰もいなかったので、突如目の前に現れたジャガーの雰囲気にただただ圧倒されてしまった。


それでもおそるおそるジャガーに近づいてみると、せっかくなので助手席に乗せてくれるという。ドアを開けようとするとそこは運転席だと気づく。おじさんの購入したジャガーは左ハンドル仕様だったのだ。


「イギリス車なら右ハンドル仕様でしょ?」みたいな声が外野から聞こえてきそうだが、もはやそんなことはどうでもいい。人生初の輸入車&左ハンドル体験が同時に体験できることになったのだから。


おそるおそる助手席に乗り込んだ瞬間、革シートの匂いが鼻をくすぐった。そして厚みのあるシートはクルマのそれというよりソファみたいに思えた。ドアを閉めると「バチャン!」と硬質な音とともに室内は静寂に包まれる。革とウッドパネルとメッキパーツが広がる景色。プラスチックを用いている部分は最小限だ。これが「ガイシャ」なのか・・・。この時点ですでに夢見心地なところに、おじさんからシートベルトの装着を促され、ハッとなる。シートベルトを着用しようとするといつもと逆の動きに戸惑う。右ハンドルの眺めってこんな感じなのか。



おじさんが日本車と比べるとえらく細身なセレクターレバーをドライブに入れるとバクンとギアが入り、するするとジャガーが動き出した。初めての輸入車&左ハンドル体験、そしてジャガー特有の加速と乗り心地。何しろいちどに流れ込んでくる情報量が多すぎる。ついさっきまで雑誌で読んでいたことが、いま目の前で現在進行形として起こっている。頭のメモリがパンクしている間にも、ジャガーXJ6は停止位置からすぅーっと走り出し、信号で停車するときもやはりすぅーっと止まる。「こ、これがうわさの猫足か・・・」。おじさんの運転も、今日納車されたばかりとは思えないほどスムーズだ。


そのうち、スピードが乗る90度左コーナーが近づいてきた。ここはオーバースピードで飛び込むとタイヤがたちまちスキール音をあげる。このスキール音狙いで、あえてオーバースピードで侵入するクルマがいるくらいだ。果たしてこのジャガーは・・・?



多少ロールしたものの、何ごともなくするすると90度左コーナーをクリア、そのまますぅーっと加速していった。このとき、高校生の身分で不覚にも思ってしまったんである。こんな感覚がいつでも味わえるのなら「いつかガイシャに乗りたい」と。


こうして1時間弱の助手席体験で、すっかり輸入車の魅力に取り付かれてしまった。


それから数年後、運転免許を取得し、若葉マークも無事に取れて、少しずつ運転にも慣れはじめていた。21才の誕生日を数ヶ月後に控えたある日、無謀にも「ポルシェ911に乗ってみたい」思いたった。


ジャガー助手席体験後、アルバイト先の社長が所有していたポルシェ911にすっかり魅せられてしまい、やがて自分でも運転してみたいという思いがふつふつと湧きあがっていたものがついに臨界点を突破したのだ。


しかし、社長の911は当時納車されたばかりだし、そもそも高額すぎてちょっと貸してくださいとはいえる雰囲気ではなかった。いまでこそ、ポルシェ911のレンタカーのサービスもあったりして、お金を払えば乗れるようにはなったが、いまから30年も前にはあるわけない・・・かと思いきや・・・あった!バブル期に流行った、会員制の高級レンタカーサービスの1台として911を借りることができた。とはいえ、入会金やら年会費でウン十万という費用が掛かる、特権階級(?)向けのサービスだ。貧乏学生にはあまりにも現実からかけ離れていた。


で・・・どうしたかというと、正面突破して、無謀にも当時の正規ディーラーに行って「試乗させてください」と乗り込んだんである。


向こうだって二十歳そこそこの若造が911を買えるとは思ってもいない。でも乗せてくれたんである。車種は忘れもしない。993カレラの6速MT。初の輸入車のドライブが左ハンドルのMTのポルシェ911。いま思うとよく乗せてくれたと思う。



ショールームの横にデモカーが横付けされ、さぁどうぞと運転席へと案内される。今度は失敗することなく左ドアから運転席へとすべりこんだ。半ドアにすることなくスターンとドアを閉め、シートポジションを合わせてからシートベルトを締めて、左手でスターターをひねり、無事にエンジン始動(このあたりの一連の所作はアルバイト先の社長さんの動きを見ていたのですんなりできた)。いよいよ背後で空冷フラットシックスがうなりを上げる。あぁ・・・。自分の意思でここまで来ておきながらもう後には引けない。


自宅に帰るまでにクラッチがなくなったとか、素人がまともに運転できるクルマじゃないとか・・・耳年増になりそうなことをさんざん聞かされていたので、緊張はピークに達していた。おそるおそるクラッチミートしてエンストすることなく路上に出られたときは自分はニュータイプなんじゃないかと本気で思った(笑)。自分がポルシェを運転している。夢に見た光景が現実となった瞬間だ(デモカーだけど)。



実はこの初輸入車ドライブ、クルマの印象はあまり残っていない。ディーラーから路上へ飛び出した記憶と、993運転に少しずつ慣れてきたころ、ふとルームミラーを見ると・・・。お目付役として同乗したセールス氏の「ったく、やってらんねーよ」な態度丸出しで居眠りをしていたからだ。視線があうとさすがに居住まいを正したが、何しろこちらは無理矢理試乗をお願いしている身。悔しいが何もいえないし、そういう態度を取られても仕方がない。


いまにして思えば「いつかは911を手に入れたい」が、このときから「今に見てろよぜったいに手に入れてやるからな!」に変わった瞬間だったかもしれない。その後、多少の紆余曲折があったにせよ、どうにかこうにか911を手に入れることができた。その後、このディーラーはおろか、輸入元もなくなってしまうのだけど、あのとき、同乗したセールス氏の不遜な態度がエネルギー源になったことは確かだと思う。



原体験という刷り込みと、何が何でも手に入れようというある種の意地。諦めたらそこで終わりだ。


事実、自分のなかでも「もう、このクルマは買えないだろうな」と思わざるを得ない車種が増えてきた。


欲しいクルマを手に入れるなら原体験+αが重要かもしれない。


この2つの要素が掛け合わされることで、欲しいと思っているクルマが手に入る確率がグッと高まるような気がする。


[画像/JAGUAR・Porsche、ライター・松村透]

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