
エンタメ
更新2015.10.19
趣味と実用を兼ねたコレクション?シトロエンBX 4TCの魅力。

北沢 剛司

オーナー目線で見たシトロエンBX 4TCの魅力とは?
初対面の人からは「なぜシトロエンBX 4TCを買ったですか?」と、よく聞かれます。その理由は、かつてWRCに出場していたグループB車両のなかではもっとも謎の多い存在で、実際にどんなクルマなのか確かめたいという好奇心からです。
>

グループB車両にはランチア、プジョー、アウディ、フォードなど、素晴らしいベース車両がたくさんあり、輝かしい戦績も残しています。反面、シトロエンBX 4TCの戦績は散々たるものです。1986年の開幕戦、モンテカルロ・ラリーでデビューしたものの、SS1で1台がサスペンショントラブル、もう1台はSS6でクラッシュしてリタイア。第2戦のスウェディッシュ・ラリーでは 1台をトラブルで失ったものの、もう1台が6位に入賞。そして3戦目となるアクロポリス・ラリーではSS1で2台がトラブルで脱落、残る1台もSS2でクラッシュして全滅。このラリーを最後にシトロエンはWRCでの活動を休止してしまいました。
以上がWRCにおけるシトロエンBX 4TCの活動のすべてです。後にシトロエンに乗るセバスチャン・ローブが2004年から2012年まで9年連続WRCチャンピオンに輝いた歴史とはあまりに対照的と言わざるを得ません。さらに1986年でグループBが廃止されたため、ホモロゲーション取得のために製造した車両のほとんどが売れ残りました。なぜならBX 4TCの新車価格は、当時のスポーツモデルだったBX Sportの2.5倍近い高価格だったからです。わずかに販売した車両にも不具合が多発したこともあり、シトロエンはついに販売した車両の買い戻しを決断。それらをまとめてスクラップにしてしまったのです。シトロエンが販売車両を自ら回収して処分した例は、ロータリーエンジン車の「M35」、「GS Birotor」に続くもので、シトロエンの乗用車における3大黒歴史のひとつとなっています。
そのため、BX 4TCは日本で話題に上る機会がほとんどなく、私自身も自分のクルマを見るまで現物を見る機会がありませんでした。私にとってBX 4TCの最大の魅力は、歴史探究の楽しみがあることです。内容がマニアックすぎるため今回は割愛しますが、少ない資料のなかから事実を掘り起こしていく作業は、面倒ではありますが新たな発見があって楽しめます。

ラリー仕様の外装パーツが付いてきた!
購入を後押ししたもうひとつの理由が、ラリー仕様のエボリューションモデルのキットが含まれていたことです。競技用車両として20台が製作されたBX 4TC Evolutionは、WRC撤退後、一部の車両がラリークロスに使われたり、博物館に収蔵されたほかは、現在も半数以上が消息不明となっています。そんなワークスマシンのボディキットがどういう経緯で前オーナーの元に来たのかは不明ですが、購入時の写真にはボディの後ろ半分にボディキットを装着した姿がありました。

当初はEVOキットを使ってBX 4TC Evolutionレプリカを製作しようかと思っていました。しかし、BX 4TC Evolutionはインレットマニフォールドの取り回しが市販車と異なるため、ボンネットのパワーバルジが低く、そのままでは装着できないことが分かりました。そのため、レプリカ計画はペンディング中です。

これらのボディキットが果たして本物なのか、あるいはリプロダクション品なのかは今後検証してみるつもりです。購入してから8年以上経つのに未開封なんて、人によっては信じられないかも知れませんね。でも、これも趣味を長続きさせる秘訣なのではないかと思うのです。

クルマ趣味におけるサスティナビリティ
「購入時に部品供給や整備の不安はなかったのですか?」とよく訊かれます。「実車が観たい」というモチベーションだけで購入したので、はっきり言って「なんとかなるだろう」としか考えていませんでした。そういう不安をまともに考えていたら、たぶん購入を断念していたでしょう。趣味のクルマには、ある意味「鈍感力」が必要だと思うのです。
所有している間には多かれ少なかれトラブルがあります。私のクルマもいろいろありました。とにかく情報も資料もないので、トラブルが起きても手探り状態。完調でないまま乗り続けていた期間も数年間におよびます。でも途中で投げ出さなかったのは、これが趣味で乗るクルマだからです。私の場合、「趣味なんだから行き急いでどうする」が基本です。仕事じゃないのだから、ゆっくり時間をかけて楽しまないともったいないでしょう。焦って結果を求めてしまうと、燃え尽き症候群になったり、心が折れてしまうことにつながり、クルマを売りたくなってしまいます。

これまでも部品がなかなか見つからなかったり、うまい解決方法が見つからないときは、何もしないで放置しておいたことが何度もありました。その間はミニカーコレクションを楽しんだり、鉄道写真を撮ったりして、別の趣味活動に励んでいました。こうして活動休止が続くと、自分のなかで「ヤバい」という危機感が芽生えてきて、再びやる気スイッチが入るのです。良い意味でユルい活動をしていると趣味が長続きします。モチベーションが高いときは一生懸命に、逆に低いときは頑張らない。仕事で疲れているのに、趣味の世界でも疲れたら嫌になってしまいます。クルマ趣味におけるサスティナビリティ(持続可能性)とは、何が起こっても楽しめるような心の余裕にあると思っています。

BX 4TCは快適な実用車?
シトロエンBX 4TCは、趣味のクルマとしてはとてもユニークな存在だと思います。しかし、このクルマにグループBモンスターらしさを求めると肩すかしを食らうでしょう。なぜなら、BX 4TCは非常にジェントルな性格で気難しさとは無縁。峠道を攻めて楽しむクルマではなく、長距離を一気に走るような使い方に向いているからです。

そして、グループB車両としてはたぐいまれな実用性の高さも特長です。ダブルフォールディング式のリアシートを倒せば広大なラゲッジスペースが生まれるため、納車時には前述のEVOキットが車内に満載された状態になっていました。それにリアドアがあるため、後席への乗車が苦になりません。

とはいえ、BX 4TCの最大の魅力は、やはり濃厚なシトロエンらしさが楽しめることだと思います。シートは快適だし、足回りには伝統のハイドロニューマティックを採用しています。ハイドロとしては固めの乗り心地もグランツーリスモとして考えれば理想的で、高速走行が得意なシトロエンの特長を受け継いでいます。


それに当時のプジョー・シトロエングループの部品を最大限流用してつくられているため、どの車種と共通の部品を使っているかを研究するだけでも非常にやり甲斐があります。例えば、エンジンはプジョー505ターボ、トランスミッションはシトロエンSM用がベースで、セルフセンタリング式ステアリングはシトロエンCX用という具合。ちなみに納車時に交換したスフェアはシトロエンXM用でした。
基本的にはシトロエン上級者向けのモデルといえるBX 4TC。私のようにグループB車両として購入し、結果的にはじめてのシトロエンとして乗る例はほとんどないかも知れません。でも、以前乗っていたマセラティ・ビトゥルボが壊れて乗り換えを考えたとき、次の候補として真っ先に試乗したのはシトロエンXMでした。そう考えると、私とシトロエンBX 4TCとの出会いは必然だったのかも知れませんね。
[ライター・カメラ/北沢剛司]