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オーナーインタビュー

更新2023.01.29

「日本で唯一」香るヨーロピアン・スタンダード。オペル・アストラ(2010)

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TUNA

■欧州では沢山見かけるのに日本では見かけないクルマ



ヨーロッパの街並みが好きだ。


石畳に重厚な建物...。非常に月並みな表現ではあるのだが...何度ヨーロッパへ渡航しても、日本の畑と木造住宅を眺めて育ってきた筆者の目にヨーロッパの風景はいまだに新鮮に写り続ける。


だが、それよりもっと筆者の心をワクワクさせるのは、郊外へ向かう幹線道路の車列。そしてハイパーマーケットと呼ばれる大型ショッピングモールの駐車場だ。


脈々と息づく穏やかな生活のワンシーンに、ごく普通のヨーロッパ車がいる。そんな風景が大好きだ...。


ヨーロッパの思い出と空想に浸りながら日本の道路をあらためて走ってみる。
23区内を走っても短時間でかなり多くのヨーロッパ車を見つけられるはずだ。


でも、ヨーロッパでは沢山走っているのに、日本の路上では探してもすれ違うことのないクルマがある。それが2006年以降のオペルだ。



▲2019年のドイツ某所。街を行けばこのリアビューをよくみかけた。写真はASTRA Sports Tourer

日本へオペル車が導入されたのは、1927年に日本ゼネラル・モータースが行ったものが最初だ。その後、東邦モーターズやいすゞ、ヤナセなど、さまざまな販売会社からオペル車は日本のマーケットへと供給されていく。


ワゴン車ブームで注目を浴びたアストラのワゴンや、ドラマの影響で脚光を浴びたヴィータなど、日本国内でも華やかな一面を見せながらも、販売不振から2006年にオペルは日本市場を撤退する。


日本では販売が行われていない2006年以降も、オペルはヨーロッパ・カーオブザイヤーを3度も受賞している。


2009年にインシグニア、2012年にアンペラ、2016年にアストラ...。ジャーマン・スリーのプレミアム感とは異なる、実直かつ個性的なクルマづくりは今も紡ぎ続けられていることだろう。2023年現在では、日本への再導入を見込んだティーザーサイトがオープンされているので、今後の動向が楽しみだ。


ただ、メーカーの事情を顧みずいうなれば「日本の路上でも空白の期間に販売された車両の姿を見てみたかった...」という気持ちは強い。が、実はそんな車両が数少ないながら日本に存在しているのだ。


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■幻となった試験導入車。右ハンドルのオペル・アストラJ



▲2010年式、右ハンドル仕様のアストラJ。グレード名はSport、色はPower Rot Briliant

 


先述の通り、2006年以降オペルの正規導入車は存在しないのだが、今回紹介するモデルは2009年に本国ドイツで登場したモデル、歴代4台目となる通称”アストラJ”だ。


今回紹介するオーナー、Nさんが所有するアストラは登録が2010年。右ハンドルでリアウインドウにYANASEのステッカーが備わる。見れば見るほどに謎が深まるモデル。その経緯をNさんに伺ってみることにしよう。


「このアストラは当時のヤナセが正規輸入したテストカーだったといわれているクルマで、恐らく日本には一台しかないものです。オペルの認証工場でもあり、試験導入に協力した店舗から2オーナー目で自分の手に渡りました」



Nさんがこの個体を即決したのにはワケがある。なんとひとつ前に乗っていたのはアストラの歴代3代目モデル。日本正規導入車の”アストラH”だったからだ。
日本では珍しい、いやひょっとしたら日本の一般オーナーでは唯一3代目から4代目アストラへと乗り換えをした人物かもしれない。そんなNさんのクルマ自体への興味を伺ってみる。


■実直かつ挑戦的。ドイツが生んだスーパーベーシックに惹かれるカーライフ


「クルマが好きになったのは幼少期の頃に父親とやっていたグランツーリスモ3ですね。アストラのツーリングカーが出てくるゲーム!ではあるのですが、クルマ自体が好きになっても、そこでオペルが好きになったり、カタログやミニカーの収集などは特に行いませんでした。高校生になるまで輸入車にも興味はなくマニアックではなかったと思います」


では、なぜアストラだったのでしょうか───?


「大学生のときにアストラHを購入しました。きっかけはただの衝動買いで、最初は深い興味もなかったんです。ただ、いざ所有して運転し、その設計思想やデザインのことが気になりはじめて調べていくと、徐々にオペルというブランドのものづくりに強く惹かれるようになっていきました」



カーライフを過ごすなかでオペル、そしてアストラというクルマの魅力にハマっていったNさん。自身の想像を遥かに超える移動距離や疲れの少ななさ。
ドイツ車的な実直さと、スタンダードカーとしての付き合いやすさが、Nさんの行動範囲、そしてクルマ人生そのものを変えていく。


「そもそもクルマを所有したら行動範囲が広がるぞー!と意気込んでいたのですが、まさか数百キロ走り続けても体が疲れないものとは思っていませんでした。例えば住んでいた北関東から実家のある関西への帰省なども本当に楽で、シートやボディ、エンジン特性などがよくマッチングしているように感じます。この感覚は実際に乗ってみないと味わえない感覚でした」



▲エンジンは1.6Lターボで180psを発生する。ミッションは6AT

はじめての愛車として数年間連れ添ったアストラHだったが、さまざまな事情で手放さざるを得ない機会が訪れる。


「諸般の事情で別れざるを得なくなり、自分のなかでかなり寂しい気持ちになる期間がありました。そんなとき、偶然眺めていた自動車のフリマサイトでアストラJを発見しました。出品から3日目だったのですが、見つけて即決で購入を決意しました。まるで以前乗っていたアストラが生まれ変わって帰ってきたかのような…そんな感覚に陥りました」



NさんはアストラJを所有しはじめて約半年。「まだまだ新米ですよ」と笑いながらも、連れ添う感覚は既に30年くらい一緒にいるようだと感じるそう。



お言葉に甘えてコクピットに座らせていただく。


精緻な計器類、シックな内装のあしらい。どれをとっても現代的な感覚を使いやすく配置されているのだが...。このアストラからは写真では伝えようのない、ある一点に無性に惹かれる。それは、シートの香りだ。


古いドイツ車を所有した方なら経験があるかと思うが、あのレザー内装の甘苦い香りがアストラの車内を雰囲気良く包み込んでいる。


「このインテリアの香りが自分をアストラから離れられなくする理由のひとつですね。逆にこれがなければ。もう既に物足りないくらいに感じてしまっています」


数値や機能に現れる性能ではなく、五感に訴えかける味わい。これこそが移動するための道具であるクルマを”愛車”にする理由のひとつだったりするのかもしれない。


Nさんの言葉と誘惑するかのように香るアストラのシートからそんなことを感じる。



最後にアストラとのこれからについて伺ってみた。


「基本的には大切な財産として残していきたいなと思っています。ただ、貴重な車だからこそ沢山の人の目に触れてもらって記憶に残ってもらえたら嬉しいです。なのでこれからも色んな場所やイベントにアストラと行ってみたいと思います。アストラの経験を自分のなかだけで完結してしまうのは本当にもったいないことなので...例えば映画の劇用車などにぜひ使ってもらえたらいいのにな、なんて思っていますね(笑)」



愛車への想いは反響するように大きく育っていく。これからアストラはNさんをどんな景色につれていってくれるのだろうか。さらに遠くへと日本の地を走っていくアストラを想像しながらひとりと一台の未来へと思いを馳せた。



[ライター・撮影/TUNA]

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