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更新2017.05.16

クラシックカーライフを謳歌している人、あきらめた人。選ばれる人、選ばれない人。

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鈴木 修一郎

いわゆるクラシックカーという物に乗っていると、極上コンディションの愛車でメディアにも登場し、イベントのコンクールではいつも賞を取り、まるでエンスー系自動車雑誌のようなヴィンテージカーライフを謳歌している人と、度重なるトラブルに見舞われ、日に日に不具合とボディの錆や腐食が進行しついには所有を断念してしまう人が居ます。一体その違いは何処にあるのでしょうか?



クラシックカーオーナーのいう言葉に騙されるな


まず、先にお断りしておきたいのですがクラシックカーオーナーのいう、

「このクルマは基本は頑丈で全く手がかかりません」

を文字通りに真に受けてはいけません。筆者が昔、とあるクラシックカーイベントで初期型のトヨタ2000GTのオーナーの話を聞いていた時に、

「いや~、流石トヨタのクルマ、この子は全く手のかからない、親孝行の良い子です。」

と言っていたのですが、ご存知の通りトヨタ2000GTは今や、その時価評価は1億円とも言われ、エアコン付きのガレージでの保管は必須、年間維持費は100万円とも150万円とも言われてます。



ではなぜ、そのオーナーは「手のかからない良い子です」と言ったのか?そのトヨタ2000GTオーナーがその時着ていたジャケットにはマセラティのエンブレムが縫い付けてありました。つまり、1960年代の時点でのイタリア製の手作りの少数生産のスーパーカーと、世界市場の進出を視野に品質改善に日夜取り組んでいたトヨタ車のフラッグシップモデルを比較しての話だったのです。



他にもランチア・フルビアといすゞベレットのオーナーも同じような事をいっていました。ある自動車雑誌で読んだ記述ではアルフォロメオ1300GTA(段付き)で110km/h巡行でもオーバートップに入れるとカブるとか、ある旧車関連のムック本のコラムの記述ではスーパーカーブーム時代のフェラーリやランボルギーニは実際の所日本の町中では1速2速でしか走れなかったという話もあります。

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クラシックカーオーナーは故障を故障と認識していない?




温暖湿潤で気候変動の激しい上に山岳路も多く、使用環境も過酷な一方、高速道路の整備も始まった日本で、世界市場の進出も視野に入れ、どんな国、どんな使用環境でも高品質、低故障率で顧客から最強の信頼性を勝ち取る事に商機を見出した日本車であればツインカムの3連装ソレックスのトヨタ2000GTですらセッティングが決まれば渋滞の多い町中をトップギアで走る事すら可能です。(ゆえに数値上のエンジンパワーは欧州のスポーツカーよりも若干見劣りするわけですが)

実用車のブルーバードやコロナに至っては基本機関系は故障知らずで整備次第ではエンジンは10万km20万km走り切る事も可能、当時のカタログで既にメンテンスフリーを謳っていたりもします。でもそれはあくまで1960~1970年代の技術レベルでの話であって、今のクルマのようにガソリンを入れてディーラーからエンジンオイル無料交換キャンペーンのDMが来た時にエンジンオイルを交換すればいいという感覚と同じに考えてはいけません。その年代の車両のオーナーはゴム類やサーモスタット、接点ポイントといった定期交換部品の消耗による不具合は故障として認識していません。」



下手をすればクラシックカーオーナーのいう故障というのは、エンジンや駆動系の部品の破断や焼き付きと言った車上整備程度ではどうにもならない走行不能の状態になってようやく故障したという認識です。まずこの時点でもう無理だという方はクラシックカーのオーナーになる事はお勧めしません。

それを承知の上で、クラシックカーに手を出したもののやっぱり度重なる不具合に耐えきれず結局希少な愛車を手放してしまうという話はたびたび耳にします、一方でミュージアムコンディションのようなクラシックカーのコレクションと共に充実したクラシックカーライフを謳歌し、中には極上コンディションで新車当時の一桁ナンバーの付いた車両を新車当時から大切にしているオーナーから譲り受けたなんていう人もいます。こう言うとやっぱり「金とコネの力」なのかという方もいますが決してそんな単純な話でもありません。

現在市場に流通している個体は訳アリの可能性あり




よく考えてください、読者の皆様がご自分の愛車を手放すときはどういう時ですか?

「古くなって飽きた」「新型が出た」「ヤレやマイナートラブルが目立つようになった」

なにかしら手放すことになった理由があるはずです。よく、「クルマの買い替えを考え始めたとたん急に調子が悪くなった」なんて言う話も聞きますが、下手をすれば二束三文で買いたたかれるかもしれない処分予定のクルマにわざわざ整備に手間をかける人もそうそういないでしょう。セレモニーみたいなもので最後に洗車してワックスをかけるというくらいはするにしても、処分予定のクルマをゴム類やベルトなど消耗品交換してから手放すなんてことはまずしないでしょう。友人がポルシェ911を探しているとき一度だけ993型ポルシェ911の中古車で「前オーナーが次のオーナーがポルシェで苦労してポルシェを嫌いになってほしくないから、ポルシェを最高の状態で堪能してほしい」という理由で、売却予定の993にわざわざリフレッシュプランの消耗品交換をしてから売却したという物件をみたことがありますが、そんな人もそうそういないでしょう。



つまり、現在市場に流通しているクラシックカーは何かしら訳アリで前オーナーが手放している可能性のほうがはるかに高いのです。そんなクラシックカーがなんの苦労もなく乗れるはずがありません。まず、乗っているうちに「どこかしら壊れて当たり前」なのです。

現在、極上コンディションのクラシックカーでクラシックカーライフを謳歌している人は、そこにたどり着くまでに相当な労力もしくは出費を要したはずです。先日ツイッターで「旧車に乗るのはおじいちゃんを介護するようなものだ」というツイートを見かけたのですが、介護ならまだいいほうです。何十年も前の車両を新車当時に近い状態に戻そうとするフルレストアに至ってはもはや狂気にとりつかれたフランケン・シュタイン博士が自ら墓を暴いて集めた死体をつなぎ合わせて人造人間を作りだそうとする行為に近い物です。

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苦楽を共にした愛車でカーライフを堪能している




「門前の小僧習わぬ経読む」と言いますが、20年近くクラシックカーに乗っていると素人の私ですら、ある程度の目利きが出来るようになります。実際、何百万円も出して買ったんだろうなぁというフルレストア済のクルマをみて、「これ、フェンダーの裏とか、塗装の下とか大変な事になってるんだろうなぁ」とか、逆にネット上の画像を見ただけで「これ、見た感じはヤレててレストアは必要だけどフレームの状態は絶対にいいぞ」と思うことがたまにあります。フルレストア済と思って買ったクルマの塗装表面にクラックが入っておそるおそるつっついたら、ボロっとパテの塊が落ちて、アルミテープやガムテープで腐食の穴をふさいだ上からパテが盛りつけてあっただけだったとか、酷いと新聞紙を詰めてその上からパテが盛ってあったなんて言う話はこのテの古いクルマに乗っていれば日常茶飯事です。



私のセリカLBのレストアを依頼した整備工場の社長は、

「こないだのクルマは缶コーヒーの空き缶を広げて溶接してあったけど、一応同じ鉄板だからまだマシだな」

と笑い飛ばしていました。

現時点で、極上コンディションのクラシックカーに乗っている人は、口にこそ出さない物のそこにたどり着くまでに言葉にしがたい苦労を重ねているはずです。実動状態にまで修復するのに何年もかかったとか、入手困難な部品を探し集めたり、不具合の原因究明したり修復方法を確立するために、ありとあらゆる文献を当たってその個体の新車当時の仕様や状態を突き止め、そのために人脈を構築し、その車種特有の不具合や使用可能な部品、補修方法等を情報収集し、独自のネットワークやデータベースを作るなど様々な労力を費やしているはずです。中にはお金で解決できそうにない難題にぶつかったことも幾度となくあったことでしょう。それを乗り越えて極上コンディションのクラシックカーでカーライフを堪能しているのです。そんな苦楽を共にした愛車をそうやすやすと手放すでしょうか?

極上コンディションの個体は、一体誰の手にいくのかが問題




よく、心底自分の愛車を大切にしている人が、

「僕の愛車はたとえ何億円積まれたって他人に売る気は無いよ」

と言うのは、決して大げさではなく心の底から本当にそう思っているのです。

一方で、オーナーが高齢化して免許を返納するとか、コレクションを整理するために極上コンディションの車両が放出されるという案件が稀に発生するというのも事実です。ではそういうクルマは誰の手に渡るのでしょうか?答えは簡単です、その車両のオーナーズクラブの会長やレストア専門店の社長、もしくはその界隈では名の知れた有名クラシックカーコレクター、もしくはそういう人達に相応しいと認められた人、場合によっては自動車博物館に寄贈など、そういうクラシックカーの世界ではオーソリティのような人達の間だけで取引されているのです。



そういう車両は外部に流出することはまず無いといっても良いでしょう。値段もあってないようなものです。中には「あなたが乗ってくれるなら無償で構わない」といって登録費用だけで譲渡されたという話もあったり、保管場所が手狭になったとか、維持費の捻出が厳しくなったので、状況が改善されるまでの間一時的に預かってほしいという意味合いの譲渡で金額も気持ち程度なんてこともあったりします。素性のしれない相手が譲ってほしいと言ったところで札束を積んでも、もまず譲って貰えません。ましてや転売される可能性があると見られたら二度と相手にされることは無いでしょう。「良いクルマというのはクルマの方からオーナーを選ぶ」とまで言う人もいます。

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クラシックカーへの情熱が抑えられない人は腹を括りましょう




それでも、なおクラシックカーへの情熱が抑えられない人は、もう腹を括ってください。どうせ、今市場に流れてるクラシックカーは全てレストアベースだというつもりでお目当ての車両を探すしかないものと思ってください。少々見た目がヤレていてもパーツが揃っていてモノコックや外鈑パネルに大きな錆も腐食も無く書類もあって登録可能なら、不動車でも掘出し物です。エンジンや機関系は何かしらの方法でオーバーホールが可能です、同型のエンジンを用意してバラして使える部品を組み合わせるのもいいでしょう。



幸いなことに今は、ネットオークションで個人・法人問わず全国からクラシックカー用の部品が出品されています。最近では以前ご紹介したTHサービスのようにクラシックカーのリプロパーツの供給ルートも確立されつつあります。クラシックカー保存のためなら多少の採算は目をつむってでも相談に応じてくれるメカニックも少なからずいます。ネットを検索すれば、固有の弱点の対策方法や現在入手可能な部品での流用方法が見つかる場合もあります。絶対数は減っていますが環境は改善されつつあります。

むしろエンジンは調子よくてもモノコックに腐食があってメインバーが折れているとかのほうがよっぽど致命的です。そして、素性のがわからない車両はフレームの状態の良し悪し関係なしにいつかは全バラのフルレストアをするときが来るものであるという心構えでいてください。もちろん修羅の道も同然です、ただ単に乗りたいクルマに乗るだけなのにそれに見合わない苦労の連続です。



でもそこから得る物はかけがえのない物ばかりです。自動車が好きな人なら、普通のクルマに乗っているだけでは見られないような光景、自分の愛車のエンジンやトランスミッションの整備風景やその内部機構、ボディパネルの裏側やモノコックのメインメンバーを切ったその内部、自分が発注をした、もしくは発注を依頼した部品が届き、その部品が一つ一つ組み付けられていく光景など、往年のクルー工場のロールスロイスファンタムやモデナのファクトリーのフェラーリのように、まるで自分のためだけのワンオフ生産車両が目の前で組みあげられているような光景を目にすることが出来ます。

普通なら経験できないことが得られることが大きい




「同じクルマに乗ってる」というだけで思わぬ出会いがあったり、掛け替えのない一生の友人と出会えることもあります。時にはカーマニアの芸能人や著名人、往年のレーシングドライバー、有名モータージャーナリストと個人的交友関係を持つに至ったというのは実際にある話です。

街中では筆者自身、セリカLBやスバル360に乗ってるだけで話しかけられるのもしょっちゅうです。昔、同じクルマに乗っていた人、欲しくても結局買えなかった人、時には何千万円もする高級車に乗っている人が懐かしそうな顔をしてこっちをじっと見ていたなんてこともありました。時にはメディアに取材される事もあります。



自分の愛車の車種にまつわる特集番組や、主人公の愛車として自分の愛車と同じ車両が映画やドラマに出てきてテレビ放映でもされようものなら、もう大変な事になります。一時期、スバル360の開発秘話がテレビ番組でよく取り上げられた頃は、スバル360に乗っていようものなら「あ~、こないだテレビでやってたクルマだ!」と言われたものです。いつだったか友人とファミレスで食事をしながら駐車場に止めた自分のスバル360を見ていたら、通りかかる人が皆見入ったり、写真を撮ったりして「そういや昨日、NHKでスバル360のプロジェクトXの再放送やってたなぁ(笑)」なんてことがありました。恥ずかしがり屋な人にはちょっと大変かもしれませんが(苦笑)

クラシックカーに乗ることで得られるものは、その代償に見合ったものであるとは筆者自身も思っていません。でも、普通なら経験できないことが考えられない頻度で起こります。なにしろかくいう筆者自身がこうして自動車Webメディアにクラシックカーについての文章を寄稿するに至ったわけですから。



そして、そうやって掛け替えのない極上コンディションの一台が出来上がり、クラシックカーオーナーとしてカーライフを謳歌しているとやがて、あの話がやってくるのです。

「このクルマを託せるのはあの人しかいない」 と。

[ライター・カメラ/鈴木修一郎]

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