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更新2016.06.28

インターネット黎明期にやってきた1965年式ポルシェ911は「時をパスするもの」だった

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ryoshr

仮ナンバーを持って、まず最初に行ったのは、横浜中華街にある運送会社の代理店。そこで荷物(コンテナ)を受け取るための書類を発行してもらう。次に本牧の税関へ。クルマ本体や部品の個人輸入をした友人たちが数人一緒に来てくれてあれこれアドバイスをしてくれる。相談窓口では優しく教えてくれるので、大体言われた通りに記入して書類の作成は完成。消費税(当時、たしか3%)を支払って「通関許可書」(受取時に必要)と「通関証明書」(車検の時に必要)をゲットした。

※前編となる「今から20年前。カナダから1965年式のポルシェ911を個人輸入した時のことを思い出してみる」はこちら

ここまでは非常に順調。本牧の税関の公衆電話から倉庫会社へ念のため電話をしてみた。

筆者:「今、通関が終わったんで車を取りに行きたいんですけど」
倉庫会社の女性:「予約されてます?」

筆:「え”っ」(予約することを知らなかった)
倉:「前日までに予約されてないと荷物出せませんよ」

筆:「それ知らなかったんですけど・・・。」
倉:「もしかして個人の方ですか?」

筆:「そうです。しかも初めて。」
倉:「・・・。とりあえず来てください。場所はD突堤のオフィスセンターです。来るとき通関許可証のコピー取ってきてください。」

税関の相談窓口でコピーをとらせてもらい、D突堤へ向かった。

筆:「さっき電話した個人の者ですけど・・・。」
倉庫会社のおやじ:「ちょっと書類見せて。」

通関許可証を差し出す。

お:「あんた、コンテナごと持って行くんだよね?」
筆:「はぁ?」

お:「ここの"Type of Service" の欄に"CY-CY" って書いてあるだろ。これはあんたがコンテナごと持って行くってことだよ。」

筆:「そ、そうなんですか?今日、車乗って帰るつもりで仮ナンバーも持ってきてるんですけど。」
お:「あちゃー。それだと、コンテナ動かして、開けてってのを頼まなくちゃいけないから何万もかかるよ。どうする?」

筆:「どうするっていわれても・・・」
お:「何とかしてみるから、午後イチでもう1回来て」

筆:「よろしくお願いします」

ちなみに"CY-CY"とは…

「コンテナヤードにトラックで行ってコンテナごと受け取り、別の場所でコンテナを開け荷物を出す。その後、コンテナをコンテナヤードへ戻す」という運送契約のこととのこと。

コンテナを開けて、車を倉庫(車庫)に入れておいてもらい、乗って帰るサービスの事は"CY-CFS"と言い、料金体系が違って少し高いということだった。そんなん知りませんもん。

午後イチ倉庫に行くと、しばらく待たされたあと、さっきのおやじが手招きする。

お:「普通はね、コンテナ移動代金と荷役作業で合計3万9千円の料金かかるんだけどね、今、荷役の大将に頼んでおいたから。」
筆:「はぁ。」(まだ事態を把握していない)

お:「とりあえず、来て」

と言われ、ビル横のコンテナヤードへ行く。応援団の仲間も一緒に行く。そこには20フィートコンテナが既にポツンとひとつ置かれていた。

お:「あれだよ。でね、荷役の大将に5千円だけ握らしといて。」
筆:「はぁ(まだ理解できない)。で、さっきの3万9千円は?」

お:「それはいらないよ。大将に5千円握らせるだけでいいから。こっちは書類書くの面倒だから、適当にやっておくよ。」
筆:「あ、ありがとうございます。」

荷役の大将のおじさんに5千円にぎらせる。すると、大将が指示して何人もの人がそのコンテナに集まる。バール持って来たり、スロープをフォークリフトで持ってきたり。

コンテナが開く。赤いテールが見える。あぁ、本物だ。ポンコツでもない。やっと来た。埃はかぶってるけど、なんとかよさそうだ。多分、一生で一番ドキドキした瞬間だったと思う。

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タイヤを固定していた角材をはずし、運転席に座る。応援団に押してもらってコンテナから出す。全体が見えた。んー。ボディーの下の方はいたるところで錆びが進行していて、塗装が浮いている。大きいやつは15cm×15cmくらい。

にきびもあちこちにある。まぁ、この程度はしょうがないか。フロントフェンダーのドアのつけね付近は左右とも盛り上がっている。左リアは継ぎ足した形跡もある。老化の進行は想像以上だった。

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応援団がガソリンを買ってきてくれたので、少し入れた。バッテリーの端子をつなぎ、乗ってきたクルマとジャンプケーブルでつなぐ。キーをonにする。クックックと電磁ポンプの音がする。アクセルを踏んでキャブにガソリンを送る。キーをひねってセルを回す。クランキングさせながら、「かかってくれ」と念じる。最初はガソリンがまだ行ってなかったようで初爆が起こらない。しばらくアクセルを踏んで何回かチャレンジしたところでエンジンがかかる。あぁ、いい音だ。そう、この音がする車が欲しかったんだ。エンジンは調子がすこぶるいい。とても30年前のエンジンとは思えない。ギャラリーの応援団や荷役のおじさんたちからも「おぉぉ」と歓声があがる。

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仮ナンバーをつけて家まで自走できそうなので、このまま行くことにした。ギアはほんとうにぐにゃぐにゃ。どこに入っているのかわからない。2速は入るのも抜くのも渋い。でも、エンジンは調子がいい。第三京浜で少し速度を上げてみた。サンルーフから入ってくる背後のエンジン音、キャブの吸気音で、それほどのスピードではなかったが、多分すっごくニヤニヤしていたと思う。

今のようなインターネットもなかったし、個人間の取引も整備されていなかった時代にいくつかの困難を乗り越えて入手したクルマの価値はクルマそのものの価値の数倍に値すると、今さらながらに感じている。

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今ならどうだろう、と20年経って考えてみる。やはり、Facebookで写真をたくさん共有してもらって細部まで確認すると思う。そして、あのときのあのサビなら、相場よりもすこし安く叩いたと思う。送金に関しても、クルマを受け取るまでは半分以上は払わないと思うし、何かのサービスを使って詐欺に合わないように策を講じたに違いない。言い換えれば20年前のインターネットは物凄く牧歌的だったということになるかと思う。

既にこのクルマは友人の手に渡り、ピッカピカにレストアされ、都内を走っている現役だ。そのクルマの歴史を理解してくれている新オーナーには感謝している。

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