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ドイツ現地レポ

更新2022.06.16

EU議会の決定に激震!ポルシェが力を入れている夢の合成燃料「eフューエル」に未来はあるか?

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守屋 健

EUの議会が決定した内容の是非をめぐって、今欧州各国が大きく揺れています。


■「2035年以降CO2を排出しないクルマのみが新車販売を許可される」法案がEU議会で可決



EUでは大都市を中心にガソリン車・ディーゼル車排除の動きが加速していて、ついには2022年6月8日に「2035年以降CO2を排出しないクルマのみが新車販売を許可される」法案がEU議会で可決されました。これは事実上、EVだけが販売を許され、ガソリン車・ディーゼル車の新車販売の終焉を意味します。


しかし、こうしたエネルギーシフトに関心の高い読者の方は、きっとこう思うはずです。「eフューエルはどうした?」と。そう、今回の法案では、現在研究・試験生産が急ピッチで進んでいるeフューエルの使用すら禁止されてしまったのです。


既存のガソリンエンジン・ディーゼルエンジンをそのまま使用でき、かつ環境負荷が少ない「夢の合成燃料」とされてきたeフューエル。そのeフューエルがなぜ、今回法案の中から排除されてしまったのでしょうか。今回の現地レポでは、eフューエルを取り巻くさまざまな現状についてお伝えします。


■ポルシェが意欲的に進めているeフューエルの実用化



まず「eフューエルとはなにか」ということについておさらいしましょう。「eフューエル」とは、水素をベースとした合成燃料です。当初はトウモロコシや菜種、小麦、パーム油などをベースにすることが考えられていましたが、これらの植物を生産するために多くの森林を農地に変える必要があったため、環境破壊の観点から断念せざるを得なくなりました。


eフューエルの最大のメリットは、既存のガソリンエンジン・ディーゼルエンジンがそのまま使用できるという点です。またこれらの生産ノウハウは、船の燃料としての重油や、飛行機の燃料としてのケロシン、さらにガスを精製することにも応用できるため、これらを総称してPower to X (PtX)とも呼ばれています。


eフューエルは生産の過程で、CO2を大気から分離して取り込み、水素と合成して合成メタノールを生成します。生成のために使用される電力は、太陽光や風力などのクリーンエネルギーのみでまかなわれます。eフューエルを使用すると排気ガスとしてCO2が発生しますが、このCO2は生成時に取り込んだものしか排出されないため、「実質的にCO2ニュートラル」と考えられています。


eフューエルの生産に意欲的なのはポルシェです。ポルシェは7500万ドルを投資して、チリに風力・太陽光発電を備えた生産プラントを建設。生産プラントは順次アメリカやオーストラリアでも展開予定で、チリのプラントでは2026年までに約5億5000万リットルの生産を計画しています。


ポルシェがこれだけ意欲を見せている理由は、911はもちろん、356をはじめとするかつての名車たちをできるだけ長く公道で走らせたいと考えていることと、世界の交通や運輸が完全に電化されるまでの数十年間における「もっとも有効なつなぎのエネルギー」と考えているからです。


また、ポルシェは自社でEVも生産しているので、EV1台を生産するためにどれだけのCO2が排出され、またどれだけのレアメタルが消費されるかも熟知しています。ドイツ政府はこうした流れを踏まえて「eフューエルをCO2ニュートラルとして認める」ことを盛り込んだ法案をEU議会に提出していましたが、この法案は却下されました。


■なぜeフューエルは認められなかったのか?



では、なぜeフューエルは認められなかったのでしょうか。そのもっとも大きな理由は、eフューエルの生産時に使用されるばく大な電力です。


そもそも生産に使う電力は太陽光や風力などのクリーンエネルギーからまかなうのなら問題ないじゃないか、という意見も出そうですが、話はそう単純ではありません。そもそもポルシェはなぜチリでプラントを建設したのでしょうか? 風力発電ならドイツでも盛んに行われているはずなのに、です。それは、風力発電に使用する風車と太陽光発電に使用するソーラーパネルの設置場所が、ドイツだけではとても足りないからです。


世界各地に風力発電とソーラーパネルを数多く設置すれば、環境破壊はまぬがれません。また、発電所の建設時に多くのCO2が排出されますし、なにより巨額の資金が必要になります。また、遠方で生産したeフューエルをヨーロッパまで運搬する際にもCO2は排出されます。


また、水素の原料として必要な「水」に対しても、多くの電力とコストが割かれます。1キログラムの水素の生成には9リットルの超純水が必要ですが、海水を原料として利用する場合、淡水化と純水化にそれぞれ多くの電力が利用されることになるのです。加えて、現在の技術では空気中からCO2を分離するのは技術的に難しく、この分離にも多くの電力が消費されます。


生産時に消費されたエネルギーを100%として、どれくらいのエネルギーが実際の車両の駆動に使われるかを試算したデータがあります(Helmholtz-Institut UlmのMaximilian Fichtner博士による試算)。それによると、純粋なEVでは生産に利用したエネルギーの70%が駆動に利用にされますが、eフューエルを利用した内燃機関車の場合わずか15~18%しか利用されません。eフューエルのエネルギー効率は、現状非常に悪いと言わざるを得ないでしょう。


EU議会は、こうしたエネルギーの多大な損失を重く見て、eフューエル利用について認可しなかったのです。


■本当の話し合いはこれから



とはいえ、EUの議会が決定したからといって、すぐにすべてのEU加盟国がこの決定に従わなければならない、というわけではありません。むしろ、本当の話し合いはここからスタートするといってもよいでしょう。


ADAC(ドイツ自動車連盟)は6月8日の決定を受けてすぐさま声明を発表し、そこで「気候保護の目標は、EV化だけでは達成できない」と述べ、eフューエルを支持する姿勢を示しました。ADACの主張の根拠は「EU全体のCO2排出量のうち4分の1が運輸分野から排出されていて、自家用車から排出されているのはわずか12%にすぎず、自家用車だけをEV化しても何の問題解決にもならない」というものです。


すでに多くの投資をしているポルシェをはじめとして、今回の決定について衝撃を受けている企業や政府・自治体は数多く、この決定が本当に将来の役に立つのかということを含め、話し合いが加速していくことは間違いありません。eフューエルを巡っては、今後も目が離せない状況が続きそうです。


[ライター/守屋健]

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