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更新2023.10.14

メーカーもカテゴリーも違うBMW・5シリーズ(E60系)とプジョー・406クーペの共通点と、その裏にあるドラマを伝えたい

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往 機人

■デザインで見るBMW・7シリーズ(E60系)の魅力とは?



以前に初代のZ4の魅力を伝える記事を紹介しましたが、私は、「クリス・バングル」がデザインの監修を務めたこの時期(2000年前後)のBMW車が大好きです。


そのなかでも、筆頭はダントツにZ4ですが、他にもZ8、コンセプトモデルのZ9などの伸びやかなシルエットがキレイなオープンシリーズもありますし、基本的なセダンの3/5/7シリーズも秀逸なデザインで仕上げられていて、それぞれに違った魅力を内包していると感じます。


そのなかでも、発表当時にかなりのインパクトを市場に与えたセンセーショナルなデビューを果たしたのが「5シリーズ(E60系)」です。当時デザインの勉強をしていた私も、「なんじゃこりゃ?!」と混乱をともなって受け入れられなかったのを覚えています。


そもそも5シリーズとは、BMWのラインナップのなかで、収益の中核に位置するモデルです。その当時の国産車で例えると、トヨタならマークII〜クラウン、日産ならセドリック/グロリアにあたるでしょうか。


そのため、それまでは保守的なデザインをあてがうのがセオリーでしたが、“鬼才”と呼ばれた「クリス・バングル」と当時のBMWの首脳陣は、“奇抜”とも言えるデザインで「5シリーズ」を市場にプレゼンテーションしてきたのです。


まず驚いたのがその顔つきです。デザイン誌の情報では「イーグル(ホーク)・アイ」というキャッチフレーズとともに、どう猛で精悍な印象の猛禽類の目のスケッチが添えられた5シリーズのヘッドライトのスケッチが、キービジュアルとして紹介されていました。


これがその下の「3シリーズ」ならまだ理解できたのですが、コンサバで高級路線を採っていた「5シリーズ」でそれを押し出してきたことが衝撃でした。


しかしそれから20年以上経った今でも、改めてE60の目つきを見ると、視線を留めさせられる何かを感じます。これほど印象を永く残せるデザインはけっして多くはありません。


そして全体的な造形とシルエットも独特です。角にエッジが効いたシャープな印象と、4本のタイヤを踏ん張って構えるようなフォルムが、床に伏せた肉食獣を連想させ、運動性能の高さを感じます。


これはあくまでもウワサですが、地面に向けて末広がり気味に集束するシルエットのイメージから、スターウォーズの「ダース・ベイダー」を裏テーマとして意識したのではないかという話が、まことしやかに伝わってきました。それ以降、黒いボディ色の車両を見ると、それにしか見えなくなったという話は余談すぎるでしょうか。


リヤに向けても非凡な造形が見られます。トランク部が盛り上がって段差を形成する「バングル・バット」と呼ばれるデザイン技法と、フロントマスクと呼応するイーグル・アイをモチーフとしたテールランプが見事に融合しています。


このE60の登場以降、「これ、どこかで見たな…」と感じるデザインを見掛けるようになりましたが、そのきっかけはこのE60にあるといっても過言ではないでしょう。


また、Z4と共通のイメージでデザインされたインテリアは、今見ると樹脂パーツの質感がチープに感じられますが、シャープな造形と機能的な印象が、紛れもないGTカーらしさを主張していて格好良いと感じます。


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■同じく、デザインで見るプジョー406クーペの魅力とは?



2000年くらいのある日、街を歩いていたときに視界の端に何かを感じて足が止まりました。気になる気配に目を向けると、そこにはわずかに緑掛かった水色のキレイなクルマが佇んでいました。
そのときは車名は分かりませんでしたが、あまりに印象的だったため、デジカメで写真を撮って後で調べてみたところ、「プジョー・406クーペ」だということが分かりました。
さらに調べると、その「プジョー・406クーペ」はピニンファリーナがデザインしたことが判明。その10年ほど前に発表された「ピニンファリーナ・ミトス」というコンセプトカーに感銘を受けていた私は、「やっぱりピニンファリーナのデザインは美しいな」としみじみ思ったものです。


参考までに、そのデザインと完璧な調和を見せていた上品なボディカラーの名前は「ハイペリオン・ブルー」と名付けられています。「Hyperion」とは、太陽と光を司るギリシャ神の1柱だそうです。


この「406クーペ」はその後に、「世界一美しいクーペ」と一部で最高の賛辞をもって評されるほど、そのスタイリングへの評価が高く、今でも根強いファンがいるようです。
この406クーペのデザインは、上で紹介したBMWのE60のように個性の主張がほとばしるインパクトのあるデザインとはまるで異なります。


凹凸の少ないなめらかな面と、優しい形状のランプ類やウインドウのグラフィックで構成されていて、特徴的な部分を見付けるのが難しいタイプの仕上がりだと思います。


個人的に思うこの406クーペのデザインの注目すべきところを挙げると、見事な調和でまとまった流麗な面構成のフォルムでありながら、角度を変えて見ると、実にさまざまな表情の違いが現れてくるという点でしょう。


例えば斜め前からの視点に限ってみても、少しかがんでライトと同じ高さで見たフォルムと、すっと立って高い位置から見たフォルムでは、そのカタチの印象がかなり変わって見えることに驚くでしょう。


むしろその突出した部分を感じさせないということが、このデザインの最大のポイントだといえますが、それでいて極めて美しいという印象を抱かせるようにデザインをまとめるのは、デザインを極めたいと思う者にとってはひとつの到達点です。


ひっそりと静けさを感じる佇まいなのに、じわじわと心に染みて忘れられない存在感を残すこのデザインは、ピニンファリーナのなかでも、きっとベテラン的な人が手掛けたのだろうと思っていました。


■この2車種をデザインした「ダビデ・アルカンジェリ」の非凡な足跡



さて、わりと関係性の薄そうな2つの車種について魅力を紹介しましたが、実はこの2つの車種のデザイナーは同じ人なのです。


そのデザイナーというのが、イタリア人の「ダビデ・アルカンジェリ」です。1970年生まれとのことなので、プジョー406クーペのデザインを手掛けたと思われる1990年代前半でははまだ20代の半ばです。


当時でも創業70年以上を誇る老舗であり、フェラーリのほとんどの車種のデザインに関わってきた世界的に有名なカロッツェリアである「ピニンファリーナ」に、純粋に実力で入社した逸材です。


学生時代に描いたスケッチがピニンファリーナのスカウトの目に留まって青田買いされたという話もありますので、天才、もしくは天賦の才能を持った人だといって良いでしょう。名前からして美に愛されていると感じます。


そんな彼が高名なカロッツェリアでウデを磨き、いくつかの車種のデザインに携わった後、406クーペのデザイン創作に関わります。さすがに途中経過の細かい部分は分かりませんが、結果として最終デザインを任せられ、後に高い名誉を得るほどのすばらしいデザインを完成させました。


そのすぐ後に、BMWへデザイン主監として招かれる「クリス・バングル」の目に留まり、新生BMWのプロジェクトチームの一員として引き抜かれます。


そこで、上で紹介したもう1台のエポックメイキングな車種、「BMW・5シリーズ(E60)」のデザインを手掛けることになります。


すでに「プジョー・406クーペ」というすばらしい結果を残した彼ですが、そのすぐ後に、とても同じ人が発想したと思えないほどガラッと作風を変えたE60のデザインを生み出してしまうのですから、天才のジャンルに入れたくなるのも分かります。少なくともこの時期の彼は、脂が乗りきっていたといえるでしょう。


プジョーに引き続き、BMWでもすばらしいものを残しましたが、彼はその実車を見ることはありませんでした。


デザインが最終段階に至ったタイミングで急逝してしまったのです。急性白血病でした。


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■「フェラーリ・360モデナ」、「ホンダ・アルジェントヴィーヴォ」など、「ダビデ・アルカンジェリ」の作品を振り返る



私が特に感銘を受けた車種は前述の2種なのですが、彼がピニンファリーナ在籍中に創り出したすばらしいデザインは他にもあります。


そのひとつは「フェラーリ・360モデナ」です。こちらの発表は1999年なので、406クーペの後で関わったモデルということになります。


フェラーリとしては入門モデルとなるV8エンジン搭載のシリーズで、「フェラーリ・F355」の後継機です。エンジンは名称が表すように3.6リットルのV8(約400馬力)で、それをミッドシップに搭載する2シーターです。


そのデザインの特徴は、女性の身体を思わせるふっくらとした起伏が特徴的なフォルムです。その面の表情に合わせて、ライトやダクトの形状は女性のネイルをモチーフにしているそうです。


注目はボディサイドに鋭角に走るキャラクターラインです。これが直線的に引かれることで、柔らかいだけではない緊張感のある雰囲気に仕上がっています。


ちなみにこのときのピニンファリーナのチーフデザイナーは、日本人の奥山清行氏。日本人で初めてピニンファリーナのチーフデザイナーに就任したとして有名です。


彼の著書のなかに、その時一緒に働いていたアルカンジェリとのエピソードが書かれているそうです。


そしてもうひとつ、面白い存在が「ホンダ・アルジェント・ヴィーヴォ」という車種です。


「argento vivo(水銀)」というネーミングが象徴する、アルミをポリッシュ仕上げしたボンネットとトランクハッチの有機的なつるんとしたフォルムが特徴のコンセプトカーです。
発表は1995年の東京モーターショーなので、デザインをおこなっていたのは1990年代の初頭でしょう。アルカンジェリはまだ20歳そこそこだったはずですが、ホンダの要望を盛り込みながら、しっかり強い主張を秘めたショー映えするデザインを創り上げる手腕は、年齢を考えると驚異的です。


ちなみにそのとき同じホンダブース内には、後に「S2000」として発売される「SSMコンセプト」が展示されていました。こちらは日本人デザイナーによるものですが、かなりアヴァンギャルドなデザインだったので、もしかしたらアルカンジェリにも少なからずインパクトを与えたのではないかと想像します。


こうして「ダビデ・アルカンジェリ」の手掛けたデザインを並べてみると、いかにすばらしいものだったかが実感できると思います。そして、後世に大きな影響を与えたことは間違いないでしょう。彼が生きていたらどれほどの作品を残したかと考えると、惜しい人を亡くしたと深く思わされます。


■確実にカーデザイン史に残る車種なのに、市場価格は意外とリーズナブル?


さてもう一度振り返って、今でも根強くファンが残っている「BMW・5シリーズ(E60系)」と「プジョー・406クーペ」ですが、その魅力的なデザインとは裏腹に、中古車としての市場価格が思いの外低いということはご存じでしょうか?


「20年以上前の輸入車なんだから当然」と言われてしまえばその通りなのですが、間違いなくカーデザインの歴史に残る車種が、国産の軽自動車並み、またはそれ以下の価格で購入できるのは嬉しいことであり、その一方で少し切ないと思う部分もありますね。


[ライター・往 機人 / 画像・BMW・PEUGEOT・Ferrari・pininfarina]

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