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ドイツ現地レポ

更新2020.09.19

なぜ、ドイツでは20万kmオーバー走行のクルマが中古車として売り物になるのか?

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守屋 健

日本において、ドイツは「物を大事に、長く使う文化」だと言われています。筆者が実際にドイツで住み始めてからは、若者を中心に少しずつ消費重視の文化に変わりつつあるという印象はあるものの、全体的には今でも「古いものでも、直しながら長く使う文化」は根強いといえるでしょう。

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クルマに関しても例外ではありません。日本ではとっくに廃車にされているような「走行距離20万km超えのクルマ」がそれなりの値段をつけて売られていて、しかもそのタマ数の多いこと!日本とは気候や交通事情が大きく異なるとはいえ、いわゆる「ヴィンテージ」としての価値のない普通の大衆車が、なぜこれほどまで長く売り物になるのでしょうか?その背景には、ドイツに長く根付いてきた「ある価値観」がひとつの要因となっていたのでした。今回の現地レポは、ドイツで20万kmオーバーのクルマがなぜ売り物になるのか、その理由に迫ります。

長く乗り続けると問題になる3つのこと



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クルマを10万km以上、10年以上と長く乗り続けていると、どんな問題が起きてくるでしょうか?税金や保険の問題、年々厳しくなる排気ガス規制、そして部品調達の難しさなどが挙げられるでしょう。

日本では古いクルマにかけられる税が極めて高額で、旧車を愛する方々から是正を求める声が上がっています。しかし、ドイツにおいてはそうした問題は起きておらず、むしろ「Hナンバー制度」(製造から30年以上を経てオリジナル状態を残している個体を産業遺産として認め、税や保険料を低減する制度)など古いクルマを大事にする制度が整えられています。

一方排気ガス規制に関しては、ドイツにおいては日本よりも厳しく、特に都市中心部に入る車両についてははっきりと制限されている場合があります。例えば、東ドイツの象徴的な車種として人気のトラバント601ですが、現在の排気ガス規制をクリアできず、「Hナンバー」取得車以外は首都ベルリンの中心部を走行できない決まりとなっています。

最後に壁となって立ち塞がるのは、やはり部品調達の問題でしょう。日本車の旧車に乗っている方が口を揃えて言う部品調達の難しさですが、古いドイツ車の部品の入手はそれと比べると難しくありません。ポルシェはクラシック部門を立ち上げ、356のオリジナルパーツの復刻や、現代の交通事情に対応するためのアップデートパーツの販売も始めました。メルセデス・ベンツに関しても、古い車種についての部品はすべて図面が残っていて、相応のコストはかかるものの在庫がない場合は新たに作る、という対応を取っています。また、メーカー問わず人気車種に関しては純正部品より安価でかつ現代の交通事情に合わせたサードパーティ製品が多く出回り、またそれらを販売するウェブサイトなども非常に充実しています。

排気ガス規制こそ厳しいものの、古いクルマの税金は優遇され、パーツの供給も不安がない。なぜ、こんなにも古いクルマに対して優しいのでしょうか?その理由は、多くのドイツ人が大事にしている「もうひとつの物」からの影響があります。それは「家」です。

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長く住むほど資産価値の高まるドイツの家



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ドイツの都市には厳密な都市計画が存在し、それに従って開発が進められます。都市計画には公共の建物だけではなく市民が住む住宅も含まれ、新築の住宅を建てる上での制限が非常に大きい、というのがドイツの特徴。例えば、街の景観を崩すような住宅を新たに建てたり、背の高いタワーマンションを街の中心部に建てたり、ということについて多くの場合ストップがかけられます。従って、ドイツの不動産市場は中古住宅が7割以上を占めており、日本の中古住宅市場の占める割合がわずか10パーセント台にとどまっているのとは対象的です。

ドイツの住宅は、第二次世界大戦前に建てられた物件も数多く、天井までの高さが3m50cm以上もあるような築50年以上の建物が、新築よりも高値で取引される場合も少なくありません。ドイツでは「長くメンテナンスしながら住んだ家ほど価値が高い」とされていて、何世代にも渡って維持することも珍しくないのです。地震や台風など自然災害が多いとはいえ、日本の木造住宅の場合、新築から20〜30年で資産価値ゼロという慣例から比べると、まったく異なる価値観だといえるでしょう。

古い建物の多くは、外装・外観は往時の姿を維持しつつ、内装は現代の基準によって大幅にリノベーションされています。ドイツ政府は現在、現存する住宅の低エネルギー化を推し進めていて、新築に対する補助金を打ち切り、リノベーションに対して補助金を出すように切り替えました。

「外枠はしっかりしているから、中身さえリノベーションすればまだ100年住めるよ!」そんな話が日常的に飛び交うドイツ。そんな家に対する考え方が、クルマにも影響を及ぼしています。

「ボディさえしっかりしていれば、直せば走れるよ」という信念



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エンジンを11回載せ替えながら460万kmを走破した、ギリシャのタクシードライバー、クレゴリオス・サキニディス氏の1976年製メルセデスベンツ・240Dの例は極端ですが、メルセデス・ベンツやポルシェなどのドイツ車は「ボディの剛性」について妥協のないクルマ作りをしてきました。その結果、エンジンやミッションを何度も載せ替えても、ボディシェルに問題がない限り修理すればまた走れるという、100万km以上の走行に耐える高い耐久性を手に入れたのです。

「ボディがしっかりしているから、エンジンやミッションさえメンテナンスすれば100万km走れるよ!」そう、これはまさしく、先ほどの家に対する考え方と同じ。ドイツ人のクルマに対する考え方は、家に対する考え方と共通する「価値観」に支えられています。

とはいえ、ドイツ人らしいなと筆者が感じるのは、この「中身をメンテナンスすればずっと使える」という考え方を、ドイツ車以外のフランス車や日本車、イタリア車などにも適用してしまっている点です。ドイツの中古車販売サイトで検索すれば、走行距離20万kmのフランス車や日本車は数多くヒットしますし、ドイツ製の中古車に比べれば安価に手に入るため、若者たちが最初に購入するクルマとして人気があります。パーツ供給に関しても「ドイツ車よりは手に入りにくいけど、まぁいいか」という感じで、納得して乗るような感覚です。

またメンテナンスやレストアに関しても、どのくらい手をかけるかは人それぞれ。新車同様にレストアして大切に乗る人もいれば、走行に関係する部分だけ直して、外装のへこみや塗装のヤレはそのままにして乗る、という人もいます。

走行距離が多いクルマでも売り物になり、長く乗り続けていてもパーツ供給に不安が少なく、製造から30年が経てば保険料や税金まで低減されるドイツ。その価値観の形成には、長く住めば住むほど資産価値の高まるドイツの住宅事情がひとつの要因となっているといえるでしょう。部分的に取り入れることも難しいとわかりつつ、日本でもせめて、古いクルマにかけられる税金だけは下げてほしいと願っているのですが…。

[ライター・カメラ/守屋健]

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