
コラム
更新2020.03.11
日本車の選択肢がこれだけあるのに、あえて輸入車を選ぶ理由は「○○○○」だ!

伊達軍曹
過日。腹が減ったため近所のマクドに行くと、隣のテーブル席で女子高生2人が以下のようなことを話していた……というのは真っ赤な嘘だ。その日わたしが行ったのはメッダアナル(McDonald’s)ではなく株式会社吉野家が運営する牛丼チェーンの1店舗で、隣でちょっとした言い争いをしていたのはJKではなく、中年の男性カーマニア2名だった。
「やっぱ輸入車にはさ、国産車にはない“味”ってモンがあるんだよ。それを考えると、やっぱオレはどうしても国産車は買う気になれないね。あんなのダメだよ」

やや太っているほう、仮にマニアAとするが、Aがそう言った。
それを受けて答えたのが、やや痩せぎすなほう、仮にマニアBと呼ぶ男だ。
「そんなことないだろ? 昔と違って技術的な差はないというか、むしろ日本のメーカーのほうが上な部分もあると思うし。まあいずれにせよこれだけ国産車の全体的なレベルが上がってて、選択肢もこれだけ豊富なんだから、わざわざ高いカネ出して輸入車買う意味なんてもはやあんまり無いよ」

マニアBの意見を聞いてマニアAは不服なようだったが、わたしの意見は、どちらかと言えばマニアBに近い。すなわち「どうしたって割高になる輸入車を、無理をしてまで買う必要はない」ということだ。
そのため、わたしはマニアBに加勢することした。
「基本的にはキミが正しい」
美しい発声でそう言いながら、わたしは隣のテーブルの空いてる席に勝手に座り、マニアBに握手を求めるべく右手を差し出した。だがBは新型コロナウイルスが怖いのか、はたまたわたしを狂人と勘違いしたか、握手は拒否された。
だがわたしは構わず続けた。
「繰り返すが、基本的にはキミ、痩せてるほうのキミ! が正しい。今どき日本国内でわざわざ輸入車を選ぶ意味など、さほどありはしない。だが……キミが正しいというのも、あくまで『基本的には』でしかない!」
わたしは吉野家の店内でピシャリとそう言い切り、我ながら「キマったな……」と思いつつ、マニアAおよびBのほうをちらりと見た。羨望と尊敬の眼差しを、わたしに向けているに違いないと思ったからだ。

だが相変わらずマニアBはわたしを狂人と勘違いしているようで、目を合わせようとしない。そして太ってるほうのマニアAはうつむいている。立腹しているようにも見えた。
だがわたしは気にせず続けた。
「基本的には――とわたしが言う理由は2つだ。ひとつは、速度域の問題。いくらフォルクスワーゲン ゴルフがベンチマークだなんだのと評論家連中が言おうが、時速100km以下で走る限りにおいては、別に大したことはない。いや、『大したことない』と言ってはゴルフ7に申し訳ないので、謝罪し訂正しよう。『あれはあれで本当にウルトラスーパー素晴らしいクルマだが、その速度域においては、おおむね似たように素晴らしい国産車はたくさんある』ということだ」
この部分を聞いたマニアBは、わたしに賛意を示したがっているような、やっぱりこんな狂人と目を合わせてはいけないと思っているような、複雑な表情をしていた。
無視して続けた。
「例えばそれは、いみじくもわたしが自家用車として使っている現行型スバルXVであり、また例えば現行型のスズキ スイフトスポーツである。この2車でもって時速50km/hから100km/hほどで走っている限りにおいては、わたしは『やっぱ輸入車のほうがいいな。日本も再び脱亜入欧しないとダメだよ』などと、まるでふた昔前のNAVIに載っていたようなことを感じたことは、一度たりともない」

喋りすぎて喉が乾いたため、マニアAのコップの水を勝手に飲んだ。
「だがそんなXVやスイスポも、時速130km/hを超えたあたりから微妙にはなる(はずだ)」
……やっぱコイツ犯罪者だ、狂人だ、速度違反の常習者だと、マニアBが小さくつぶやくのが聴こえた。
わたしはBの頬を張り、「うるさい黙れ。生まれてこのかた速度超過を一度もしたことがないという者だけが、わたしを責めるが良い」と言い、続けた。
「無論、130を超えると微妙になる(はず)とはいえ、それでもXVやスイスポは十分素晴らしいクルマである。だがやはり、ゴルフ7でもBMW 3シリーズでもおベンツでも何でもいいのだが、そういった欧州車の現行世代と比べてしまうと、やや微妙なのだ。それゆえ……」
腹が減っていたことを思い出したため、わたしはマニアAのごぼうサラダを手づかみで食い、「それゆえ」の続きを話しはじめた。
「それゆえ、『基本的には』なのだ。ある種のシーンにおいては、やっぱり欧州車のほうがよかったりもするのだ」
……っていうか日本は100km/hまでしか出せねえし、新東名でも120なんだから、それって関係ねえじゃんと、マニアBが小さく言うのが聴こえた。わたしは再びBの頬を張り、言った。

「何か文句があるならテーブルに話しかけるな。わたしの目を見て言え。そしてキミに質問する。本当にキミは、日本国が定める速度制限をコンプリートリー、エブリタイム、シンシアリーに遵守しているのか? そこに例外はいっさいないのか? 『ない』というのであれば、謝罪しよう。土下座して。……どうなんだ!」
マニアBはそれに答えず、携帯電話をかけはじめた。わたしはマニアAの丼と箸を奪い、もぐもぐと食べながら先を続けた。
「まあキミも――おそらくだが――たまに速度超過はするのだろうが、基本的には法令を遵守している優良ドライバーなのだろう。わたしだってそうだよ。130とか150なんて『出したこともある・・・かも?』というだけで、普段は100とか、せいぜい110だ。それゆえ、そういった高速域を(若干だが)苦手としている――というかそこはあえて捨てて設計している国産車に対しての不満など、ほとんどない。不満があるのは……あ、すみません、水じゃなくてお茶いただけますか?」
そう店員に告げ、わたしは続けた。
「ずばりデザインだ。ここに関しては輸入車、特に欧州車に、いまだ一日の長があるように思える。わたしが乗っている現行型スバルXVは、スバル車としては奇跡的にグッドルッキンなエクステリアを有している。だがインテリアに関しては、正直きわめて微妙である。またスズキのスイスポも、内装のデザイナーをミラノかどこかで3年ぐらい遊ばせて、そのうえでデザインし直したほうが良いモノができるだろう。同じスズキでも、現行型ジムニーの内装デザインはほぼパーフェクトなのだがね……」

店員が持ってきてくれたお茶をひと口飲み、わたしはクロージングに入った。
「ということで、結論としては痩せてるほうのキミ、キミが言うとおり、わざわざ日本で輸入車を買う意味は今やあんまりない。だが『たまに』の超高速域と、デザインの面で、どうしても欧州車が買いたいと思う者を否定するのもまた間違っている。『あんまりない』と『ない』は、似てるように見えて、実は大きく違うものだ。
かく言うわたしも実は今、ローバー時代のミニを買おうかな? どうしようかな? なんて迷っているところだ。クラシックミニは走りもデザインも素晴らしく、そして唯一無二だからね。
とはいえ最近のマツダ車に乗るたびに、『内装デザインについても、国産車はもはや欧州車を超えたのかな?』と思わんでもないのだがね! うわっはっはっは! ……ところでキミ、そう、太ってるほうのキミだ。さっきから黙っているキミも、何か意見はないのかね?」

「……返せよ」
「はい?」
「……オレのねぎだく牛丼とごぼうサラダと、あと水とお茶! 返せよ!」
「もちろんだ。タダで食おうなどとは思っていない。勘違いさせたなら謝る。失礼した」
そう言ってわたしはテーブルに500円硬貨1枚を置き、店を出た。
背後から、マニアAが「足りねえよ!」と叫んでいる声が聞こえた。そして北西の方角からはパトカーのサイレンらしき音が聴こえてくる。おそらく、マニアBが携帯電話で呼んだポリスだろう。
わたしは走った。全力で。高速で。
[ライター/伊達軍曹]
「やっぱ輸入車にはさ、国産車にはない“味”ってモンがあるんだよ。それを考えると、やっぱオレはどうしても国産車は買う気になれないね。あんなのダメだよ」

やや太っているほう、仮にマニアAとするが、Aがそう言った。
それを受けて答えたのが、やや痩せぎすなほう、仮にマニアBと呼ぶ男だ。
「そんなことないだろ? 昔と違って技術的な差はないというか、むしろ日本のメーカーのほうが上な部分もあると思うし。まあいずれにせよこれだけ国産車の全体的なレベルが上がってて、選択肢もこれだけ豊富なんだから、わざわざ高いカネ出して輸入車買う意味なんてもはやあんまり無いよ」

マニアBの意見を聞いてマニアAは不服なようだったが、わたしの意見は、どちらかと言えばマニアBに近い。すなわち「どうしたって割高になる輸入車を、無理をしてまで買う必要はない」ということだ。
そのため、わたしはマニアBに加勢することした。
「基本的にはキミが正しい」
美しい発声でそう言いながら、わたしは隣のテーブルの空いてる席に勝手に座り、マニアBに握手を求めるべく右手を差し出した。だがBは新型コロナウイルスが怖いのか、はたまたわたしを狂人と勘違いしたか、握手は拒否された。
だがわたしは構わず続けた。
「繰り返すが、基本的にはキミ、痩せてるほうのキミ! が正しい。今どき日本国内でわざわざ輸入車を選ぶ意味など、さほどありはしない。だが……キミが正しいというのも、あくまで『基本的には』でしかない!」
わたしは吉野家の店内でピシャリとそう言い切り、我ながら「キマったな……」と思いつつ、マニアAおよびBのほうをちらりと見た。羨望と尊敬の眼差しを、わたしに向けているに違いないと思ったからだ。

だが相変わらずマニアBはわたしを狂人と勘違いしているようで、目を合わせようとしない。そして太ってるほうのマニアAはうつむいている。立腹しているようにも見えた。
だがわたしは気にせず続けた。
「基本的には――とわたしが言う理由は2つだ。ひとつは、速度域の問題。いくらフォルクスワーゲン ゴルフがベンチマークだなんだのと評論家連中が言おうが、時速100km以下で走る限りにおいては、別に大したことはない。いや、『大したことない』と言ってはゴルフ7に申し訳ないので、謝罪し訂正しよう。『あれはあれで本当にウルトラスーパー素晴らしいクルマだが、その速度域においては、おおむね似たように素晴らしい国産車はたくさんある』ということだ」
この部分を聞いたマニアBは、わたしに賛意を示したがっているような、やっぱりこんな狂人と目を合わせてはいけないと思っているような、複雑な表情をしていた。
無視して続けた。
「例えばそれは、いみじくもわたしが自家用車として使っている現行型スバルXVであり、また例えば現行型のスズキ スイフトスポーツである。この2車でもって時速50km/hから100km/hほどで走っている限りにおいては、わたしは『やっぱ輸入車のほうがいいな。日本も再び脱亜入欧しないとダメだよ』などと、まるでふた昔前のNAVIに載っていたようなことを感じたことは、一度たりともない」

喋りすぎて喉が乾いたため、マニアAのコップの水を勝手に飲んだ。
「だがそんなXVやスイスポも、時速130km/hを超えたあたりから微妙にはなる(はずだ)」
……やっぱコイツ犯罪者だ、狂人だ、速度違反の常習者だと、マニアBが小さくつぶやくのが聴こえた。
わたしはBの頬を張り、「うるさい黙れ。生まれてこのかた速度超過を一度もしたことがないという者だけが、わたしを責めるが良い」と言い、続けた。
「無論、130を超えると微妙になる(はず)とはいえ、それでもXVやスイスポは十分素晴らしいクルマである。だがやはり、ゴルフ7でもBMW 3シリーズでもおベンツでも何でもいいのだが、そういった欧州車の現行世代と比べてしまうと、やや微妙なのだ。それゆえ……」
腹が減っていたことを思い出したため、わたしはマニアAのごぼうサラダを手づかみで食い、「それゆえ」の続きを話しはじめた。
「それゆえ、『基本的には』なのだ。ある種のシーンにおいては、やっぱり欧州車のほうがよかったりもするのだ」
……っていうか日本は100km/hまでしか出せねえし、新東名でも120なんだから、それって関係ねえじゃんと、マニアBが小さく言うのが聴こえた。わたしは再びBの頬を張り、言った。

「何か文句があるならテーブルに話しかけるな。わたしの目を見て言え。そしてキミに質問する。本当にキミは、日本国が定める速度制限をコンプリートリー、エブリタイム、シンシアリーに遵守しているのか? そこに例外はいっさいないのか? 『ない』というのであれば、謝罪しよう。土下座して。……どうなんだ!」
マニアBはそれに答えず、携帯電話をかけはじめた。わたしはマニアAの丼と箸を奪い、もぐもぐと食べながら先を続けた。
「まあキミも――おそらくだが――たまに速度超過はするのだろうが、基本的には法令を遵守している優良ドライバーなのだろう。わたしだってそうだよ。130とか150なんて『出したこともある・・・かも?』というだけで、普段は100とか、せいぜい110だ。それゆえ、そういった高速域を(若干だが)苦手としている――というかそこはあえて捨てて設計している国産車に対しての不満など、ほとんどない。不満があるのは……あ、すみません、水じゃなくてお茶いただけますか?」
そう店員に告げ、わたしは続けた。
「ずばりデザインだ。ここに関しては輸入車、特に欧州車に、いまだ一日の長があるように思える。わたしが乗っている現行型スバルXVは、スバル車としては奇跡的にグッドルッキンなエクステリアを有している。だがインテリアに関しては、正直きわめて微妙である。またスズキのスイスポも、内装のデザイナーをミラノかどこかで3年ぐらい遊ばせて、そのうえでデザインし直したほうが良いモノができるだろう。同じスズキでも、現行型ジムニーの内装デザインはほぼパーフェクトなのだがね……」

店員が持ってきてくれたお茶をひと口飲み、わたしはクロージングに入った。
「ということで、結論としては痩せてるほうのキミ、キミが言うとおり、わざわざ日本で輸入車を買う意味は今やあんまりない。だが『たまに』の超高速域と、デザインの面で、どうしても欧州車が買いたいと思う者を否定するのもまた間違っている。『あんまりない』と『ない』は、似てるように見えて、実は大きく違うものだ。
かく言うわたしも実は今、ローバー時代のミニを買おうかな? どうしようかな? なんて迷っているところだ。クラシックミニは走りもデザインも素晴らしく、そして唯一無二だからね。
とはいえ最近のマツダ車に乗るたびに、『内装デザインについても、国産車はもはや欧州車を超えたのかな?』と思わんでもないのだがね! うわっはっはっは! ……ところでキミ、そう、太ってるほうのキミだ。さっきから黙っているキミも、何か意見はないのかね?」

「……返せよ」
「はい?」
「……オレのねぎだく牛丼とごぼうサラダと、あと水とお茶! 返せよ!」
「もちろんだ。タダで食おうなどとは思っていない。勘違いさせたなら謝る。失礼した」
そう言ってわたしはテーブルに500円硬貨1枚を置き、店を出た。
背後から、マニアAが「足りねえよ!」と叫んでいる声が聞こえた。そして北西の方角からはパトカーのサイレンらしき音が聴こえてくる。おそらく、マニアBが携帯電話で呼んだポリスだろう。
わたしは走った。全力で。高速で。
[ライター/伊達軍曹]