テクノロジー
更新2015.11.10
自動車業界はIT産業にもっと歩み寄りを:東京モーターショー2015所感
海老原 昭
あくまで独自技術路線を行こうとする自動車産業
今回のショーはビッグサイトの東西館をほぼフルに使い、西館2Fでは「スマートモビリティシティ2015」も併設されていました。スマートモビリティシティは自動車や公共交通機関と街のインフラ、人々とクルマの関係、自動運転などの最新技術に関する展示が中心です。
以前はカーナビアプリや、自動車と連動してSNSに投稿するアプリなど、スマートフォン関連の展示が多い時期もありましたが、今回はスマホ関連ではカーナビアプリが1つのみ。自動運転や電気自動車などの展示のほうが中心でした。なによりスマートフォンとナビを接続する規格である「CarPlay」や「Android Auto」に関しては、非常におざなりな展示が1つあるのみ。展示されていたさまざまな新規格や技術の多くは、既存のものを使うのではなく、あらためて自動車産業側から提案するのだ、という姿勢を強く感じました。
期待のかかるV−Low放送
以前本誌でもお伝えした「ETC 2.0」や、FM多重放送を使って渋滞情報などを配信する「VICS WIDE」など、現在もおなじみの技術の進化系も展示されていましたが、いずれも利用には新たに対応機器の購入が必要で、あまりユーザーに優しい感じはありません。たとえばVICS情報は電波や路上のビーコン以外に、携帯電話網などで取得できてもおかしくないはずですし、そのほうが汎用性も高いのに、そうはなりません。従来どおりラジオ波やビーコンを使うメリットは理解した上で、なぜ拡張しないのか、少々理解に苦しみます。
「VICS WIDE」は2016年3月スタート。伝送容量が従来比2倍になって、これまでより詳細な情報が配信されます。全国のタクシーに搭載したプローブを使って従来のVICSより正確な渋滞情報を提供する。火山・津波などの警報もポップアップ表示されます。
そんな中で気になったのが、2016年3月にスタートする「V−Low」放送の「i-dio」です。地上アナログ放送が終了して空いたVHF放送の周波数帯を使ったデジタルラジオ放送で、i-dioは自動車やスマートフォンなど移動体への放送に特化したサービスとして、東京、名古屋、福岡からサービスを開始します。
i-dioのコンテンツ配信
i-dioではモビリティ向けチャンネル「Amanek」と、高音質放送などを提供する「TS ONE」らがコンテンツを配信します。
i-dioでは通常のラジオ番組に加え、災害・天候や渋滞、地域情報などを同時に発信しています。さらに位置情報を付加することができるため、たとえば放送中の曲の情報を見たり、走行中にある店のそばに近づくと、割引クーポン付きの広告が表示される、といったしかけもできるようです。以前、FM多重放送を使ってシンプルな文字のニュースなどを送信する「見えるラジオ」というサービスがありましたが、これを高度にしたものだと言ってもいいかもしれません。
i-dioの受信には専用のチューナーが必要ですが、これは地上アナログ/デジタル移行期にチューナーの外付けが可能だったカーナビなら拡張用の仕組みが用意されているため、同様に後付けのチューナーを装着すればいいとのこと。既存の端末がそのまま使えるのはコスト的にもユーザーに優しい設計です。またスマートフォンでも、i-dioを受信するための外部チューナーや、チューナー内蔵スマートフォンが登場するとのことでした。
ちなみに、曲の情報などを取得できるデジタルラジオというと、インターネット経由で他地域の番組も受信できる「RADIKO」がありますが、V−Low放送とは仕組みからして違うものです。RADIKOは既存FM局がインターネット経由で受信できるもの、V−LowはAM・FMとならぶ、新たなラジオ放送という位置付けです。
IT産業はハードウェアをガチガチに作り込むのではなく、機能はソフトウェアで実現し、ソフトの改良で機能を追加・改善する方向にあります。自動車業界でも電気自動車の米テスラはまさにその発想でクルマを作っています。今後、自動車業界もそういう方向に行かざるをえないのではないでしょうか。
純然たるハードウェア産業である自動車業界が急に転進するのは難しいかもしれませんが、市場の動きは待っていてくれません。自動車産業の行方を決めるにあたり、自分たちがハンドルを握り続けたいという気持ちはわかるのですが、安全運転と同じで、早め早めに対処する気持ちでいなければ、いつか袋小路から出られなくなってしまうのではないでしょうか。
「RX-VISION CONCEPT」は期待が高まる一台
翻ってモーターショー本体の様子ですが、強く印象に残ったのはマツダブースの「RX-VISION CONCEPT」です。会場でも大人気で、常時黒山の人だかりでした。コンセプトカーということでかなり「攻めた」デザインですが、どこまで市販車に再現されるのかが楽しみです。
コンセプトカーということでやや大きめでしたが、実車が出るとしたらロードスターの強化版シャシーになるとか。いずれにしても期待が高まる一台です。
そのほかでは日産の「NISSAN TEATRO for DAYZ」がユニークでした。室内天井にプロジェクターが内蔵されており、映像を変えることで模様替えしたり、ダッシュボードや座席の背をディスプレイ代わりに写真を表示したり、ゲームする様子までデモされていました。現実的な装備かどうかはともかく、スマートフォンなどのタッチ操作になれた人たちが車両の操作についても物理的なスイッチから解放され、タッチ操作に変わっていく際のひとつの提案として面白かったと思います。
コンセプトカーでは映像の投影でしたが、ダッシュボードや座席の背を全面液晶や電子ペーパーにしたほうが実現は簡単そうです。
日産はスマートモビリティシティに自動運転車用の変形するダッシュボードのコンセプトも展示しており、次世代ユーザーインターフェースについての研究に重点を置いているように見受けられました。
自動運転中はメーターパネルが起き上がってタブレット風端末になり、ペダルも引っ込むなど、現在の法令的にはちょっと無理がある変形ですが、ここまでやりたい、やるべきだ、という提案はよく伝わってきました。
このほか印象に残ったのは、ルノー・トゥインゴとスマートフォーツーです。この2台、スマートフォン用のマウントアダプタがオプション装備になっており(トゥインゴは「R&GO」仕様の場合)、ナビの代わりにスマートフォンを載せることが大前提になっています。日本車はどうしてもセンターコンソールに2DINぶんの空きスペースを作ってしまいがちですが、低価格車にはこういう割り切りも(デザイン上の自由度も含めて)必要ではないかと感じました。
パッケージングはルノー10以来(44年ぶり!)となるRR。マルチメディア装備に「R&GO」を選ぶと、スマートフォンアプリが車載コンピュータとオーディオ、ナビの機能を提供します
こちらは代々RRレイアウトですが、今回トゥインゴと各種コンポーネントを共通化していますが、スマートフォンアダプタそのものはトゥインゴと違うものを搭載していました。
今回のベストはトラック?
最後に、技術やらなにやらを完全に離れて、純粋な興味として個人的にBest of Showをあげたいと思ったのが、三菱ふそうのコンセプトモデル「スーパーグレートVスパイダー」です。荷台の代わりに4本のアームが取り付けられており、そのアームの先はグラップル2種にバケットと、ドリル。もう、見るからに強い。重機バトルがあったら明らかにボスクラスです。黒地に赤いラインというカラーリングも強者感を増しています。
ミニカーでもいいので、ぜひこのままの形で市場に出てもらいたいものです。
装備自体は特別に作ったわけではなく既存のものであること、そして、あくまでコンセプトモデルであり市販化の予定はないという話でしたが、早速問い合わせが殺到しているという話でした。せっかくのショーなので、こういう夢のある車両がもっとたくさん展示されるといいのですが。
[ライター/海老原昭]