
コラム
更新2020.02.26
「空冷911バブルとは何だったのか?」の問いに、私(伊達軍曹)的にはまだ終わっていないのだ!

伊達軍曹
特にやるべき仕事もなくひたすらヒマなため、自宅縁側にて飼い猫のノミ取り作業に専心していると、玄関の呼び鈴がリンッと鳴り、紺色の制服に身を包んだ男が「郵便で~す、速達で~す」と叫んでいる。
速達郵便が来る予定などないはずだが、「はっ。もしや面識ゼロなブラジル在住の大富豪な親戚が亡くなり、その遺産をなぜか小生に相続してほしいという旨の連絡だろうか?」と思ったわたしは、胸踊らせながら玄関へと小走りで向かった。
すると果たして速達郵便はブラジルの伯父さんからではなく「外車王SOKEN編集部」からで、あからさまに落胆しながら開封すると、便箋には以下の趣旨の文言が書かれていた。
「空冷911バブルとは何だったのか? そして今後、空冷911の中古車相場はどうなるのか? それを2000字ほどでまとめよ。謝礼はいちおう支払う」
わたしは「……ふざけるな!」と吠えたうえで便箋をビリビリに破り、狭い庭へと放り投げた。猫が、驚いて隣家の庭へと逃げていった。

わたしが吠えたのは、謝礼の額が明記されていなかったから――ではない。
「空冷バブルとは何だったのか?」という一文にぶちきれたのだ。
「何だったのか?」ということは、「空冷911バブルはもうすでに終わっているのだが」と言っているに等しい。
とんでもない、いわゆる空冷911バブルはまだぜんぜん終わってなどいない! というのがわたくしの見立てであるからして、わたしは怒り心頭に発し、便箋をちぎって庭に投げ捨てたのだ。
だが2、3分ほどしてやや冷静になると、「そう言われてみると、『空冷911バブルは終わった』という見方もできなくもない」ということに思い至り、そして同時に金額は不明だが「謝礼」もいちおういただきたいと強く希求したため、わたくしは風に舞った便箋の欠片を拾い集めた。そして四畳半の和室にある木製の机に向かい、ぺんてるの筆ペンを手に取った。
以下はその日、外車王SOKEN宛てに書いた手紙の写しである。
--------------------------------
拝啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
さて、お問い合わせの「空冷911バブル」についてですが、小生は今のところ下記のような存念を抱いております。
それすなわち、バブルというのは「完全に終わってから」初めてそれが認識され、そしてネーミングされるものだ――ということです。
たとえば1980年代末期のことについて、世の中では「バブル」としばし呼びますが、それはアレがその後完全に破裂し崩壊したから「バブル」と呼ばれるようになっただけです。当時大学生だったわたくしは「単なる好景気」と認識しておりました。
そして本題の空冷911相場でございますが、相場の高騰は、わたくしに言わせればまだぜんぜん終わってはおらず、むしろ今後また平均プライスは上がっていくであろう……というのが、わたくしが科学的に導き出した結論というか推論でございます。
確かに、おっしゃるとおり「アホほどの高騰」は確実に収まった気配は感じています。
世の中がみんなアホだった3年ほど前は、取るに足らないティプトロの964カレラ2(走行8万km)みたいな個体ですら、平気で「車両価格800万円」ぐらいの強気プライスが付いておりました。

しかし昨今は、そういった「取るに足らないティプトロ」はおおむね500万円とか550万円、あるいは600万円ぐらいというニュアンスまで下がっております。
さらに海外で開催されているセレブ系オートオークションを見ましても(いや実際に現地で見たわけではなく、無料のネット記事を読んだだけですが)、決して「取るに足らないティプトロ」ではない「超希少モデル」の相場も、ずいぶん下がっているようではあります。
具体的な金額はよく存じませんが、「1億円が5000万円ぐらいになった」みたいな感じだそうです(念のため申し上げますが、今出した数字はテキトーでございます)。
そういった諸々の事実をベースに、貴編集部は「空冷911バブルとは何だったのか?」と、それが既に終息した事象であるかのごとき物言いをなさったのでしょう。
それは確かにそうなのかもしれません。ですがあいにくわたくし個人は、そうは思っていません。
だって考えてもごらんなさい。
今はなき名作空冷エンジンを搭載したポルシェ911の人気というか需要が、今後減じることがあるでしょうか? まるでローバーMGFの中古車のような二束三文の値で環八沿いの中古車屋さんの屋外にて叩き売られ、それでも買い手が付かない日が、いつかやってくるでしょうか?
あるはずがございません。くるはずもございません。
なぜならば、「状態のよろしいフルノーマルな空冷911の一台や二台を、ぜひとも手に入れて飾りたいものだ。わはは」とかブランデーを呑みながら思っている富豪な車趣味人というのは、日本に何人いるかはわかりませんが、地球規模すなわちグローバルで考えれば「腐るほど」いらっしゃいます。
そして空冷ポルシェ911は今後、まるでトヨタのランクル70みたいに新車が「限定再生産」されたりするでしょうか?
……これについては確定的なことは言えませんが、まあ99%ないでしょう。
そして最後になりますが、いわゆる良質な中古空冷911の流通量は今後、増えるでしょうか? 減るでしょうか?
これも100%断言することはできないのですが、まあ普通に考えて減っていくでしょう。時間の経過とともに。
以上の事柄を冷静かつ科学的に検討しますと、答えはもうひとつしかないわけです。
それすなわち、「良質なフルノーマル車に関しては今後じわじわと、あるいは急激に、平均価格は上がっていく」

これは需要と供給の関係から言ってほぼ間違いのない結論です。じわじわ上がるのか、それともあるときぐわっと上がるのかは、わたくしにはわかりませんが。
そしてもちろんというかなんというか、上記に当てはまらない個体、すなわち「良質車でもなく、なんか変な改造も施されちゃってる個体」に関しては、さほど上がらないでしょう。
かといってローバーMGFみたいな二束三文になるとは思えませんが、まあじりじりと下がるか、あるいは今ぐらいの相場をしつこくキープするか……というのが、ボロい空冷911に対するわたくしの見立てでございます。
よく知りませんが「1億円の希少車が5000万円になった」的な事実や、「どうでもいいティプトロは安くなった」というミクロな事実をもって「空冷911バブルは終わった」と見ることも、できなくはないでしょう。
しかしマクロな目で見ますと、この手紙を書いております2020年2月21日は「空冷911バブル崩壊後のとある1日」ではなく、「半永久的に続く相場高騰の途中の、ちょっとした押し目の1日」なのであります。空冷911バブルが「終わった」と確実に認識できるのは、せいぜい人類滅亡の日の数日前ぐらい――なのかもしれません。
以上、ご質問の答えになっているかどうか甚だ不安ではございますが、一筆啓上申し上げました。また何かございましたら、速達ではなく普通郵便でけっこうですので、お気軽にお手紙ください。よろしくお願いいたします。
敬具
[ライター/伊達軍曹]
速達郵便が来る予定などないはずだが、「はっ。もしや面識ゼロなブラジル在住の大富豪な親戚が亡くなり、その遺産をなぜか小生に相続してほしいという旨の連絡だろうか?」と思ったわたしは、胸踊らせながら玄関へと小走りで向かった。
すると果たして速達郵便はブラジルの伯父さんからではなく「外車王SOKEN編集部」からで、あからさまに落胆しながら開封すると、便箋には以下の趣旨の文言が書かれていた。
「空冷911バブルとは何だったのか? そして今後、空冷911の中古車相場はどうなるのか? それを2000字ほどでまとめよ。謝礼はいちおう支払う」
わたしは「……ふざけるな!」と吠えたうえで便箋をビリビリに破り、狭い庭へと放り投げた。猫が、驚いて隣家の庭へと逃げていった。

わたしが吠えたのは、謝礼の額が明記されていなかったから――ではない。
「空冷バブルとは何だったのか?」という一文にぶちきれたのだ。
「何だったのか?」ということは、「空冷911バブルはもうすでに終わっているのだが」と言っているに等しい。
とんでもない、いわゆる空冷911バブルはまだぜんぜん終わってなどいない! というのがわたくしの見立てであるからして、わたしは怒り心頭に発し、便箋をちぎって庭に投げ捨てたのだ。
だが2、3分ほどしてやや冷静になると、「そう言われてみると、『空冷911バブルは終わった』という見方もできなくもない」ということに思い至り、そして同時に金額は不明だが「謝礼」もいちおういただきたいと強く希求したため、わたくしは風に舞った便箋の欠片を拾い集めた。そして四畳半の和室にある木製の机に向かい、ぺんてるの筆ペンを手に取った。
以下はその日、外車王SOKEN宛てに書いた手紙の写しである。
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拝啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
さて、お問い合わせの「空冷911バブル」についてですが、小生は今のところ下記のような存念を抱いております。
それすなわち、バブルというのは「完全に終わってから」初めてそれが認識され、そしてネーミングされるものだ――ということです。
たとえば1980年代末期のことについて、世の中では「バブル」としばし呼びますが、それはアレがその後完全に破裂し崩壊したから「バブル」と呼ばれるようになっただけです。当時大学生だったわたくしは「単なる好景気」と認識しておりました。
そして本題の空冷911相場でございますが、相場の高騰は、わたくしに言わせればまだぜんぜん終わってはおらず、むしろ今後また平均プライスは上がっていくであろう……というのが、わたくしが科学的に導き出した結論というか推論でございます。
確かに、おっしゃるとおり「アホほどの高騰」は確実に収まった気配は感じています。
世の中がみんなアホだった3年ほど前は、取るに足らないティプトロの964カレラ2(走行8万km)みたいな個体ですら、平気で「車両価格800万円」ぐらいの強気プライスが付いておりました。

しかし昨今は、そういった「取るに足らないティプトロ」はおおむね500万円とか550万円、あるいは600万円ぐらいというニュアンスまで下がっております。
さらに海外で開催されているセレブ系オートオークションを見ましても(いや実際に現地で見たわけではなく、無料のネット記事を読んだだけですが)、決して「取るに足らないティプトロ」ではない「超希少モデル」の相場も、ずいぶん下がっているようではあります。
具体的な金額はよく存じませんが、「1億円が5000万円ぐらいになった」みたいな感じだそうです(念のため申し上げますが、今出した数字はテキトーでございます)。
そういった諸々の事実をベースに、貴編集部は「空冷911バブルとは何だったのか?」と、それが既に終息した事象であるかのごとき物言いをなさったのでしょう。
それは確かにそうなのかもしれません。ですがあいにくわたくし個人は、そうは思っていません。
だって考えてもごらんなさい。
今はなき名作空冷エンジンを搭載したポルシェ911の人気というか需要が、今後減じることがあるでしょうか? まるでローバーMGFの中古車のような二束三文の値で環八沿いの中古車屋さんの屋外にて叩き売られ、それでも買い手が付かない日が、いつかやってくるでしょうか?
あるはずがございません。くるはずもございません。
なぜならば、「状態のよろしいフルノーマルな空冷911の一台や二台を、ぜひとも手に入れて飾りたいものだ。わはは」とかブランデーを呑みながら思っている富豪な車趣味人というのは、日本に何人いるかはわかりませんが、地球規模すなわちグローバルで考えれば「腐るほど」いらっしゃいます。
そして空冷ポルシェ911は今後、まるでトヨタのランクル70みたいに新車が「限定再生産」されたりするでしょうか?
……これについては確定的なことは言えませんが、まあ99%ないでしょう。
そして最後になりますが、いわゆる良質な中古空冷911の流通量は今後、増えるでしょうか? 減るでしょうか?
これも100%断言することはできないのですが、まあ普通に考えて減っていくでしょう。時間の経過とともに。
以上の事柄を冷静かつ科学的に検討しますと、答えはもうひとつしかないわけです。
それすなわち、「良質なフルノーマル車に関しては今後じわじわと、あるいは急激に、平均価格は上がっていく」

これは需要と供給の関係から言ってほぼ間違いのない結論です。じわじわ上がるのか、それともあるときぐわっと上がるのかは、わたくしにはわかりませんが。
そしてもちろんというかなんというか、上記に当てはまらない個体、すなわち「良質車でもなく、なんか変な改造も施されちゃってる個体」に関しては、さほど上がらないでしょう。
かといってローバーMGFみたいな二束三文になるとは思えませんが、まあじりじりと下がるか、あるいは今ぐらいの相場をしつこくキープするか……というのが、ボロい空冷911に対するわたくしの見立てでございます。
よく知りませんが「1億円の希少車が5000万円になった」的な事実や、「どうでもいいティプトロは安くなった」というミクロな事実をもって「空冷911バブルは終わった」と見ることも、できなくはないでしょう。
しかしマクロな目で見ますと、この手紙を書いております2020年2月21日は「空冷911バブル崩壊後のとある1日」ではなく、「半永久的に続く相場高騰の途中の、ちょっとした押し目の1日」なのであります。空冷911バブルが「終わった」と確実に認識できるのは、せいぜい人類滅亡の日の数日前ぐらい――なのかもしれません。
以上、ご質問の答えになっているかどうか甚だ不安ではございますが、一筆啓上申し上げました。また何かございましたら、速達ではなく普通郵便でけっこうですので、お気軽にお手紙ください。よろしくお願いいたします。
敬具
[ライター/伊達軍曹]