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ドイツ現地レポ

更新2020.05.27

ドイツにおけるメルセデス・ベンツやBMW、VWなどのヒエラルキーは確立されているのか?

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守屋 健

クルマにおけるヒエラルキー。クルマ好きの間では時々話題にのぼりますが、なかなか「こうだ!」という結論が出にくい議題でもありますよね。「所得階層によって乗るクルマが異なる、というのは真か偽か?」「高級車の方が大衆車より公道で優遇されたり、優位に立てたりするのか?」「実社会のなかで、クルマは未だにステータスシンボルとして機能するのか?」「高級車に乗っているヤツの方がモテるのか?」

いずれも、それを話し合っている当事者の観測範囲を基準とすることによってしか進まない話題であり、むしろ「様々な結論を楽しむ」というくらいの感覚でいた方がよいのでは?というくらい、ちょっとシビアな議題でもあります。年収なども絡んできてしまうので。

さて今回は「ドイツ現地において、メルセデス・ベンツやBMW、VWなどのヒエラルキーは確立されているのか?」ということをテーマにお話していきたいと思います。上記の通り、筆者の観測範囲をベースに書いていくことにはなりますが、ぜひ最後までお付き合いください!

社会的地位が高くても、クルマにお金をかけない人もいる



ドイツにおけるメルセデス・ベンツやBMW、VWなどのヒエラルキーは確立されているのか?

結論から言いましょう。「ヒエラルキーは存在するが、あまり重要ではない」です。

ドイツ国内では「ドイツ車の値段がもっとも高い」ということを、みなさんはご存知でしょうか?VW・ポロに比べるとルノー・クリオの方が安く、BMW・X2よりも日産・キャシュカイの方が安く手に入ります。日本での「輸入車は高い」という常識はドイツでは当てはまりません。ドイツでは「(ドイツの)国産車は高い」というのが共通認識です。それでも、ドイツにおけるドイツ車のシェアは6割以上。ドイツ人は自国の製品に誇りを持っていますから、高くても買いたいという人は多いのです。

そんなドイツ国内で、メルセデス・ベンツやBMW、アウディのミドルクラス以上を購入しているのは、ある程度の所得がある人に限られています。またドイツでは、会社の上層部に勤めている人に、会社がクルマを支給する制度、いわゆる「カンパニーカー」制度が一般的になっていますが、その際に多く選ばれているクルマはメルセデス・ベンツ、BMW、アウディの「御三家」のミドルクラス以上が大半です。会社がクルマ代を出してくれるのであれば、少しでもいいクルマに乗りたいと思うのは当然の心理ですよね。カンパニーカー制度を活用しているにせよ、プライベートで購入しているにせよ、高年式のメルセデス・ベンツ・Eクラス、BMW・5シリーズ、アウディ・A6、それ以上の価格帯のクルマに乗っているのは、中流階級以上と考えても差し支えありません。

しかし、ここからが日本とドイツの違うところ。ドイツでは、クルマはステータスシンボルとしてはあまり機能しません。どういうことかというと、大豪邸に住んでいるのにクルマはVW・ポロだったり、弁護士の愛車が初代スマート・フォーツーだったりと、富裕層でも安価なクルマをファーストカーとして愛用している人は少なくないのです。ちなみに、ドイツ連邦共和国首相アンゲラ・メルケル氏の愛車はVW・ゴルフ。ドイツの政治家の給料はそれほど高くないと言われていますが、とてもつつましい選択だとは思いませんか?つまりドイツにおいては(日本でも同様ですが)、所得がないとメルセデス・ベンツ・Sクラスは買えません。しかし、所得があってもSクラスを選ぶとは限らない。「これだけの社会的地位があるなら、これくらいのクルマに乗らないと箔が付かない」というような価値観は、ドイツにおいてはあまり重要視されていません。

日本では、年齢や社会的地位が上昇してくにつれ、服装や身につける物にこだわったり、それぞれのライフステージに見合ったクルマに乗ったりという風に、自分のステータスやライフスタイルを表現する文化があります。これらは前提として「他人からどう見られているのか、どう見られたいのか」を意識するという考えが根底にあります。一方ドイツでは、日本ほど他人からの目を気にしません。「他人が自分のことをどう評価しているのか?」を気にするよりも、「自分が自分らしくいられるように生きるにはどうしたらいいのか?」と考えるのがドイツ人の流儀です。

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人の目を気にするより、自分らしく生きることの方が大切



ドイツにおけるメルセデス・ベンツやBMW、VWなどのヒエラルキーは確立されているのか?

ドイツは大陸に位置し、多くの国と国境を接しているため、古くから複数の民族・人種が混ざり合ってきました。他国にルーツがある家系は珍しくなく、都市圏ではむしろ一般的と言ってもいいでしょう。特に、第二次世界大戦後はイタリア、トルコ、ベトナムからたくさんの移民が入ってきて、現在では第二世代、第三世代が活躍する時代になっています。移民をルーツに持つ彼らは、見た目こそ出自を色濃く感じさせる場合もありますが、ドイツで教育を受け、ドイツ語を話し、ドイツの企業や社会で活躍する「ドイツ人」です。彼らを「ゲルマン民族の見た目をしていないから、ドイツ人ではない」と決めつけることはできません。

そうした流れもあって、ドイツでは外見のみでその人を判断するのは不可能…というより、意味がないのです。外見を重視しないというドイツの傾向は、社会に深く根付いています。学校に制服はないですし、ドイツのビジネスマンたちの服装は日本よりもずっとラフで、スーツ姿の男性を街中で見かける機会はかなり少ないです。首都ベルリンの公的機関に行くと、長髪で刺青、長く伸ばしたひげにTシャツとデニムという格好で働いている人や、中東にルーツを持つイスラム教徒の女性がヒジャブ(公の場で女性が頭髪を隠す布)を着用して勤務している姿を見られます。筆者の経験からすると、スーツを着ているのは銀行で働いている人、制服を着ているのは鉄道や空港関係者など交通インフラに関わっている人くらいでしょうか。

ですから、ドイツでのクルマ選びのポイントは「自分の使用目的に合っているか?」に集約されます。「ステータスの表明としてのクルマ選び」はあまり意味がありません。ドイツでは、乗っているクルマでそのオーナーの社会的地位を判断することはできないからです。

他人が外見を必要以上に気にしないので、購入時に「こんなクルマに乗っている自分は、周りからどう見られているか?」ということもあまり考えません。都市部で路上駐車する機会が多ければスマート・フォーツーのようなマイクロカーを選びますし、アウトバーンの移動が多ければVW・ゴルフ以上のクラスのクルマを選びます。環境問題に関心がある人は、電気自動車を積極的に選んでいく傾向もありますね。ドイツでは日本に比べて買い替えのサイクルは長く、自分の使用目的に合ったクルマを選んで長く大切に乗るのが一般的です。リセールバリューを気にして車種や色、グレードやオプションなどを選ぶ、という考え方はほどんどありません。

厳格なドイツの交通ルール



ドイツにおけるメルセデス・ベンツやBMW、VWなどのヒエラルキーは確立されているのか?

公道上でのヒエラルキーについてはどうでしょうか?VW・ポロのドライバーはBMW・5シリーズのドライバーより、肩身が狭い思いをしているのでしょうか?

ドイツの交通ルールはかなり厳格で、しかも厳守しないとあっという間に罰せられます。制限速度4km/hオーバーで写真撮影と罰金、車間距離を詰めても罰金、アウトバーンで追い越し車線を延々と走っていると罰金などのルールが代表的ですが、注意したいのは「本当にすぐに捕まる」という点です。制限速度以上の走行が常態化している日本とは、まったく状況が異なります。

こうした交通ルールの厳格化のおかげで、ドイツではあまり「あおり運転」などが問題にはなりません。道幅も広く、交通量も日本ほどは多くないので、速いクルマが遅いクルマを追い抜くのもそれほど難しくないのです。アウトバーンでも、遅いクルマが速いクルマに道を譲るのは当たり前。まして、速度無制限区間の追い越し車線は、本当に速いクルマとドライバーだけが走る場所。そんなところにVW・タイプ1で延々と走る無謀な人はもちろん皆無です。

そうしたこともあって、メルセデス・ベンツ、BMW、アウディの「御三家」のミドルクラス以上が公道で我が物顔のように振舞っている、というようなことはありません。道を譲る対象は「速いクルマとドライバー」であって、ヒエラルキー上位クルマではない。そもそも交通ルール厳守のドイツでは、自分本位の身勝手な運転というのは不可能です。

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既存のヒエラルキーの破壊者、SUV



ドイツにおけるメルセデス・ベンツやBMW、VWなどのヒエラルキーは確立されているのか?

結論をもう一度言いましょう。「ヒエラルキーは存在するが、あまり重要ではない」。

近年ドイツでもSUVが大人気ですが、それは既存のヒエラルキーを破壊する、という意味合いもあります。既存のヒエラルキーに対して忌避感のあるお金持ちにとっては、SUVは自分らしさと自由の象徴であり、若者たちにとっては「既存のヒエラルキーには収まらないぞ」という意思表明になっているのです。ヒエラルキーはもともとドイツ語のHierarchie(発音はヒエラルヒーが近い)という階層制や階級制を表す言葉ですが、現地ドイツでそこからの脱却を目指す動きが出ているのは興味深いですね。

多くの自動車メディアで「ヨーロッパではクルマのヒエラルキーが明確である」と言われていますが、筆者の見解は「クルマのヒエラルキーは明確であるものの、だからといって人がそれだけで社会的地位を判断することはないし、クルマ選びについては『自分らしくあること』に重点が置かれている」ということになります。

それに、一言でヨーロッパと言ってもその範囲はかなり広く、ドイツですら16の州からなる連邦共和国ですから、それぞれの地域で状況や価値観は異なります。筆者の住むベルリンではこうした結論に至りましたが、もし金融の中心地・バイエルン州のミュンヘンに住んでいたら、また違う結論になっていたかもしれませんね。

ちなみにドイツでは、いいクルマに乗っている男よりも「身体を鍛えている」「DIY能力が高い」「アウトドアでの遊びが上手」な男がモテます。それでは、また次回の記事でお会いしましょう!

[ライター・守屋健]

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