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更新2020.08.21

「ポルシェ・ショック」で本当に人生が変わるのか

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松村 透

「ポルシェ・ショック」で本当に人生が変わるのか?幸か不幸か、本当に変わってしまった人間がここにいます。このような仕事をさせていただいているのも、もしかしたら、このときの原体験がきっかけなのかもしれません。

そもそも、筆者がポルシェ911に興味を持ったのは、スーパーカーブームの頃…ではなく、実はバブル絶頂期でした。ちょうど、930から964にフルモデルチェンジした時代です。

現在も発行されている、ある自動車雑誌の長期レポートの枠に、編集者の方が手に入れたという、新車(!!)の911ターボの記事を見つけたことがきっかけでした。



「ポルシェの神様」と呼ばれていた名メカニックの方とのエピソードや、マフラーの出口を黒ではなく、真っ白にする乗り方…慣らし運転ひとつでエンジンの回り方やパワーに差が出る…等々。他のクルマ雑誌では読んだことがないエピソードが満載だったのです。街中でポルシェを見掛けたことはあっても、当然ながら乗ったことはもちろん、触れたことなんて1度もありません。どういったことなのかを知りたくても、現在のようにインターネットで調べられる前の時代。教えてくれる人もいません。

当時、高校生でありながら「フェラーリに寄り添ってセクシーなポーズを取るお姉さんが表紙」の雑誌や、国産チューニングカーを紹介する雑誌などを、毎月のように買い漁っていました。前述のセクシーなお姉さんが表紙の雑誌を学校で読んでいたら、H本と勘違いされて担任の先生に没収されかけたのも、懐かしくもあり、恥ずかしい思い出のひとつです。

何とかしてポルシェに触れてみたいと思い悩む日々が続きました。そんなある日、いまでも付き合いのある幼馴染みが「地元の酒屋の社長さんがポルシェ持ってるよ」と教えてくれたのです。あとで知ったのですが、この社長さんが所有していたのは、930型の真っ白な911カレラ。コンクールコンディションと呼べるほど美しく磨き上げられた個体だったそうです。

その幼馴染みは前述の酒屋さんでアルバイトをしていて、仕事のあとにときどき社長さんのポルシェに乗せてもらっているというではありませんか!そこで幼馴染みに頼み込み、社長さんを紹介してもらいました。その後、ご縁あって、この酒屋さんでアルバイトとして採用してもらえることとなりました。

「これでついにポルシェに乗せてもらえるかもしれない…」。そんな淡い(邪な?)期待を抱いていた矢先、アルバイト先の社長さんがそれまで乗っていた911を手放してしまったというのです。目の前に近づいてきていたポルシェ体験が一気に遠のいたかに思えました。詳しく伺うと、前述の930型の真っ白な911カレラを手放して、新しいクルマを購入するというではありませんか。今度ディーラーに行くから一緒に来る?と誘ってもらったときは、さすがに冗談だろうと思いきや…。

それから数日後、休日にディーラーに行くよと連絡があり、本当に連れて行ってもらえることになりました。まさかの急展開で、当時正規ディーラーだったミツワ自動車に行くことになったのです。人生初の「ガイシャディーラー」がよりにもよってあのポルシェかよ…。自動車ディーラーにもほとんど行ったことがなかったので、それがいきなりポルシェとは、あまりにもハードルが高すぎます。一体どんな服装で行けば良いのだろう…。当時はやっていた紺ブレを着た方がいいのかな…等々、いまだにあれほど外出時に着ていく服に悩んだことはありません。

ディーラーに到着すると、敷地内は(当たり前ですが)ポルシェであふれています。街中でたまに見掛けるようなポルシェが、ここには何十台も置かれているのです。どうなってるんだここは…。頭がくらくらしつつ、おそるおそる店内へ。とんでもなく豪華な店内かと思いきや、クラシカルな印象のショールームに、少しだけほっとしました。

アルバイト先の社長さんとガッチリとした体型のセールス氏が談笑している隣で、筆者はほぼフリーズ状態。明らかに場違いなところへ来てしまった…。妖艶なショールームレディが差し出すディーラー物(?)のコーヒーを出されても、味わう余裕なんてまったくありません。ここはポルシェのディーラー。本来であれば、自分のような子どもが入ることのできない場所なのですから。

そのうちセールス氏が「せっかくだからポルシェ乗ってみる?」と促してくれたのです。ああ、ついにこのときが来た。とうとう憧れのポルシェに乗れるんだ。デモカーの仕様はいまでもはっきりと覚えています。1992年式の911カレラ2(964)MT。ボディカラーはルビーストーンレッド。こんなボディカラーのポルシェを颯爽と乗りこなす女性がいたら、目で追ってしまいそうです。

何しろまだ高校生ですから、もちろん運転はさせてもらえません。一緒に連れて行ってもらっていた幼馴染みとじゃんけんした結果、筆者は911の「あの後部座席」に座るはめになりました。ドアノブに手を掛けて開けた瞬間、まるで金庫のドアを開けたかのようなガッチリとした手応えに驚きました。ドアを閉めてみると、勢いが足りなくて半ドアに。そこで今度は思い切り閉めたみたら、クルマが横揺れしそうなほどの勢いになってしまいました。素人丸出しです。

ドライバーはディーラーのメカニック氏。「では、行きまーす」といいつつ、ひょいと左足を上げてクラッチミートしたかと思いきや、ものすごい勢いでディーラーを飛び出していきます。

背後で吠える空冷フラットシックスエンジン。横断歩道のわずかな段差がはっきりと伝わってくる乗り心地。いままでに乗せてもらった、どのクルマともまったく違うフィーリングに一瞬で魅せられてしまいました。その後、ブレーキテストを兼ねて、交通量の少ない場所でABS体験。急加速後に、ブレーキペダルを蹴飛ばす勢いでフルブレーキ。後部座席に座っていた筆者は、そのあまりに勢いに助手席のシートの背面に頭をぶつけました。まさに噛みつくように効くブレーキ。

何もかもが異次元の体験でした。あれから20年以上経ってもこれほど鮮明に覚えているくらいですから、これは一生忘れないかもしれません。しかし、まさかこのときの体験をこうして記事にすることになろうとは…。

初体験の記念にと、当時のラインアップのカタログをいただきました。併せてプライスリストも。見てみると、911のなかではもっとも安いカレラ2(MT)でも軽く1,000万円オーバー。あれこれとオプションを追加していったら、あっという間に1,200〜1,300万円の世界です。いったい、何をどうやったらこんな高額なクルマが買えるようになるんだろう…。その日の晩、枕元にポルシェのカタログを置き、何度も何度も読み返した記憶があります。

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▲1992年モデルのプライスリスト

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▲あまりにも分不相応ですが…このときから「将来、何とかして買えないか」と本気で悩みはじめました。困ったものです…

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▲1992年モデルなので、カレラRS(964)もリストに掲載されていました。エアコンすら装備されないベーシックモデルがオプションで選べるのは、メタリックのボディカラーのみという潔さ!

後日、社長さんの911が正式契約となり、おおよその納車日が決まりました。自分のクルマでもないのに、わくわくしたことを思い出します。

そしてある熱帯夜の夏の夜、ついにその日がやってみました。筆者が偶然アルバイトとして出勤していた日に、純白の911がやってきたのです。

覚えている限りの仕様は、
・1992年式ポルシェ911カレラ2(MT)
・色:グランプリホワイト
・内装:ブラックレザー
・スポーツシャーシ
・スライディング・ルーフ
・17インチカップホイール
・オンボードコンピュータ

こんな感じだったと思います。まさにいまでも人気の高い仕様です(果たして、この個体は日本にあるのでしょうか)。

さっそく試運転とのことで、助手席に乗せてもらいました。独特の内装の匂い。張りのあるシート。フロアマットには汚れひとつありません。ああ、どうやったら自分もこのクルマが買えるようになるんだろう…。身の程知らずもいいところです。

「ポルシェ・ショック」で本当に人生が変わるのか?触れることができたと思いきや、手に入れることは並大抵では実現できないことを痛感させられました。こうしてポルシェに出逢ってしまったお陰で、ここからさらに底なし沼にハマっていくことになるのです。それは別の機会に…。

[ライター・画像/江上透]

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